5-8:ナイガラ攻防編8
その後、色々と注目を集めてしまったのと、一部問題が発生したので急ぎ行政府に戻ることになりました。
あたしは、急いで持ち物を確認して、いつもの装備に変更しました。
はぁ、よかった、やっぱりこの装備の方が遙に落ち着きますね。まぁ当たり前なんですけどね。
とても、ゴスロリ服を着る趣味はありませんよ。
それで問題と言うのは、あたし以外のユーナさんと、エリーティアさんの事なんですけど、ちょっと困ったことが発覚しました。
「うわ~~ん、装備の外観が変更されてるよ~~」
最初に騒ぎ出したのはユーナさんでした。
「え?あら、ほんとだわ。着替えたわけじゃなかったのね」
そう冷静にコメントします。
何が言いたいのかといいますと、お二人は装備を着替えたわけじゃなくって、装備の外観が変更されてしまったのだそうです。それぞれの防具のステータスはまったく変わらずに、外観だけ魔女ッ子服や競泳水着?になってしまったみたいです。
「外観変更アイテムを使っちゃったんですか?」
確か、MMO時代には課金アイテムで外観変更アイテムが存在してました。それぞれ1個1000円くらいだったのですが、学生が買うには躊躇する金額ですね。
それと、あたしがそれを買わなかった理由はもう一つあって、どれもちょっと特殊なネタ外装ばかりだったんです。それこそ女性キャラはスクール水着やセーラー服、男性キャラは詰め襟学生服と縞々の囚人服とかでした。わざわざ買いたいと思うものではないですよね。でも、あれが実装された時は見渡すとまわりはセーラー服を着たキャラで溢れていましたよ。実装が発表されたときには運営の感性を疑いましたが、実装後はプレイヤーの正気を疑ってしまいました。しかも、メイン装備の外観を変更したツワモノもいましたし。
「ちがう~~、わたしこんな外観変更アイテムなんて持ってなかったもの!」
涙目で訴えてくるユーナさんが更に叫びました。
「わたしの本気装備がネタ装備になっちゃったよ~~~」
その叫びが聞こえた途端、周りで吹きだすような、又は堪えるような微妙な音が響きます。
「みんな酷い!この淫乱装備の元は鳳凰シリーズなんだから!」
その発言を聞いた途端、今度は更に多くの人が、別の感じで噴き出しました。
そして、あたしも愕然としました。
「な、なんでそんな装備着けてたんですか!それ、レア中のレアじゃないですか!」
「知らないよ、いつでも変更できるようにアイテム枠にわ入れてはいたけど」
「むぅ、その装備のDEFはいくつなのか興味あるな」
「長老のスケベ!興味があるなんって!」
「嫌、ユーナ、お前今意図して一部を聞こえない振りしなかったか?」
「スケベ!」
あの、痴話喧嘩されても困るんですけど。
奏功しているうちに、エリーティアさんが居酒屋の親父さんを連れてきました。
相変わらず魔女ッ子衣装のままです。
「ねぇ、今聞いてきたんだけど、外観変更の原因はキュアリーさんっぽいわね。わたし達が酔って騒いでいる時に何かを言いながら次々に外観を変更してったみたい」
エリーティアさんの言葉に、ユーナさんがギギギって音が聞こえて来そうな感じでこちらを振り向きます。
「えっと、ユ、ユーナさん何かな?なんか目つきが怖いんですけど」
「キュアリーさん・・・・早く戻してくれる?まさか戻せないなんて言わないよね?」
えっと、何も覚えてませんって言い辛い状況です、ユーナさん目が据わっちゃってますもん。
「あ、その、ほら外観変更アイテムあたし持ってないよ?でも、アルルさんだったらきっと持ってるよ?」
「駄目!長老のはキワモノばかりだから!アプサラスセットなんて使われたらあたし死ぬよ!」
「な、なぜ知ってる!誰にも持っていることを言ったことはないんだぞ」
アルルさんが動揺しています。
でも、アプサラスセットって、あれを買ったんですか!
あの、運営が煽りに煽った天女セットという名のスケスケセットを!限定100セット、価格2万円してませんでした?
アプサラスセットは当初は価格が高すぎるという理由で倦厭されたのですが、それを着せたキャラクターの姿を見た人たちが一斉に購入に走ってあっというまに完売したといういわくつきの物です。
ちなみに、その装備を持っている人は女性から白い目で見られるというオマケ付です。
アルルさん、あんなの買ってたんですね・・・
あたしはちょっとアルルさんから離れました。そして、ユーナさんんも明らかに白い目で見てますね。
「いや、何を言ってるんだユーナ、わたしがそのような物を持ってるなど勘違いも甚だしい」
「颯さんに聞きましたよ?買ったは良いけど使う段階になってギルマスという立場的に使えなくなったって泣いていたって、それに、今自分で何故知ってるって自爆したでしょ!」
颯さんって確か初代推定淑女のサブマスターですよね?前に何回かお会いした事があります。
「ふ~~ん、で、それをイーナに着せたいの?」
エリーティアさんは更に爆弾を投下します。
「な、何を言ってるんだ!わたしはそんな邪な事は考えていないぞ!」
「あ、持ってるのは肯定なんですね」
あ、思わずあたしは突っ込みを入れてしまいました。
「いや、誰もそんなことは「ちょっとまった!」言ってないぞ」
「話が面倒になるから、とりあえず行政府に戻りましょう。これ以上騒ぎを大きくしたくないので」
周りのギャラリーが当初の倍近くに膨らんでいました。コヒナさんは、そのギャラリーを見回しながら提案をします。
「こ、この格好で戻るの?わたし着替えもってきてないよ!」
「大丈夫です、アルルさんのマントでしっかり隠していけばいいのです」
動揺するユーナさんを強引に説き伏せて、コヒナさんが周りの兵士に指示をだしてみんなで行政府へと移動をしました。
でも、コヒナさんがなんか別人みたいにしっかりしていますね?
◆◆◆
行政府の会議室にまたまた全員集合?です。
ユパさんもいますし、主要人物は一応揃っています。
「で?何があったんですか?」
ユパさんが、明らかに疲れたような溜息を付きます。今の今まで事後処理やらで執務室で書類の山に埋もれていたのを無理やりここに引っ張ってこられたんですからあたりまえですよね?
「まぁ、なんだ、とりあえずユーナとエリーティアを見てくれ」
ちなみに、ユーナさんは急いで着替えようとしたんですけど、証拠として着替えをさせてもらえませんでした。
コヒナさん鬼畜ですね!なんか飲み会不参加根に持ってない?
そして、エリーティアさんは、魔女っ子衣装をまったく気にしていないみたいで、ノリノリでギャラリーに手を振りながら行政府へと歩いてきました。
エリーティアさん、どれだけツワモノなのですか!
「はぁ、お二人ともこの忙しいときに何を遊んでいるんですか」
ユパさんは二人の格好をみて、更に溜息を重ねます。
「ちょっと!遊んでなんかいないって!好き好んでこんな格好しませんよ!」
「まぁ、それは置いといて、で、何があったんです?」
「いや、だからユーナとエリーティアの装備の外観が変更されたんだって」
「ほう、わたしはお二人を勘違いしていたようですね。まさか、そのような趣味があったとは」
「キャシャ~~~!」
もう言葉にもならずにユーナさんはユパさんに飛びかかりました。
「うわ!ユーナさん何するんですか!」
「フギャ~~~」
もう言葉になっていませんね。
「ユーナ!とりあえず人類に戻れ!」
アルルさんがユーナさんの首根っこを捕まえてユパさんから引き剥がします。
「フミャ~~~」
うん、まだ人類には遠いですね。
その後、ユーナさんを押さえながらアルルさんが状況を説明します。
「はぁ、なるほどそういう事でしたか。だいたい状況と原因はわかりました」
そう言うと、ユパさんはみんなを席につかせて説明を始めました。
「ようはキュアリーさんが原因という事で間違い無さそうですね。そして、今までキュアリーさんからお聞きしていた状況も考えると、どうやら意識をなくされた時に別の人格らしいものが現れている気がしますね。それがこの世界のシステム、又はデーターを書き換えている。まぁ推測ですので間違っているかもしれませんがね」
ユパさんの説明に、みんながどこかしら納得できる所があります。そして、あたしも納得できる気がします。
「まぁ試すのは簡単ですね、キュアリーさんに意識を失っていただければいいのですから」
にこやかに笑顔で物騒な事をいうのはやめて欲しいです。
「え~~っと」
あたしは、助けを求めて周りを見回そうとすると、ガシッっと背後から拘束されてしまいました。
「ふぇ?」
振り向くと、目をギラギラさせたユーナさんがいつの間にか背後にいます。
「ユ、ユーナさん?」
あたしが、視線を泳がせていると、エリーティアさんが何かを手に近づいてきます。その手にしっかりと持たれている物を見て、あたしは顔を引き攣らせました。
大吟醸 清酒エルフ殺し
「エ、エリーティアさん何ですかその物騒な名前は!っていうかそれどうするつもりなんですか!」
「え?これってエルフの森の結構有名なお酒らしいよ?アルルさんのお土産だから」
「エルフの森で何って名前のお酒造ってるんですか!」
目の前にニッコリ笑うエリーティアさんに、あたしは顔を引き攣らせながら抗議をします。そして、一升瓶の口が開けられた途端、強いお酒の匂いが漂ってきます。
うわ~~ん、もう駄目だ
そう思った時、ユパさんの声が聞こえました。
「まぁ冗談はそのあたりにして、スリープの魔法でも掛けてみましょう」
「「え?」」
あたしは、その言葉に一気に力が抜けました。でも、エリーティアさん、そこで疑問の声を出すっていう事はもしかしなくても本気でしたね!覚えていなさいよ~~~!
その後、みんな気を取り直してあたしにスリープの魔法を掛けます。
「スリープ!」
レジスト
「スリープ!」
レジスト
「あの、キュアリーさんもう少し気を楽にしていただけませんか?」
「あの、これ以上どうやって気を抜けばいいのかわかりません!」
「はぁ・・・・」
先ほどから、せっせとスリープを掛けられつづけているのですけど、レジスト率100%です。
「わたし、そんなにINT低くないんですけど」
エリーティアさんがちょっと落ち込んでいます。
「仕方ありませんね。キュアリーさん、これをお飲みください」
そう言って、ユパさんが何やら緑色の飲み物を取り出しました。
「あの、これって青汁ですか?」
あたしは素直に見たまんまの感想を告げます。
「いえ、これはこちらの世界の睡眠薬です。ねむれ草という草を煎じたまのですね」
「ねむれ草ですか、効きそうで効かなさそうな名前ですね」
あたしがそう感想を述べて苦笑しながらその液体を飲みました。
「あ、思ったよりほんのり甘くて美味しいです。でも、なんでこんなのを持ってるんです?」
「いえ、わたしの常備薬ですから」
ユパさんはまたもや苦笑しています。でも、睡眠薬を使わないと寝れないなんて大変ですね。
そんな事を思っているうちに、いつのまにか意識を手放していました。




