5-3:ナイガラ攻防編3
なんかやってしまった感が強いお話になってしまいました・・・
元々、想定していたんですけど、なんか書いているうちに斜め上の方に話が進んでしまいました・・・
次でとりあえず終わらせて・・・コルトの森に早く篭って欲しいと思う今日この頃・・・
あたしは、今にも振り下ろされ様としている剣を、見てエンジェルリングを唱えようとします。
でも、とても間に合いそうにありません。
「エン・・・」
ダメ、間に合わない!
あたしは、振り下ろされる剣を見て、呪文を唱えることも出来ず両手で頭を覆い、しゃがみ込もうとしました。
その時、横から体当たりをされて、地面に倒れこみます。
そして、剣の振り下ろされる軌道には、先程の魔術師の人がいました。
「ファイアーヴォール!」
突き飛ばした勢いから、自分の体をかろうじて剣の軸線からそらしていた魔術師の人は、自らの左足に剣戟を受け、その足を切り落とされました。それでも、魔術師の人は詠唱を止める事無く魔法を唱えきりました。
そして、その炎のカーテンに、攻撃してきた兵士が包まれます。
「アヅァ~~~」
火達磨となった兵士が、そのまま転げまわる傍らで、魔術師も大地へと倒れこみました。
炎のカーテンにて、一時的にあたしと魔術師は、攻撃者と距離を取ることに成功しました。
「あ、ヒール!」
あたしは、その魔術師に魔法を掛けます。でも、その魔術師の左足は出血は止まりましたが、切られたままの状態です。
「ナ、ナイガラへ向け道を作ります。逃げなさい」
顔じゅうに脂汗を流し、顔色も真っ青にしながら、その魔術師はそうあたしに告げると、魔法を唱え始めました。
「で、でも、貴方は!」
あたしが、そう聞き返しますが、詠唱に入った魔術師はただ、ナイガラの街を指差します。
「ファイアーストーム!」
そう唱えると、魔術師の前方に炎の竜巻が生まれました。そして、ユーステリアの兵士達を巻き込み、更に火力を増していきます。でも、その詠唱の為、先程唱えていたファイアーヴォールが効力を失います。
放たれた竜巻を避けようと、ユーステリアの兵士も、ナイガラの兵士も道を空けました。
「今だ!」
その鋭い叫び声に、条件反射的にあたしは飛び出していました。そして、エンジェルリングを唱えます。
「エンジェルリング!」
あたしを中心に、エンジェルリングが発動します。そして、包囲を抜け、あたしが振り返ると・・・そこにはユーステリアの兵士の剣に深々と貫かれた魔術師の人がいました。
あ、あ、あああ・・・・・
勝手なんだと思います。今まで、あたし自身が何人もの人を倒しています。実際に殺してしまった事を実感した事もありました。それでも、今、あたしを庇ってくれた人が死んでいくのを見て、衝撃が走りました。
あたしの周りでは、相変わらず攻撃が降り注ぎます。ユーステリアの兵士も、そして、おそらくナイガラの人もいると思います。
叫び声も剣戟も、全ての音があたしの周りから消えて、ただ、あたしの目には、剣を刺され、倒れていく魔術師の姿のみが映し出されます。
なぜ?・・・・なんであの人は死なないといけないの?
それを、戦争だからという人がいるかもしれません。運命だという人もいるかもしれません。あの人だって、他の多くの人を殺しています。
それでも、あたしの心の中で芽生えた思いは、理性を駆逐して、ただ感情をエネルギーとして燃え上がりました。
なぜこの人達は戦争を仕掛けてくるの?
異種族っていうだけでなんで殺されるの?
人族ってそんなに偉いの?
貴方達はそんなに素晴らしいの?
一つ一つの思いが複雑に絡み合います。
そして、その思いは自分にも向かいます。
あたしは、守られる価値があったの?
あの人の命以上に価値があるの?
あたしは、本当に助けることが出来なかったの?
逃げ出したんじゃないの?
そして、その次にあたしは、目の前で叫び、剣を振り下ろしている者たち全てが、とても醜悪なものに見えました。
醜い、あたしも、そして、勝手な思いで他人を手に掛けるこの男達全てが・・・・・醜い・・・
あたしが佇む間にも、次々と攻撃が降り注ぎます。そして、エンジェルリングもついに点滅を始めます。
そして、エンジェルリングが正に消えようかとした時、あたしは文字通り光に包まれました。
その、光は決して癒しに包まれた光ではありませんでした。
そして、公平でもありませんでした。
ある者は、傷を負った部分に光が溶け込み、次第に傷を治していくのを感じました。
ある者は、失った腕が、足が、光とともに再生していくのを感じました。
ある者は、その光で焼き尽くされるかのような痛みを感じました。
ある者は、光によって体中が切り裂かれるような痛みを感じました。
戦場の、すべての領域から、溜息と、痛みと、苦痛の呻き声が響き渡ります。
そして、今此処にいる者たちの頭の中に、声が聞こえます。
”神聖なる調停者”において地域的な改変指示を確認、強制変換を行います”
”変換項目は種族変換、種族変換に伴う領域ダメージ5%、ダメージ修復作業開始”
そして、光が収まった後、戦場に倒れた者たちは、震える手足を押さえながら立ち上がります。
そして、自分の目の前にいる者たちの姿を見て、驚愕の叫び声を上げました。
「ゴ、ゴブリン!」
「オークガナゼコンナバショニ!」
そして、自分の声の響きに驚き、自分の手足を見て驚き、絶望の悲鳴をあげます。
「な、何が起こったんだ・・・・」
「人が・・・魔物に・・・なった?」
ナイガラ軍の兵士達は、自分達以外の者達が魔物へと姿が変わったことに対して、戦闘を続ける勢いも無く呆然として立ち尽くしています。
そして、何時の間にか全ての人の視線が、戦場の片隅に立ち、未だに薄い光を放つ一人のエルフに注がれました。
すでに、フードは外れ、背後から大きく切り裂かれ辛うじて体に纏わりついています。そして、その下に身に付ける白銀の鎖帷子が、輝く光により輝きを増し、エルフ特有の怜悧な容貌が、まるで断罪を行う女神のように見えました。
”変換完了、該当領域において、調停者権限に基づき、指定対象に対し種族改変を終了いたします”
”領域ダメージ修復完了、修復に伴い世界規模におけるマナの流動を確認。特異点の発生を確認”
女性と思われる硬質のアナウンスは、あたしの口から紡がれ、戦場全体へと響き渡りました。
そして、あたしを覆っていた光が完全に消え、静かにあたしは大地へと倒れこみました。
騎馬部隊と戦っていたルンと、同じく戦いを続けていたヌイグルミ達が一斉に、あたしの周りに集まってきます。
「ヴォオオォォ~~~ン」
まるで、終戦宣言のように戦場にルンの遠吠えが響き渡りました。
ルンは、あたしの傍らで、心配そうにあたしの顔を舐め、静かに座り込みました。そして、油断無く周囲を睨みつけます。急いで駆けつけたコヒナさんに対しても、ルンはあたしに近づけようとしませんでした。
その後の戦場は、混乱に拍車がかかります。
戦闘は行われてはいません。でも、魔物へと姿を変えた者達は、ある者は逃げるようにこの場から立ち去り、ある者は自らの命を絶ちました。そして、それ以外の大多数の者達は、倒れ伏したあたしの周りに集まり、元の姿へと戻して欲しいと哀願します。
でも、気を失っていたあたしは、その光景を見る事無く、ルンとヌイグルミ達に守られ戦場にまだ倒れていました。そして、コヒナさんも、ナイガラの兵士達も、その包囲を割ってあたしに近づく事ができませんでした。
その為、ヌイグルミ達と、かつてはユーステリア軍の兵士であった者たちの間に、ナイガラの兵士達が壁になって立ちふさがるといった異様な光景が広がります。
ナイガラの街は、未だその光景に戦争が終わったと思っていないのか、門を硬く閉ざしたまま、誰一人街の外へと出てくる人はいません。
日が沈みかけた頃、ユーステリア軍の本隊を撃退してきたユパさん達の眼前には、魔物と、ナイガラ軍が静かに並んで座り込んでいる光景が広がっていました。
「なんですかこれは!魔物がなぜこれほど大量に現れたのですか!」
戸惑いながらも慌てて、魔術を織り成そうとするユパさんに、
「まって!彼らは戦闘をしていません!」
その言葉に、ユパさんは改めて戦場を見渡しました。
そして、呟きました。
「なんだ、この異様な光景は・・・」




