4-7:ナイガラ滞在編7
予定ではキュアリーちゃん活躍!だったのですけど・・・
予定は未定で確定ではないってほんとですね・・・
ユパさんの説明では、現在この世界では魔物の数が年々減少していってるそうです。
以前は、それこそ王都近郊においても魔物が多数存在し、騎士団も冒険者も活発に活動していたそうです。
魔物の減少が始まったのは、おそらく50年前なのではないかっというのがイグリアの見解みたいです。
ユパさん達ラブリーラビットのメンバーが転移してきた3年前には、すでに王都近郊においても魔物とは滅多に遭遇することが無くなっていたそうです。
(そういえば、こっちに来てから会った魔物ってルン以外は探知に引っかかった数匹だけだったなぁ)
あたしは、ユパさんの話を聞いて、こっちへ来てからの事を思い返しました。
ユパさんの話は更に進んで、この魔物減少の為に騎士団や冒険者の需要においても減少の一途を辿っているそうです。そして、これは産業にも大きな影響を与えました。
このナイガラにおいても同様で、魔物と戦う為に必要な武器や防具、アイテムなどの需要が激減し、その為、価格破壊に続き、失業、そして、更には盗賊や海賊の増加、治安の悪化へと繋がっていきました。
この事も、3年前の戦争の引き金の一つだと言われています。
魔物の被害が減少し、多くの人達が安全に暮らせるはずだったのに、逆にその事によって治安が以前より悪くなったそうです。そして、今までは魔物との戦闘において上がっていたスキルなどが上がらなくなり、兵士や冒険者の質の低下、そして、稀に現れる中級以上の魔物の出現においての被害の拡大など問題は山積しているそうです。
それ以上に、各国において国民の不満をどの様に解消するかが重要な課題となっています。この事において、ユーステリアは異種族の排斥、戦争の継続といった方法を取り入れていて、それが宗教にまで発展しているそうです。そして、宗教という見えない楔を各国に打ち込んでいっています、その影響力は、魔物の減少に比例して年々拡大していってるみたいです。
「まぁ魔物が減少していってる理由はまったくわかっていません。魔物の減少自体は、本来は良いことの筈なんですけどね」
ユパさんは苦笑を浮かべて説明してくれました。
「でも、それって商人にどう関わってくるんですか?」
「あぁ、それはね、それこそ需要と供給の問題なんだ。魔物が減って戦闘が減る。そうすると武器や防具の需要が減る。商人は儲からなくなる。でも、魔物はいない、それなら戦争を起こせば需要は回復する。簡単に言っちゃうとそういう事かな?」
あたしは、あまりに自分勝手な考え方に愕然としました。
「でも、それって許される事なんですか?」
「道義的に言えば許されないね。でも、商人が物を流通させてくれないと経済は成り立たない。だから、あまり圧力を掛けることができない。商人組合はある意味国の生命線を握っているとも言えるね」
「そんなぁ・・・・」
あたしが呆然としていると、ユパさんはすっごく黒い笑みを浮かべました。
「まぁそれはイグリア以外の国の実情とも言えるけどね。今、イグリアは新たな流通システムを作り出そうとしているから。ほら、あっちの世界にあった運送会社とかね。それ以外にも様々な改革を行い始めてる。始めてからようやく3年、まだまだ改革途上だけどね。そして、商人組合はそれが気に入らないんだろうね」
「それって、大丈夫なんですか?今の話だと、イグリア以外の国がみんな敵に回りそうな気がします」
「うん、まぁそれ以外も色々問題はあるんだけどなんとか頑張ってるってところかな?それこそ仲間がいるからね」
そう言ってユパさんはコヒナさんを見ました。コヒナさんはその視線を受けて笑顔で答えました。
あたしは、その二人の信頼関係を見て羨ましく感じていました。
「すごいんですね、みんな・・・・」
あたしの言葉に、二人とも笑いながらあたしを見ました。
「キュアリーさんはまだこれからですよ、まだ此処に来て間もないんですから。自分で今やれる事を頑張る、それだけですよ」
それがどれだけ大変な事か、あたしは知っています。あたしにはとてもそんな生き方はできない事を知っています。それを、こんな風に言い切れるってほんとに凄いです。
「さて、わたしはこれで行政府に戻ります。取り急ぎまず商人組合に対して何らかの対策を行わないとなりませんから。コヒナは引き続きナイガラの治安維持を御願いします。今回の件でしばらくは大人しくなると思いますが油断はできません」
「はい、商人組合への監視を強化します」
「よろしく頼みます。ユーステリアの動きが思いのほか早い気がします。もしかするとですが、我々が予想しているよりも侵攻は早いのかもしれません」
ユパさんは少し不安げな面持ちで、会議室を後にしました。
そして、あたしとコヒナさんも、少し不安を感じながらも、連れ立って騎士団の訓練場へ見学に行きました。
「今ここで訓練しているのは入団してから間もない人ばっかりだからね、はっきり言って役に立つか微妙なヒヨコさん達がほとんどです」
訓練場で剣を素振りしている人達を見ると、確かにまだぎこちない人達が殆どでした。
それでも20人くらいの人達が、掛け声をかけながら剣を振っている光景は活気を感じます。
「入団して1、2年の人はどれくらいの強さなんですか?MMOで1~2年っていうと相当強くなる気がするんですけど」
コヒナさんは、あたしの問いかけに苦笑しながら答えてくれます。
「MMOだとどういう時間の流れになってるのかね、あそこで訓練している人たちは冒険者ランクでいいとこEかDかな?まだまだ素人だから一人で何かさせるのは怖いね」
「さっきの武器屋にいた3人は?」
「あ、あの3人はもともとナイガラ騎士団にいたメンバーだね、それでもいいとこEかな?」
「でも、それだと防衛戦は厳しくなりそうね・・・・相手の兵士も同じくらいなのかな?」
「う~ん、あっちはもう3年も前から戦争を前提に鍛えてきてるかもしれないし。それに、宗教国家に近いからね、狂信者は怖いよ~。まぁ実際、装備で少しでもカバー出来るといいのだけど、それも覚束ないからね」
ちょっと不安げな顔をするコヒナさんにあたしは尋ねました。
「前にコヒナさんが言ってたけど、上級装備が出回ってないんだっけ?」
「うん、それだけじゃなくって上級になると装備の耐久回復ですら出来る人が少ないんだよね。親方だってLv50には届いてないからあたし達の装備は直せないって」
「え?でもLv50の人って王都にはいるのよね?」
「う~ん、残念ながら今の所イグリアでは聞かないかな~」
「え?そうなの?でも、転移組みで誰かいそうなのに・・・・」
「うん、他の国は良くわかんないけどドワーフが居ないっていうのが痛いよね。MMO転移組ってみんな効率重視の人ばっかりだったから鍛冶スキル持ちはみんなドワーフだったんだよね。あと、今イグリアにいるメンバーも鍛冶スキルは2ndのドワーフって人ばっかりだしね。一応、人族はLv50までスキルを上げれるから、うちのギルドで今せっせと育成してるんだけど、流石に優遇ないからマゾいよね」
その言葉を聞いて、あたしは自分のスキルLvを話そうか迷いました。
「あ、あのね、コヒナさん「うわぁ~~~!」・・・」
あたしが、コヒナさんに話し掛けようとした時、目の前で剣の訓練をしていた兵士が相手の剣を受け損なって倒れました。
「ちょ!ばか!何やってるの!」
コヒナさんは急いでその兵士に走り出しました。あたしも同様に走り出します。
「痛い・・・・痛い・・・・」
訓練場の柵を迂回して、倒れた人の所に辿り着くと、まわりは訓練していた人たちで囲まれていました。
「あなたたち邪魔!通しなさい!」
コヒナさんが人だかりを掻き分けてその倒れた兵士の所まで行くと、倒れているのはまだ15歳か16歳くらいの幼さの残る容貌の兵士でした。そして、その顔に脂汗を流しながら必死で自分の腕を押さえています。
「よかった、腕だ・・・」
コヒナさんがその様子を見てボソッっと呟いたのが聞こえてきました。
ここに駆けつけるまでの真剣な顔が緩んだかとおもうと、途端に怒ったような顔つきになります。
「邪魔だよ!ほら手をどけて見せてごらん!」
コヒナさんがその少年兵の手をどけて傷口を覗き込みます。そして、大きな溜息をつきました。
あたしは、咄嗟にヒールを掛けようとしたのですけど、その動作に気がついたコヒナさんに止められました。
「あのさぁ、良く見てごらん、痛いってそりゃ切られれば痛いさ。でもそんな傷でギャーギャー騒ぐな!」
あたしが、コヒナさんの肩越しに覗き込むと、左上腕のところに削ったような5センチくらいの傷がありました。それでも、切った感じではなく削ったような切り傷の為、結構な血がでています。
「で、でも・・・・痛いんです」
「はぁ・・・情けない・・・・キュアリーさん御願いしていい?」
「あ、はい、ヒール!」
回復魔法で怪我をした跡もなく傷が治ると、その少年兵は驚きの眼差しで自分の腕を見ていました。
「回復魔法ははじめてかな?でも、それくらいで大騒ぎしてたら戦闘なんてできないからね!」
コヒナさんは厳しい態度で叱責します。そして、先程の少年の動きを真似て何故怪我をしたのか、何が悪かったのかなどを丁寧に説明します。そして、実際に自分であればどのように対処するかなど実演を交えて説明されていました。
(う~~ん、これで本当に戦争なんか出来るのかな?これってすっごくピンチ?)
あたしは、その様子を見学しながらそんな感想を抱きました。そこで指導を受けている兵士達はみんなまだ若くって、そしてまだとても戦闘を行える様には見えませんでした。
少年達は、それぞれ一所懸命に訓練をしています。でも、それですぐに戦闘が出来るとは思えませんでした。
そして、そんな現状に強い危機感を感じました。
30分くらいかけて一通りの指導を終えたコヒナさんがあたしの方に戻ってきました。
「おまたせ~」
「お疲れ様!」
戻ってきたコヒナさんと挨拶を交わしながら、あたしは自分の抱いた危機感を伝えました。
「うん、まぁそれは仕方の無いことなんだろうね、わたし達だって、もし前の世界にいたようなスキルも碌にない状況で戦争ってなったら足手まといにしかならないと思うし」
「うん、それはそうかもしれない・・・ある意味こっちに来てからの自分は異常かも。すでに何人も人を殺して、それに対して動揺すらしてないもんね・・・」
「う~~ん、わたしは戦争経験者で、既に慣れちゃってるのかもしれないよ?でも、キュアリーさんのは多分まだ実感が湧かないのだと思う。だってさ、まだどっかゲームのような気がしてるでしょ?」
あたしは、まるで自分の心の中を言い当てられた気がしました。あたしは、こっちの世界に来ても未だにどこか現実に思えない自分がいるのを感じていました。
「あ、別に責めてる訳じゃないよ?こっちへ来た頃のわたしもそうだったんだ、だから何となく判る。今でもときどきそんな気持ちになる事があるからね」
そう言ってコヒナさんは微笑みました。
あたしは、コヒナさんの微笑みを見ながら、今自分に出来ることをしないと、そして、コヒナさん達と一緒に頑張ろうっっていう気持ちがジワジワと湧いてきました。
「コヒナさん、あたしがコヒナさん達の装備の耐久回復します。どこか空いている工房はありませんか?」
「え?だってキュアリーさんエルフだよね?」
「はい、でも鍛冶Lvは50+5までありますから、だいたいの装備は直せますから」
「え~~~なんでそんなにLv高いの!」
あたしは、驚いて声をあげるコヒナさんに微笑みました。




