4-4:ナイガラ滞在編4
なんか雲行きが怪しくなってきました。
誤字訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
「アルルさんいつ来たんですか?っていうかよく迷いの森から出れましたね!」
「わたしとて森から出ることはあるさ」
アルルさんの突然の登場にユパさんも含め皆驚いています。
会議室にマントをたなびかせてドカドカと入場してきたアルルさんは、ユーナさんと、先日の隊長さんを引き連れて空いている席に勝手に着席しました。
(相変わらず派手な登場ですね~)
アルルさんはただ歩くだけでもすっごいオーバーアクションなので周りの人は大変そうです。
「さて、諸君が何を悩んでいるのかは知らんが、今回の事は実に簡単な原因だ」
「貴方がわざわざ来たという事は、やはりエルフ絡みという事ですか?」
ユパさんは、わざわざアルルさんが此処に現れた事でそのように推察したみたいです。
でも、アルルさんはユパさん
「おお!わが妹よ、そんな所に居たのか、何やら迷子になっていたようだな報告を聞いて流石は妹殿と存分に笑わせてもらったぞ!」
満面の笑みであたしを見ながらアルルさんは言い切りました。
(えっ・・・あたしいつの間にアルルさんの妹になったんだろう・・・それに、その満面の笑みはあたしをからかってるんじゃ・・・・ないのでしょうねぇ・・・・)
あたしは、アルルさんを見ながらどっと疲れを感じました。
(悪い人ではないのでしょうけど・・・・・)
「えっと・・・・キュアリーさんはアルルさんの妹だったんですか・・・」
コヒナさんのちょっと同情するような眼差しを受けて、あたしは急いで否定をしました。でも、
「ふ、妹よ!何を照れることがある。わたしはお前がわたしの妹になった時を忘れたことは無いぞ!ふ・・・あの時のお前の色付いた頬、潤んだ眼差し、まるで昨日の事のように瞼に浮かんでくるわ!」
「えっと・・・それ毒電波だと思いますよ?妄想ですよ?そんな事実ありませんよね?」
あたしは、周りの痛い視線を浴びて必死に否定をします。でも、アルルさんは一向に正気に戻ってきてはくれません。
「ふ、今更何を照れるのだ!いつもの様にお兄ちゃんと呼ぶがいい!なんならお義兄ちゃんでもいいぞ!」
ドゴッ!
「キュゥ・・・・」
これ以上の暴走を止める為に、あたしは椅子から立ち上がって手に持ったメイスでアルルさんの後頭部を殴りつけました。
アルルさんは後頭部から血を流しながら机に突っ伏しました。
「ハァハァ・・・・・」
あたしは、乱れた息を整えながら周りの人たちを睨みつけました。
「あ・・・・えっと・・・・・とりあえずみんな落ち着こうか・・・・」
ユパさんはあたしから視線を逸らしています。コヒナさんはあからさまに怯えています。
「ん?コヒナさんさっき何か言った?あたし良く聞こえなくって」
「い、いえいえ、何も言ってません!」
「うん、そうよね~あたしの勘違いよね~」
コヒナさんはあたしの言葉に頭を縦に激しく振っています。
「あ~~、説明が途中だったというか、まったくされていなかった気がするのでわたしが引き継いでも宜しいでしょうか?」
ユーナさんが苦笑を浮かべながらあたしに視線を投げてきます。
「あ、はい。進めてください」
あたしは、ユーナさんに頷きました。
「では・・・・キュアリーさんがアルルの妹になった経緯ですが」
「「「「はぁ・・・・進めるってそっちの話?!」」」」
みんなの一斉の突っ込みにそれこそ満面の笑みを浮かべるユーナさん!
「いえ、まぁ冗談ですって!・・・キュアリーさんメイスは仕舞っておきましょうね?」
とっさに再度メイスを握り締めたあたしに、ユーナさんはウインクを返してきます。
(ユーナさんって実はとっても性質が悪いのかも・・・アルルさんの傍付してるくらいですものね・・・)
「さて、お遊びはここまでにして、真面目にお話を進めましょうか。今回の襲撃はユーステリアの浄化部隊で間違いはないと思います」
「浄化部隊?聞いた事がないですね」
テリアさんの言葉に、みんな同様の反応を示しています。
「人族の人は、まず関わりにならないですから。この部隊はユーステリアの人族至上主義を背景にしています。そして、人族以外の種族を粛清、世界を浄化するのを目的にした部隊です。まぁ簡単に言いますと、狂信者の集まりですね。わたし達エルフは今までに何度も戦ってますからまず間違いは無いと思いますよ?」
「む、しかし、イグリアには他の種族も居るが今まで特に聞いたことはないな。みんなはどうだ?」
「わたし達も初めてです。ただ、なんで殺されたのか判らないまま終わっているっていう事も多いのかもしれませんね」
「確かに否定できないです。今の襲撃だって理由までは聞かないと判らなかったと思います」
「ハイドの技術が非常に高いので用心は必要ですね。わたし達エルフは回りに木や草があれば不意を突かれることはまずないですけどね」
ユーナさんのその言葉に、あたしは先ほどの出来事を思い返しました。
(さっき、周りの雰囲気が変わったのはそういう事だったんだ・・・)
「さっき、キュアリーさんは事前に襲撃を察知されてました。あれってそういう事だったんですね」
コヒナさんもあたしと同じ事を思ったみたいです。
「まぁ通常だと1回撃退してしまえば対して問題は無いのですけどね、それぞれ単独PTで動いてるみたいなので、でも今回は災厄の地の事があるから、PTがその報告をしているかどうかで変わってきそう。わたし達も災厄の地の処遇を打ち合わせしたくて訪ねてきたんですしね」
「そうすると、今後の状況はまったくわからないって感じですか?」
「そうだね、まぁ災厄の地はユーステリアから見れば手は出せないとは思うけどね。ただ、手を出そうとすると間に迷いの森を挟む事になるから油断は出来ないけどね」
「それは、一応戦闘準備はしたほうが良いという事ですか?」
ユパさんは、あたしとユーナさんの会話の中で、不安を感じ取ったみたいです。
「さぁ?ただ、ここまで巻き込まれるような戦闘だと、それはもう戦争って言い換えても良いと思うけどね」
会議室にいる全員がその言葉に押し黙りました。
「これは、早急にナイガラの戦力増強を計らなければならないな、せめてBランカーの数は10人は欲しい」
「いや、それ以上に物流をなんとかしないとですね。いままでは良かったですが、今後を考えるとこの街の物流は弱すぎます。装備もそうですが、回復などの消耗品さえ碌にありませんから」
ユパさんの言葉に、すぐにテリアさんが言葉を足します。
冒険者向けの商品がほとんど扱われていないこの街が、もし戦闘に巻き込まれたら恐らく大変な事態になることは容易に想像がつきました。
「コヒナ、あなたは錬金を持っていましたね?」
「はい、前衛職ですからポーションとかは自給してましたし」
「では、あなたは街の錬金スキル持ちを纏めて各種ポーションの生産を取り仕切ってください」
「ダッグス、あなたには生産用の素材確保を御願いします。価格の統制も含め商人達に勝手にさせないよう目を光らせてください」
「了解しました」
「テリア、あなたは各種生産スキル所持者の把握を御願いします。スキル所持者の配置、スキルLvの適正な製作フォローを御願いします。
「わかりました、ただ、領主様は戦闘になるとお考えなのですか?」
真剣な眼差しで、テリアさんはユパさんを見つめます。
「ああ、恐らく戦闘になると思っている」
「それはなぜ?」
「私自身の勘、そして、そこで倒れているアルル(バカ)がわざわざここまで来たって事、まず戦闘になるだろうな、規模は判らんが小さくはないと思う」
静かに話す内容に、誰もがただの感と馬鹿にする事はできませんでした。ユパさんの表情がそれを許さなかった気がします。
「みんな悪いが早急に動いてくれ。あと、転移門の周りに厳重な警戒を付けてくれ、戦争のとき転移門をまず破壊するのは常道だ」
みんなは一斉に指示に従って会議室の外に飛び出していきました。あたしとアルルさん達エルフ組を除いてですけど。
「え~~っと、あたし達はどうしましょう?」
あたしは、まだこの部屋に残っているユパさん、ユーナさん、アルルさんに聞きました。
もっとも、アルルさんは未だにお休みになってみえますけど・・・
「そうですね、とりあえず立会人になっていただけると助かります」
「まぁ妥当な選択かな?エルフの立会人であれば長老も後でぎゃーぎゃー言わないだろうし」
「あの・・・殴っちゃったあたしが言うのも変なんですけど・・・起こさなくていいの?」
「ああ、構わない」
「話が終わってからでいいんじゃない?」
そう言って二人は本当にアルルさんを放置して打ち合わせをはじめました。
そして、その会話はあたしが思っていた以上に緊迫したないようでした。
「ほう、そうすると今回ユーステリアの目的は迷いの森の壊滅だと?」
「ですね、此処最近頻繁に森の周辺で火事やら侵入者やらが来てますしね。あれは恐らく事前調査だと考えています」
「それで、あなた方はなぜこの街に?」
「イグリアへ事前に忠告に来たっていうのもありますよ?ただ、今まで東側からの侵入を防いでくれていた災厄の地が無くなってしまったので、そちら側の状況の把握、それとそちら側にもしユーステリアが展開した場合にナイガラの部隊が当てになるかの見極めですかね?」
あたしは、その言葉に胸がドキッとしました。あたしが消してしまった呪いの為にエルフの森に迷惑を掛けてしまったかもしれないのですから。
「あの・・・浄化しないほうが良かったのでしょうか?」
あたしの言葉にユーナさんは笑って否定しました。
「ううん、悲鳴をあげていた大地が癒されたんだから、あたし達はすっごく喜んでいます。ただ、タイミングが悪かったって言うだけです。それに、ユーステリアごときに負けるエルフじゃありませんから」
「それは相手次第ですがね、被害規模はどれくらいと見ていますか?」
ちょっとユパさんを睨みながらユーナさんは話を続けました。
「それこそ相手の規模次第だけどね、最悪でも半数は生き残るって思ってるよ」
「半数・・・・」
その言葉に、あたしは背筋が凍る思いがしました。
長老・・・・あなた何しにきたんでしょう?




