4-1:ナイガラ滞在編1
なぜか目指す所に辿り着けないキュアちゃんです。
ここからしばらくはナイガラ中心での活動となります。
ご指摘ありがとうございます。役不足を変更しました。
ナイガラの街周辺は、近年は陸上においては魔物はほとんど出ない安全な地域でした。災厄の地と迷いの森、そして、コルトの森跡に囲まれていて、魔物がやって来づらい条件が合わさったおかげです。
この為、外部との交通や流通においては問題はあるのですが、住む人々は危険の少ない、穏やかな生活を送っていました。しかし、この為に騎士団においては経験を積む機会が少ない、また、冒険者達にとっては仕事の少ない場所となっていたのです。
それでも、今までナイガラに住む人々は、もしかしたらそうじゃないかな?っといった思いはあったのですが、生活に直面する事もなかったので放置してきました。又、外敵が少なく、魔物や魔獣対策に無駄な費用を費やす必要が無いため、税金も安く抑えられており、あえて税金を上げるような提案をする事をしなかったという側面もあります。
そして、この事は商業においても言える事でした。外敵が居ない、冒険者が来ない、この為、このナイガラの街では鍛冶、魔法具店など冒険者関連を扱う必要が無いため、あったとしても他の商売の合間に、店先の一角にちょっと置いてあるっといった扱いになっています。海上においてはまだ魔物が多く出没するのですが、あえて危険な海上を交易で使用する商人も居ないため、よりこのような状況が顕著になっていきました。
そして今回の事で、ナイガラの街では街を守護していた騎士団が、たった一人に壊滅させられた話題で大騒ぎになっていました。
街中でのやりとりなどでは
「なぁ、騎士団が壊滅したそうだぞ!」
「あぁ、騎士団の詰め所では今大騒ぎになってるらしい、店先から回復ポーションが軒並み無くなったって聞いたぞ」
「買っておいたほうがいいのか?うちにはそんな買い置きしてないぞ?」
「うちは嫁が4個買ってきたみたいだ、何かあったらってさ」
「うわ!うちも買っとくわ・・・とりあえず家族の人数分は確保しときたいよな」
「ああ、急げよ!もう売り切れしてる所が出始めてるらしい!」
「おう、ありがとうよ!」
◆◆◆
「ねぇ、街の騎士団が全滅したみたいよ?」
「えぇ、うちでも娘が慌てて帰ってきて教えてくれたわ」
「どうなるのかしら?危なくなるようなら食料とか買っといたほうがいいのかしら?」
「さぁ、でも用心しとくに越したこと無いわよね?」
「そうねぇ、ちょっと買出しにいきましょうか?」
「えぇ、急がないと売り切れるかもしれないし・・・」
などと言ったやり取りがそこかしこで行われていました。
一応、王都からラビットラブリー騎士団が来ているとの情報も出回っていて、暴動や避難など大きな動きは出ていないながらも、こういった事に慣れていない領民達は過剰な自己防衛に走り市場がより混乱をしていきました。
その頃、領主の館では街を統括している役人達からこのような騒ぎが起き始めているとの報告の元、対策会議が行われていました。
「えっと・・・・これって街の偉い人の会議なのよね?なんであたしが此処にいるのでしょう?」
あたしは、大きな会議室の中で、しかもどちらかと言えば上座に近い位置に座らされていました。
「いやまぁ当事者といえば当事者だし」
「それでも領地問題にあたしが関わるのはおかしくないですか?」
「まぁ率直に言えばキュアリーさんが此処にいるのはおかしいですね。ただ、現在情報を多少なりとも所有されている事で参加していただいているわけです」
あたしの疑問に対してユパさんが答えてくれました。ちなみに、ユパさんはあとから追加で20名の団員を連れてきています。
「さて、まずは会議の主題はなにになるのかな?」
あたしは、1番の上座に座っている方をみました。この人もユパさんと一緒に来られた人で、まだお名前すらお伺いしていません。ちなみに、団長さんは一番下座に、領主さんはあたしの横に座っています。
(これが序列って考えると遙さんはこの中で3番目に偉いことになるの?でも、領主さんが5番目で、あたしが7番目ってなんか変・・・)
あたしが、この場所にいる人達を見回して、改めて上座に座っている人を見ると、思わずその人と目が合ってしまいました。
ニヤリ・・・
(うわ~~~、笑いかけられたのに背中になにか冷たいものを落とされた気がした・・・・この人ってぜったいお近づきになりたくないタイプだ・・・)
あたしは、咄嗟に視線を逸らせて下を向いてそんな事を思いました。
「ドーベル、そうだ、何か意見はないのか、少なくともお前の領地だしな」
「は・・・・・その・・・・治安回復についてでは・・・」
「ほう、ナイガラの治安は悪いのか?それは由々しき事だな」
「あ、いえ、決して治安が悪いわけでは・・・・」
ドーベルさんはさっきの威勢もどこへやら、冷や汗をながしながら必死に話しています。でも、傍から見ても緊張でガチガチです。そして、それはあたしより下座に座っている人達にも言える事です。
「話にならん!ドーベル、お前は現状を理解できているのか?ナイガラなんぞ今はどうでもいい、今我々が問題にしているのは未確認の者達がこの近辺に出没している事だ!」
その言葉に、上座にいる人達はみんな頷きました。
「陛下、まずは何が起きているのか、何者が何を調べに来ているのかを知らなければ対策は練れませんが」
「そうだな、この地は今まではっきり言って今まではそれほど重要ではなかったからな」
「ですね~、陸の孤島って言っても良かったくらい使い勝手悪かったですからね」
ナンバー2さん?の言葉に陛下さんと遙さんが答えます。そして、その後揃ってあたしを見ました・
(あぅ・・・みんななんであたしを見るのですか・・・ぜひ、やめて欲しいのですけど・・・・)
「しかし、キュアリーさんが災厄の地を浄化した事が理由とも思えませんが?それにしては動きが早すぎます」
「うむ、しかしタイミングが良すぎないか?」
「いえ、ユパの言うとおりです。それ以外の原因が必ずあると思います」
「わたしもそう思います。それにまだユーステリアと決まったわけではありません」
(なんか遙さんが自分をわたしって言うの違和感ありますね・・・でも、このナンバー2さん誰なのかなぁ)
あたしは、そんな気持ちでナンバー2さんを見ていました。
「遙、ラビットから100名ほどをこの街に常駐させられるか?」
「ん~~出来なくはないですけど、質はどうします?」
「せめてランクAは2名ほど欲しいな、あとは任せるが」
「Aを2名ですか・・・・無茶言いますねぇ・・・現在うちで暇してるランクAなんていませんよ?」
「むぅ、しかし聞いている感じではランクBではリスクが高い気がします」
「遙、それならばいっそユパにこの地を任せるのはどうだ、どのみちドーベルでは今後の展開によっては荷が重そうだからな」
なんかとんでもない方向に話が進んでいく中で、突然の領主解任にドーベルさんが慌てて発言をします。
「へ、陛下!この地は代々わがドーベル家の者が治めておりました。と、突然の解任はしょ、承服致しかねます!」
発言をしたドーベルさんに一斉にみんなの視線が注がれます。
(うわぁ遙さん達の視線が怖いです・・・なんかすっごく冷たい表情・・・・。でも、たぶん今ってそういう状況じゃ無いってみんな思ってるんだろうなぁ)
みんなの視線を受けても、ドーベルさんは必死に陛下さんを見ています。
「ドーベル、今この地は危険にさらされている可能性が高い。皇帝としてこの地の危険を取り除く必要がわたしにはある。この地はユパに譲れ、その代わり王都そばの直轄地に領地を用意してやる、どうだ、嫌か?」
「お、王都近郊にですか!」
ドーベルさんは途端に顔を輝かせました。
(王都の近郊に領地を貰えるってそんなに嬉しいことなの?先祖代々の土地を捨てるほうがよっぽど悔しいと思うのに・・・)
あたしはドーベルさんの喜びように疑問をもちました。でも、会議はその後はそれ程揉めることなく進み、なんとユパさんがこのナイガラの新領主になっちゃいました。しかも、爵位は伯爵だそうです。
(うわ~~、ユパさん大出世?でも、遙さんはギルドメンバーが抜けちゃうよね?どう思ってるのかしら?)
あたしは、それとなく遙さんを見ましたけど、その表情からはぜんぜん解りませんでした。
「さて、最後にキュアリー殿の処遇ですな」
「へ?」
あたしは突然のご指名にすっとんきょな返事をしちゃいました。
「う~~ん、キュアリーさんはエルフの森の守護下にもありますから勝手にこっちでどうこう出来ませんよ?」
「ん?そうなのか?」
「はい、先日正式にアルルから迷いの森のエルフの兄妹として認められてます」
「むぅ、先を越されたか・・・・」
「わたしが先日王都を抜け出したのもキュアリーさんの勧誘の為でした。残念ながら振られましたが」
遙さんは、笑いながら先日の出来事をみんなに話しています。
「ふむ、推定淑女と取り合いか、それはまた・・・・」
「まぁ付き合いで行けばあっちに敵わないので、先に到着するように小細工したんですけどね、それでも失敗しましたけど」
陛下さんも遙さんも笑いながら話しています。
(うぅ聞いているこっちの方が神経すりへるよ、これ・・・)
あたしは、冷や汗を流しながら会話の進む方向を気にしています。
「世情がどう動くかわからないからな、特にコルト方面も情報が無いだけに危険かもしれん。キュアリー殿、良ければしばらくこのナイガラの街に逗留してもらえないかな?ユパが領主になる事でもあるし、当面ユパを助けてやって欲しい。こっちの勝手な要望で申し訳ないが、考慮いただけると助かる」
ナンバー2さんがあたしに提案してきました。
「あの、その前にお名前をお聞きしてもよいですか?」
(この人もきっと有名人なんだろうな・・・・誰かな?)
あたしが、そんな気持ちで聞くと、思いもよらないお名前が聞けました。
「おっと、これは失礼、イグリアで宰相をしておりますレン・バーシャです。」
「・・・・え?・・・レン・バーシャさんですか?」
「はい、おそらく貴方が思い描いたレン・バーシャで間違いありません」
「で、でも・・・その名前ってMMO時代のNPC、スキルマスターの名前ですよ?」
「ははは、みんな驚くのですが、わたしはこれでも100歳は超えてますから」
「だね、この外見でこの人曾孫までいるのよね・・・しかも、奥さんまで外見かわんないし!」
「え?奥さんいたんですか?そんな設定初めて聞きました」
「うん、いたんだよね~しかも、NPC人気ナンバー1のクエスト受付嬢セレナさん!」
「そうそう、ムッチャショックだったよな~あれ、俺信じられなかったって。皇帝なんかになったのも、その怒りを他にぶつけたって所がでかいぞ!」
「いや、それもどうかと・・・・」
「だよね~~~」
ゴホンッ!
なんか陛下さんまで混じってとんでもなく話題が盛り上がってきた所で、突然大きな咳払いが聞こえました。
それは、眉間に明らかに筋を浮かばせているレンさんでした。もう怒り満点って感じですね。
「えっと・・・・ごめんなさい」
「すまん・・・犯罪者」
「ごめんね、ロリコン」
「レン、すまん」
あたしと、ユパさん以外はなんかぜんぜん反省していない気がする返事です・・・
「とりあえず、話を戻しますが状況が読めない。この為、不確定要素の強いキュアリー殿には安全も考慮してこのナイガラの街で状況確認が終わるまで滞在していただきたい。よろしいですね?」
(う・・・・なんかさっきよりすっごい怖い微笑みです・・・)
あたしは思わず首を縦に振ってしまいました。あれは仕方ないですよね、ほんとに怖かったのですから。
「ありがとうございます。それでは、われわれは早急に王都に戻って体勢を整え、部隊をこの地に送ります。ユパはこのままこの地で体勢を整えてください。それと、偵察部隊の編成はまかせますが、くれぐれも油断なきように」
レンさんは話を一気に纏め上げて、会議は終了しました。
ちなみに、あたしは領主の館の中に滞在する事になりました。
「なんか変な事になってきたよね、ルン」
「ヴォン!」




