3-20:ナイガラの街2
投稿が遅くなってしまいました・・・3日も間空けるのは初めてです。
もう少し小まめに書きたいですが、しばらくはまだ不定期になりそうです。
誤字及び介護を介抱に変更しました。
ご指摘ありがとうございます。
突然、現れた遙さんにびっくりしながらも、あたしはこれでこの混乱が収まるってホッとしました。
あたしは、足元に倒れている領主さんを無視して、遙さんの所まで行きました。
ルンはあたしの後に付いてきます。でも、遙さん達には今まで以上に警戒しているみたいです。
「ルン、大丈夫だよ、知ってる人達だから」
あたしは、低く唸り続けているルンの背中を、優しく撫でつづけました。
「遙さん達はいつここに来られたんですか?」
あたしは、興味深そうにルンを見ている遙さんに尋ねました。
「あ、つい今さっき、なんかナイガラの街に凶悪な魔獣使いが現れてナイガラの騎士団が壊滅したって言われてね・・・・・まぁ間違いではないみたいね」
周りに倒れている兵士達を見て、遙さんは嬉しそうに言います。
「えっと・・・ちょっと行き違いがありまして・・・・でも、遙さんなんでそんなに嬉しそうなの?」
「え?うん、ここの騎士団って口ばかりで前から気に入らなかったのよね~~いくら人が忠告しても聞かないしね、まぁ領主共々だけどね」
(うん、なんとなく遙さんの言いたいことはわかるなぁ・・・)
あたしは、そんな思いで倒れている人達を見回しました。
「ねぇキュアちゃん、そんな事よりその子ってルーンウルフでしょ?どうやってペットにしたの?MMOではペットシステムってなかったよね?馬はあったけど」
「あ、この子は別にペットという訳ではなくって・・・・友達?」
「ヴォン!」
あたしがルンに聞くと、ルンが返事をしてくれました。
「いいなぁ・・・・あたしも魔獣ペットにしたいなぁ・・・・ちょっと頑張ってみようかなぁ・・・」
(う・・・・遙さんはすっごくやる気になっているみたい・・・下手するとペットになるまで魔獣狩り続けそう・・・)
あたしは、良い事なのか、それとも悪いことなのかわからない複雑な気分で話をしていました。
遙さんと話をしていると、足に何かが当たりました。それで、下を見ると先ほどの領主さんが倒れています。
「そういえば、この領主さんはいいの?一応偉い人なんでしょ?」
あたしが、領主さんを指差して聞くと、
「あ、いいのいいの、そいつはいっつもあたしらの事ブラディー、ブラディー五月蝿いから、何回言っても治んないんだよね、まぁ殴りすぎてもう治んないのかもだけどね~」
そういうと、遙さんはケラケラと笑います。でも、目が笑っていません。
(う、拙いこと聞いちゃった?なんか冗談で済まない気がする・・・)
あたしは、ちょっと焦りながら、急いで話題を変えました。このまま話を進めると、とんでもない地雷を踏みそうな気がしたんです。
「あ、あそこの倒れている兵士さん達どうしましょう?なんかもうぐちゃぐちゃになってしまって、つい魔法で黙らせてしまいましたけど・・・・」
「う~~ん、まぁそれはこの街の人たちにさせるわ、特に命にどうこうする人はいないでしょ?」
あたしが頷くと、遙さんは後ろの人に指示を出しました。
その後、街の中から複数の人が出てきて、それぞれ倒れている人を介抱始めたので、とりあえず安心しました。
あたし達は、その後の状況を確認して、ひとまずゴタゴタが収まったと判断してから街の中へと移動を始めました。ちなみに、結局兵士の誰一人として気絶から復帰した人はいませんでした。
(この街って、あんな騎士団で大丈夫なの?MOBの相手もぜんぜん出来なさそうな・・・)
なんか街の人たちがすっごく気の毒になりました。
「あ、領主とその団長は館に連れてってね、あたしらも行くからさ」
遙さんは領主さんと団長さんを馬車に乗せている人にそう指示をします。
「さて、まずは領主の館で後始末をしますか、キュアちゃんもお手数だけど付き合ってくれない?」
「あ、わかりました」
あたし達が、街中に移動を開始すると、各所で指示を出していたラビットラブリーの人達が戻ってきました。
「団長、キュアリーさんの連れているルーンウルフはどうします?」
「あ~~大人しいからうっかりしてたわ、拙いかな?」
「どうでしょう?キュアリーさんがそばに居れば問題ない気はしますが、っていうかそれしか方法がないと思いますけど」
「そだね~~~」
遙さん達の会話に、あたしは何かルンが問題になっている事に気がつきました。
「えっと、やっぱり魔獣は街に入れたらいけないのですか?」
あたしの言葉に団員さんは複雑な顔をしています。
「う~~ん、いけないって事はないんだけどね、ただ、住民は怯えるだろうね」
「でも、確かに大きいですけど、外見は犬ですし・・・」
「う~~ん、キュアちゃん、ルーンウルフってどれくらいの強さだったか覚えてる?」
「え~っと中の上か、上の下くらい?」
あたしの言葉に遙さんは大きく頷きます。
「だね、それでね、そのクラスの魔獣になると普通の兵士では倒せないんだよね、それと、気がついてないみたいだけど、その子の威圧感は半端じゃないよ?」
「威圧感ですか?・・・そんなの出てます?」
「まぁその子と同Lvの強さがあれば気にならないのだろうけど、一般の人は怖くて近寄れないかな?」
「でも、ルンは大人しいです。それに、外見は大きな犬と変わらないのに・・・でも、小型犬でも駄目って人もいますからしょうがないですよね」
「大きな犬ねぇ・・・・」
「まぁ確かに大きいですね・・・・」
(ちょっと大きすぎるかなぁ・・・・)
みんなの反応にあたしはルンを眺めました。ルンはあたしの視線を感じると嬉しそうに尻尾をぐるんぐるんします。
「まぁ・・・確かに可愛いわね・・・・・・いいなぁ・・・・欲しい・・・・」
遙さんがまた、ブツブツと呟き始めました。
その後、ルンはあたしの傍に居る事を条件に街中に入りました。
「領主の館は基本的に街の中心にあるから覚えておくといいよ、MMOでは無かったからね」
(そういえば、領主っていう概念はなかったかも?)
あたしが、みんなの後について行くと街の中央広場の先に大きな屋敷がありました。
(あ、ここが領主の館なのかな?)
あたしがそう思ってそちらに向かおうとすると、みんなはその屋敷の隣にあるちょっと大き目の家にぞろぞろと入っていきました。
(あれ?領主の館ってそっち?)
その家に入っていくと、先に運ばれていた領主さんと団長さんが床の上に寝かされていました。
(え~~~っと、せめて床ではなくってソファーとかベットに寝かせてあげようよ・・・・・)
あたしはなんかちょっと哀れに思えてきます。そして、遙さんがメイドさんみたいな格好をしたおばさんから水の入ったコップを2個受け取りました。そして、徐に二人の顔にその水をぶちまけました。
「うわ!なんだ!」
「ゴホゴホゴホ・・・・」
飛び起きて、顔の周りの水をぬぐいながら、二人は周辺に目を向けます。
「な!いつのまに来たんだ遙!」
ゲシッ!
遙さんの足の裏が団長さんの顔面にヒットしました。
そして、団長さんは顔面を押さえてウンウンと唸っています。
「呼び捨てにするな馬鹿!」
(遙さん・・・・なんか怖いです・・・)
「な、何を・・・・って・・・なんで館にいるんだ?」
領主さんは状況が掴めていないようです。
(まぁあそこで殴られて気絶してましたからねぇ・・・・・)
そんな様子を眺めていたら、二人の視線があたしに止まりました。
「「あ!」」
二人は揃って叫ぶと、団長さんは剣を探して視線を彷徨わせ、領主さんはなんと遙さんにしがみ付こうとしました。もちろん、遙さんに蹴り飛ばされましたけど。
「あんたたちねぇ、前から言ってるけどさぁしっかり確認してから動きなさいって!二人ともまずはそこに正座しなさい!」
遙さんの怒声が飛びます。
「いや・・・俺は脛当て付けてて正座できな「うるさい!さっさと外せ!」いん・・・・」
団長がもぞもぞと脛当てを外している傍らで、領主が正座させられます。
脛当てを外した団長さんもそれに続きました。
「俺達、街を守ろうとしたのになんで正座させられるんだ?」
「わたしは、なんか理不尽な攻撃を背後から受けたきがするんだが・・・」
恨めしそうに遙さんを睨む二人を無視して、遙さんはいつの間にか右手に棒をもって看守のように二人の周りをぐるぐると回ります。
「あんたたちさぁ、自分達が何をしでかしたか判ってない様ね」
キョトンとした顔をする二人に淡々と説明をします。
「まずはいったい何を根拠にこの人を攻撃したのか説明してごらん?」
遙さんは二人に極上の氷の微笑を浮かべます。
なんか二人は陶然として見とれているようです。
(この人達・・・・なんか変!なんであんな怖い笑顔で陶然となれるの!)
あたし以外にも、ラビットラブリーの人達や、他の人達は明らかに引き気味です。顔を引きつらせてます。
(みんなが引き気味なのはどっちに対してなのかな?遙さん?それともこの二人?)
あたしは、相変わらず当事者にも関わらずそんな事を考えていました。
「えっと・・・凶悪な魔獣使いが現れて、プードル以下10名ほどが確認に向かったと、それで・・・俺にも遅れて情報が来たので、残ってた奴らを引き連れて俺も街から飛び出したら目の前に魔獣を連れていた奴がいた。で・・・・プードル達が殺られたと判断して・・・・」
(なんか、遙さんの周りの空気がどんどんと下がってきてるような・・・・・笑顔なのに・・・・)
「で、そっちは?」
「わ・・・私は・・・目の前で騎士団が全滅したから・・・・」
「ふんっ!どうせそんな事だろうさ!あのさ、まずこの人はあたしのフレで凶悪じゃない!で、あんたの騎士団はいつもの様に自分達の会話に熱中して仕事放棄してただけ、簡単にいうと勘違い、早とちり、冤罪!わ・か・る?」
「え、いや・・・遙のフレだから凶悪じゃないっていうのは・・・・」
「ふ~~~ん、言いたい事はそれだけ?ドーベル、あんたは何か言う事ある?」
「わ、私は状況を判断して適切に対応を行っただけだ!」
「ふ~~~~~~~~ん・・・・・まぁギリギリ適切と言えなくは無いかもだけどね・・・・城門の上から馬鹿な事ほざいてなければ!」
「とりあえず、今回の事の顛末は陛下に報告させてもらうから。危うく、罪も無い人を殺しかけましたってね」
「い、いや・・・それは・・・・その・・・・」
「だ、大事にならなかったんだし・・・そこはなんとか・・・・」
陛下がよほど怖いのか、その言葉で二人は真っ青な顔で遙さんに懇願しています。
「あんた達いい?まじめにキュアちゃんじゃなかったら殺されてたよ?そこの所わかってる?しかも、それを団長自らが行いそうだった・・・笑えないね~~~しかも、それを揉み消せって?」
(うん、不正はいけませんよね、襲われたあたしが言うのもなんだけど、あれはなんとかしないと・・・)
「うん、あれは洒落にならない。こっちの言う事をまったく聞かないで斬りかかって来たし。このままあんな事を許してたら絶対に事故が起きるよ!」
「ヴォン!」
(今まで会話に入っていなかったのですけど、当事者としては言う事はいわないと!)
そう思って発言したら、ルンもちゃんと応援してくれました。
(やっぱり頭がいいなぁ・・・・)
そう思ってあたしがルンの頭を思わず撫でていると
「だいたい、その犬はなんなんだ!そもそもの発端はその犬じゃないか!」
「そうだよ、俺達悪くないって!魔獣なんか連れてるこいつが悪いんだって!」
領主さんがルンを指差して叫びます。団長さんはあたしを指差します。
「普通魔獣の確認に行った部下がいなくてさぁ、魔獣居たら殺られたって思うじゃんか!」
「だよな~あっちが悪いよな!」
なんか二人とも言いたい放題です。
(この人達何勝手な事を・・・殺されかけたこっちが何で悪い事になるのよ)
あたしは、静まりかけていた怒りが再燃しました。
「遙さん、この人達黙らせていいですか?」
あたしは、じっと二人を睨み付けて言いました。
「あ~~、そうだね~~、まぁ殺さない程度にならお好きに?」
「はい・・・」
あたしが近づくと、二人は途端に冷や汗を流し始めます。
「大丈夫ですよ、死に掛けてもヒーリングで治しますから・・・・何度でも・・・」
あたしは、手に持ったメイスを振り上げながら伝えました。
◆◆◆
一騒動が落ち着いて、あたしは遙さん達とのんびりと紅茶を飲んでいます。傍らにはルンが貰った牛の骨に齧りついてます。
「で、変なのに襲われたんです。なんかイグリアの名前を出してたんですけど心当たりあります?」
あたしが、昨日の夜にあった出来事を遙さん達に伝えました。
「う~~ん、死んだはずの死体が消えたっていう事は、おそらくどっかの国の諜報部隊か秘密部隊だね。でも、イグリアではないと思う。言い切れないけど、たぶんユーステリアの連中っぽいけどなんとも言えないな。それよりも問題は何をしてたかなんだけどね」
「ですね、それになんであたしを攻撃してきたかなんですよね、負けるとは思ってなかったと思うんですけど、それにしても旅人一人攻撃するメリットはないですよね?ましてや、察知してたとはいえ、相手を認識したわけじゃないし」
あたし達はそんな話をしていると、あたしの後ろの方から何か聞こえてきます。
「ごめんなさい・・・反省してます・・・」
「許してください・・・・もうしません・・・・」
声のする方向を見ると、全身ボロボロになった団長さんと領主さんが天上から吊るされてぐるぐる回転しています。
「ごめん・・・なさい・・・もう・・・限界です・・・・」
あたしと視線が合った領主さんが、こちらに向かって精一杯の懇願をします。
「ふう・・・そろそろ下ろしてあげますか・・・」
「え~~~一晩くらい吊るしとけば?」
「もういいですよ、特に大事にもならなかったですし、それに、反省もしたようなので。それと、あたし的には最初に会ったプードルって人の方が罪が重い気がしますし」
あたしの言葉を聞いて、それまで控えていたこの館の執事さんがいそいそとロープを外し始めました。
「プードルってあの妄想馬鹿?」
「あ、たぶんその人です。なんか一人芝居始めたので放置したのが事の発端な気がします」
「あ~~~、なんとなく想像できるなぁ・・・」
その後、無事に下ろされた領主さんと団長さんがテーブルに着きます。
そして、ルンを指差して聞いてきました。
「ところで、あの犬はなんだったんだ?一応魔獣だろ?」
「えっと・・・ルーンウルフです」
「ルーンウルフだって」
あたしと、遙さんの発言がハモリました。
「「「は?」」」
すると、団長さんや周りで作業されていたみなさん一斉に目が点になってます。
「ル・・・ルーンウルフってモンスターランクBクラスだぞ!そんなばかな!」
ちなみに、モンスターランクと言うのは、各国がそれぞれ自国の脅威となるモンスターに付けているランクで、E~Sまで6段階に分かれています。ちなみに、普通ソロで倒せるのはDクラスまでって言われてるみたいですね。MMOだとみんなBクラスなら何とか倒せてたはずなんですけどね。あと、このランクってMMOでは正式にはなかったんですよね、有名攻略サイトが判りやすいように付けたのが一般化したものでした。
「Bでしたっけ?だいたい中の上、上の下って感じしか覚えてないですね、特に表示にあるものでもないし」
「うん、あたしもそんな感じで覚えてるかな?一々ランクなんか覚えてられないって」
あたしと、遙さんの発言は、でも誰にも聞いて貰えていませんでした。そして、団長さんはルンをしげしげと眺めています。
「す、すごいな・・・Bクラスのモンスターを配下にできるのか!なぁどうやって手懐けるんだ?餌か?それとも特殊アイテムか?」
団長さんはあたしを振り返って詰め寄ってきました。
「えっと、特に必要なものはなかったですよ?強いて言えば死ぬぎりぎりまでHPを落として、その後に回復させたり食べ物をあげたりの複合技?」
あたしのアドバイスに団長さんは黙り込みました。
「Bランクを一人で倒せる強さか・・・まだまだ先は遠いな・・・・」
なんか一人で虚空を見て、ぶつぶつ言っています。
(この国の人って妄想する人が多そうだもんね・・・)
「まぁ誤解も解けたし、お仕置きもすんだからこれで一段落ですね、あたしは買い物に行きたいのですけど」
「う~~ん、あたしは何か更に厄介ごとが増えちゃったかなぁ・・・ナイガラはまともな戦力がいないから、どうすっかなぁ・・・」
「なんだよ、まともな戦力が居ないって、俺らがいるじゃん!」
「あんたらだと間違いなく全滅しそうなのがこの地域に入り込んでるらしいのよ、で、入り込んでいる意図が読めんから困ってるのよ」
遙さんはそう言って先ほどのあたしの説明を繰り返しました。
「まぁキュアちゃんに瞬殺されたとはいえ、普通の兵士じゃ相手にならないっぽいなぁ」
「は?この人ってメチャ強いじゃん!」
「え?あたし回復職ですから単独戦闘ってなると戦闘特化の人には敵わないですよ?」
「「はぁ?回復職だって!」」
領主さんと団長さんの声がハモリます。
「え?どっから見ても回復職の服装じゃないですか!」
「あ、キュアちゃん・・・・認識阻害のフード外さないと」
「あ!これってステータス見られるの阻害だけじゃないんですね!」
「いや、ステータス阻害だと職もみれないから」
あたしは、言われてフードを外しました。
「「おおお~~~エルフだ!」」
またもやハモル二人。
「なぁなぁ、あんた俺と結婚しないかい?」
「な!おまえ!抜け駆け禁止!」
「はぁ????」
「いや、エルフってまじ美人多いのな、すっげぇ綺麗だ」
「うん、まじ綺麗だ!・・・・胸は無いが・・・・」
MMOキャラの補正が入ってるとは言え、禁句を述べる馬鹿な領主がいます。
(う~~殴ってやりたい!)
現実でも、同様の体系をしているあたしには部位口撃はダメージがでかいです。
あたしが睨み付けてやると領主さんは顔を青くして視線を彷徨わせます。
(ふん!いいですいいです・・・どうせ胸はないですもんね!でも、MMOキャラの時はCくらいにはしたのに・・・)
深く悩むと泣けてきそうです・・・




