3-19:ナイガラの街1
誤字のご指摘ありがとうございます。
誤字訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
あたしたちの前で止まった騎馬の一団から一人のごっつい男の人が前にでて来ようとしました。でも、馬がルンに怯えて動こうとしないので、仕方なく馬を下りています。そして、他の騎士達も同様に馬から下り始めました。
(えっと・・・・ちょっと格好良くないなぁ・・・・)
あたしは、とりあえずこの人達は敵なのか、味方なのかを見極めようと、こっそりとエネミーサーチを発動します。
(白い点が8個、これってMMOだと力の差がありすぎて攻撃してこないMOB表示よね?っていうことは・・・・)
あたしは、ふと横にいるルンを見ました。
すると、ルンは今まで敵が来たときのように特に唸り声を上げることもなく、後ろ足で首の辺りを掻いています。
(なんか・・・すっごく寛いでるね・・・・)
その様子で、今のところは危険がないと判断しました。
騎馬を降りたそのごっつい男の人は、あたし達の前に来て、しげしげとルンを見ます。
「おお、魔獣だな!でかいな!冗談かと思いながら来てみたが」
大きな声でそう叫びます。
「何か御用ですか?」
あたしが聞くと、そのごっつい男の人は何かおもちゃを見つけたみたいに興味津々な目であたしを見ました。
「おお、これはすまん。お前は魔獣使いか?」
「は?」
(魔獣使いっていうと・・・あ、ルンがいるからかな?)
「なぁ、その魔獣はなんだ?強そうだな」
そう言ってルンに手を伸ばそうとしました。
「グルルルル・・・・」
ルンはそのとたん男を睨み付けて唸り声をあげました。
「むぅ・・・」
睨まれたとたんその男は無意識に後退りしました。そして、なぜか他の騎士達も後退りしています。
「ルン、大丈夫だよ」
あたしは、優しくルンの頭を撫でると、ルンは男達に向けてもう一睨みしたあと唸り声を止め大人しくなりました。
(なんか警戒したんじゃなくって鬱陶しいから威嚇したっぽい?)
「あの、失礼ですが私達になにか用ですか?」
あたしの声で、硬直が解けた男は、ちょっと顔を青くしながらも改めて胸を張りなおしてあたしに向き直りました。でも、チラチラとルンを見る目にちょっと怯えた感じがあります。
「あぁ・・・俺はナイガラ領の治安を預かるナイガラ騎士団の副団長ソイ・プードルだ!」
「は?えっと・・・トイプードルですか?」
「いや、ソイ・プードルだ!」
ここは爆笑する所なのでしょうけど、あまりにその男と名前がイメージする物とのギャップが大きすぎて、ただその人を凝視してしまいました。
プードルさんは身長190cm以上あって、体重もおそらく100kgは超えてると思う巨体です。特に太っている感じはないですから、きっと筋肉とかの塊なんでしょう。その人の名前が・・・・
(えっと・・・・トイプードル・・・・)
我に返ったあたしは、その名前を思い浮かべながらプードルさんを見ると胃の辺りが痙攣を起こしそうです。
そうしたら、あたしが一生懸命笑いを堪えているのを何か勘違いされたみたいです。
「なに、そう緊張しなくても良いぞ。俺の名前は近隣にも届いているだろうがな。どうだ、魔獣使い、俺に仕えないか?」
そして、何か知らない間に勧誘されていました。
「お断りします」
「うむうむ、俺のような主君に仕えれて光栄に思うが良い!」
「いえ、お断りします」
「ふ、今はまだこの様な田舎で燻っているが、いずれは王都の騎士団に入団し英雄と呼ばれるはずの俺だ、お前は幸運だぞ!」
「あの・・・お断りしますってさっきから言ってるんですが・・・」
「ふ、今に見ていろ必ず王都のブラディーラビットか愉快な仲間たちに入隊してやる、そして、いずれは団長に!」
(なんか駄目ですねこの人・・・っていうかこんな人ほんとにいるんだ・・・・)
あたしは、ある意味珍獣を見るような目でプードルさんを見ました。
(これは、殴って正気にしたほうがいいのでしょうか?)
あたしは、迷ったので他の人に聞いてみました。
「・・・・あの・・・・この人ほっといて先進んでいいですか?」
あたしは、人の話をまったく聞かないで一人で騒いでるプードルさんの後ろに控えている人達に聞きました。
「えっと・・・・」
「いや、勝手に行かれても困るので・・・おいどうするよ?」
「団長が来るまでは待ってたほうがよくないか?」
なにやら皆さんヤイノヤイノと言い合っています。
そして、なんかこっちそっちのけで言い合いを始めています。
「あの・・・それで、行っていいのでしょうか?」
あたしが再度問いかけますが、皆さん論議に懸命であたしの話は聞こえていないみたいです。そして、プードルさんはなんか演説を始めちゃってます。
「はぁ・・・・ルン、行こ」
あたしとルンはプードルさんをほって置いて街へと足を進めました。
城門が見え始めたとき、城門の方角から数名の騎士らしい人達が飛び出してきました。エナミーサーチには赤色の点が1個、白が6個です。何か嫌な予感がすっごくします。
「ルン、あの先頭の人は強そうだね、気をつけてね」
「ヴォン!」
あたしは、相手が魔法を把握できない距離にいる間に一通りの付与魔術を唱えました。そして、愛用のメイスを取り出して構えました。
その男達はすでに抜刀して走ってきます。
そして、そのまま一気にあたしに詰め寄ろうとしました。でも、
「まて!お前らはそれ以上近づくな!お前らでは勝てん!」
先頭にいた男の声で一斉に男達は制止しました。
その、物々しい雰囲気に、街の門から多数の野次馬が沸いて出てきています。
(う・・・一難去ってまた一難?)
「遅かったか・・・これほどの魔獣を連れているとは・・・・」
男はルンに視線を向けると、悔しそうに顔を歪めました。
「知らせを聞いて、急いで飛び出してきたが・・・あいつらでは敵わないな・・・可愛そうな事をした・・・・」
(うわ~~なんかこの人も思い込みが激しそうです・・・何か勘違いしてそうです・・・)
あたしは、このままでは拙そうなので説明をしようとしました。
「あの~~」
「ふ、誤魔化しなど聞かん!あいつらの仇討たせてもらおう!」
そう言うと男は剣を振りかぶって突撃してきました。そして、他の男達も一斉にあたしを包囲する形で動き始めます。
(うわ!連携取れてますねこの人達、でもこの展開って・・・・なんか色んな意味であたしピンチ?)
「ルン!手加減してね、殺しちゃ駄目だよ!」
「ヴォン!」
その言葉が聞こえたのか、男は顔を真っ赤にして怒鳴り返してきます。
「嘗めるな!正義の鉄槌受けてみろ!」
その男が剣を真正面から振り下ろしてきました。その時、あたしのオートカウンターが発動して剣を横から弾き飛ばします。そして、相手の頭部ががら空きになった所に、そのままメイスを叩きつけました。
(あ、危なかった・・・思わず手加減しそこなう所でした・・・)
自動で発動したため、あたしは咄嗟の力加減をし損ないそうだったので、すっごく焦りました。男は、あたしのメイスを頭部に受け、頭に付けてた兜を凹ませて倒れています。うん、なんか白目剥いてますね。
(えっと・・・・メイスでの攻撃だから正義の鉄槌はこっちだったり?)
あたしは男の様子を見て、そんな馬鹿なことをふっと思いました。
そして、周りを見ると、他の男達はルンに片っ端から殴り倒されています。
「ルン!ちゃんと手加減できてる!えらいよ!」
「ヴォン!」
ルンは褒められて嬉しそうに叫びました。でも、嬉しくてつい力が入ってしまったのか、叫び声と同時だったせいかその瞬間に殴られた人は倍以上吹っ飛ばされていました。
「・・・・ウォン・・・」
ルンは何か失敗したって感じでその飛ばされた男の方を眺めて、あたしの方に向いてどうしましょ?って感じで鳴きました。
「えっと・・・ほら、ピクピクしてるし、死んでないよ!大丈夫!」
「ヴォン!」
あたし達がそんなやり取りをしていると、城門の方が更に騒がしくなってきています。
「ルン、なんかすっごい嫌な予感がするんだけど、気のせいかなぁ・・・・」
「クォン・・・」
残念なことに、やっぱり城門から続々と兵士が飛び出してきます。
「どうしようか・・・・逃げる?」
「クルルル」
そして、城門からゾロゾロ出てくる兵士達は軒並み白色マークです。
(続々と出てくるのはいいのですけど・・・・)
なんか溜息が漏れそうです・・・
「おい!団長がやられているぞ!」
「急げ!団長を助けるんだ!」
「魔術師はあいつを団長に近づけるな!」
魔術師から炎が、弓兵からは矢が飛んできます。でも、どれもこれもみんな事前に掛けておいた障壁に阻まれて届きません。それでも兵士達は必死に叫びます。
「諦めるな!」
「今のうちに団長を回復させるんだ!」
(なんかすっごく盛り上がってるんですけど・・・・)
あたしは、なんか醒めたっていうか冷めた?視線でこの人達を眺めます。
(もともとMMOは時間とか、お金を注ぎ込んだ人が無双できちゃうのよね・・・それ以外の人は一握りの人以外は大体・・・・多分この世界もそのままそんな感じなんだろうなぁ・・・)
兵士達の悲哀を見ているようでなんかちょっと哀れに思えました。
「くそぅ!化け物め!」
「なんとか持ちこたえろ!正義は我々にあるんだ!あんな化け物に負けるわけにはいかん!」
「神の加護を信じるんだ!きっと勝てる!」
その間にも、彼らはすっごい盛り上がっています。そして、城門の方からは彼らへの応援の歓声が上がっています。
(何であたしが悪者なの?・・・なんか段々と腹が立ってきたなぁ、人の話も聞かないで攻撃してきたくせに・・・)
あたしは、今兵士達がいる範囲を測りはじめました。その間にも炎や矢が飛んできます。団長って呼ばれている人救出優先で直接攻撃はしてきません。
その時、後ろからそんな叫び声が聞こえてきました。
「うお!団長!なんと!貴様やはり敵国の回し者だったか!」
後ろを見ると、諸悪の根源、先程のプードルさんがいました。
「ぬぅぅ、悪即斬!このプードル様を敵に回した愚か者が!団長の仇!己の所業を地獄で悔いるがいい!」
プードルさんはそう叫ぶと剣を抜いて切りかかってきました。
その時、あたしは頭のどこかでプツリと何かが切れた音が聞こえた気がします。
「サンダーレイン」
あたしは広範囲攻撃魔法をぶつけました。あたり一面に光り輝く稲妻が雨のように降り注ぎます。
稲妻の明かりがフラッシュのように連続で輝き、そして、その輝きが収まった後には・・・・
あたしが周りを見回すと、周りにいた兵士達がみなピクピクと痙攣して倒れています。
(えっと・・・一応、加減は出来てるから大丈夫・・・・・よね?)
そう思いながらも、ちょっとやりすぎちゃった気がします。
先程まで盛り上がっていた城門の方では、多くの人たちが呆然とこちらを見ています。そして、あたしと目が合うと叫び声をあげて我先にと城門の中に駆け込んでいきました。
あたしは、その様子を眺めながらも倒れた人が間違って死んでいないかと気になりました。
(あ、そういえばさっきルンに殴り倒された人は・・・)
急いで先程の人を見ると・・・
(あ、ちょっとまずいかも・・・・一応白いマークあるけど、点滅してる・・・)
あたしは、急いでその人にヒールを掛けました。
白マークが点滅を止めて落ち着いたので、改めて同様の人がいないか確認しました。
(うん、とりあえずは平気かな?それにしても、この人達どうしましょうか・・・)
あたしは、死屍累々といった感じで倒れている兵士達を困ったように眺めました。
すると、城門の辺りで何か大きな音が聞こえ始めました。
(ん?何の音だろう?)
あたしが、城門を見ると今正に門が閉じられようとしています。
「え~~~~、ちょっと・・・・この人達どうするのよ!」
あたしは、あまりの出来事に呆然としました。
「聞こえてますか~~この人達はまだ生きてますよ~~ほっとくんですか~~」
あたしは、あまりの薄情さに思わず門に向かって叫びました。すると、城壁の上のほうから声が聞こえてきました。
「ふん、街を碌に守れもしない騎士団など、そんな役立たず達の為に町を危険に晒すことなどできん!」
城門の上を見ると、まだ若い男の人が立っていました。
「なんか随分と薄情なお言葉ですね!そういう貴方は役立たずじゃないんですか?」
あたしはちょっとカチンときて少しキツイ言い方になってしまいます。
「下賎な奴が何をいうか!わたしはナイガラ領領主であるマイン・ナイガラ・ドーベルだ!このわたしに対する無礼万死に値する!王都よりきた騎士団が貴様を血祭りに上げてくれるわ!」
(・・・・・なんかこのナイガラの人ってみんなこんな感じの人ばっかり?)
あたしは、この領主さんをほっといて倒れている人に治療を始めました。
(はぁ、なんか自分で倒した相手を自分で治療って馬鹿みたい・・・)
そんな事を思いながら、それぞれに人にヒールを掛けていきます。ルンも倒れている人の襟を銜えて引きずってきてくれます。
「それぞれの兵士達に留めをさすか!冷酷な魔獣使いよ!しかし、このイグリアには貴様など歯牙にもかけない騎士団がいるのだ!己の所業を悔いるが良いわ!」
(なんかまだ騒いでいます。でも放置です放置!ああいうのに関わったら負けです!)
あたしは、淡々と治療を進めていると、さっきから怒鳴っている声がようやく静かになりました。
(はぁ、やっと静かになった。でも、この人達いくら魔法で気絶したからといってそろそろ誰か起きても良いくらいなのに・・・)
あたしは、治療を終えてそんな気分で地面に座り込んでいると、またもや城門の方で音が聞こえ始めました。
振り返ると、先ほどまで閉まっていた城門が静かに開き始めています。
そして、人が一人通れる位に開いたとき、その隙間から先ほどの領主さんが取り巻きを連れて出てきました。
「おい!私を無視するな!不敬罪だぞ!」
領主さんは恐れ気もなくあたしの方に歩いてきます。そして・・・
「さぁ、ブラディーラビットの皆さん!こいつを血祭りに上げてください!」
オーバーアクションで後ろから着いて来た人達に指示をしました。
そして、領主の真後ろにいた小柄な人がもっていた剣を鞘にいれたまま領主を殴り飛ばしました。
「あたしらはラビットラブリー騎士団だ!」
ドゴッっという鈍い音を響かせて、領主さんはあたしの足元まで飛んできました。
そして、殴り飛ばした人は、あたしに向かって手を振ります。
「やっほ~~~キュアリーちゃん!」
ちょっと文章を修正しました。
後半の文章を大幅変更しました、ご指摘いただいた所にあたしもちょっと違和感を感じてしまって・・・・その為に領主さんは殴られる為だけに登場しました・・・




