タイトル未定2026/05/22 03:28
# 二つ頭のウサギ
## 第一章 ― 眠り
リムルは17歳だった。
そして、夏休みが始まったばかりだった。
静かなリビングルームには、テレビの青白い光だけが揺れていた。
窓には雨が静かに打ちつけている。
その時、隣に置いていたスマホが震えた。
ディアからだった。
リムルはすぐに電話に出た。
「リムル! 準備できた?」
明るい声がスピーカーから響く。
「あと5分でそっちに着くよ!」
「うん、準備できてる。」
ディアは幼なじみだった。
二人は大学の課題のため、“レルカキウム”という謎の山村へ向かう予定だった。
その村には恐ろしい噂があった。
2004年。
村人2000人が突然消えた。
死体もない。
生存者もいない。
すべてが消えていた。
ディアの父親は、その事件を何年も調査していた。
「遅れないでよ!」
ディアは笑いながら電話を切った。
リムルはジャケットとバッグを掴み、急いで外へ出た。
雨で濡れた道路は銀色に光っていた。
門の外からクラクションが聞こえる。
黒い傘を差したディアが車の横に立っていた。
長い髪が冷たい風に揺れている。
「遅い。」
彼女は不満そうに言った。
「そっちが早すぎるんだよ。」
ディアは目を細め、助手席に乗り込んだ。
街の光は少しずつ遠ざかり、二人は深い山道へ進んでいく。
濃い霧が道路を飲み込んでいた。
空気がおかしい。
静かだった。
空っぽだった。
まるで死んでいるようだった。
「この村、一体なんなんだ?」
リムルがようやく口を開く。
ディアは窓の外を見つめたまま、小さく言った。
「お父さんは、あの村で何かが起きたって信じてる。
誰にも理解できない“何か”が。」
雨はさらに激しくなった。
1時間ほど走ったあと、リムルは山道のガードレール近くで車を止めた。
「少し休もう。」
二人は車から降りた。
冷たい山の空気が肌を刺す。
山の下には、暗闇の中を一本の道路が伸びていた。
崖の近くには、壊れかけた古い家があり、中で灯りがちらついている。
ディアは黙ってそれを見つめていた。
そして突然、微笑んだ。
「ねぇ、明日が私の誕生日なの覚えてる?」
リムルはダッシュボードの時計を見る。
11:59 PM。
「もちろん。」
数字が変わる。
12:00 AM。
「誕生日おめでとう、ディア。」
リムルはジャケットのポケットから小さなベルベットの箱を取り出した。
中には銀色の指輪が入っていた。
ディアの目が大きく開く。
その瞬間――
まぶしい光が後ろから爆発した。
キィィィィィッ!!
大型トラックが猛スピードで車に突っ込んできた。
世界が砕け散る。
金属が悲鳴を上げる。
ガラスが飛び散る。
車はガードレールを突き破り、崖下へ落ちていった。
すべてが闇に包まれた。
---
五分後。
リムルは目を覚ました。
額から血が流れている。
周囲には折れた枝が散乱していた。
見上げると、壊れた車が木に引っかかっている。
まるで死体のように。
道路の上にはトラックが止まっていた。
その横には、黒いフードを被った男が立っている。
見ている。
リムルの心臓が止まりそうになる。
「ディア!?」
返事はない。
恐怖が全身を支配した。
彼はふらつきながら崖近くの古い家へ向かった。
ドアがゆっくりと軋みながら開く。
中は埃だらけだった。
腐った臭い。
静寂。
窓がひとつだけあった。
リムルは窓へ駆け寄り、汚れを拭った。
そして凍りつく。
道路の上に――
ディアが倒れていた。
「ディア!!」
彼は走った。
泥と岩に滑りながら道路へ辿り着く。
そして彼女の隣に崩れ落ちた。
ディアの目は半開きだった。
冷たい。
動かない。
胸にはナイフが突き刺さっていた。
「いやだ…ディア…」
涙が止まらない。
その時。
後ろから足音が響いた。
ゆっくり。
重く。
リムルが振り向く。
黒いフードの男が立っていた。
次の瞬間――
鋭い痛みが体を貫いた。
ナイフ。
脇腹に深く刺さっている。
リムルは息を吐き、ディアの隣に倒れ込んだ。
男は何も言わず、二人を見下ろしていた。
血が雨の道路に広がっていく。
視界がぼやける。
その時――
「ヘヘッ…」
奇妙な音が聞こえた。
道路の向こう。
暗闇の中に、一匹のウサギが座っていた。
だが、それは普通じゃない。
頭が二つあった。
四つの目が赤く光り、リムルを見つめている。
動かない。
ただ、見ている。
リムルの目はゆっくり閉じていった。
闇がすべてを飲み込む。
---
12:00 AM。
「誕生日おめでとう、ディア。」
リムルは勢いよく目を開けた。
車の中だった。
時計は――
12:00 AM。
ディアが困惑した顔で彼を見ている。
「リムル…どうしたの?」
呼吸が荒くなる。
ありえない。
全部覚えている。
事故。
ナイフ。
ウサギ。
死。
リムルは突然ブレーキを踏み、車から飛び出した。
「リムル!」
ディアの叫び声が響く。
彼は暗い山道を見つめた。
霧の向こう。
トラックのライト。
そして――
黒いフードの男。
待っていた。
恐怖が爆発する。
リムルは車へ走り戻る。
その瞬間――
背中からナイフが胸を貫いた。
血が雨の地面に落ちる。
再び闇が彼を飲み込んだ。




