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EP 9

青き聖域と、ジャワカレーの奇跡

「ふぅ……とりあえず、ここが僕の城か」

案内された201号室に入った優太は、リュックを床に下ろし、大きく息を吐いた。

6畳ほどのフローリングの部屋。備え付けの家具は何もない。

殺風景だが、これから自分色に染め上げることができる。

「よし。勉強に集中できて、リラックスできる環境を作ろう」

優太はスキル【地球ショッピング】を発動させた。

所持ポイントは、ルナの世話代(前払い)のおかげで1万ポイント以上ある。

『購入:シングルベッド(高反発マットレス)』

『購入:学習机(棚付き)』

『購入:遮光カーテン(ネイビーブルー)』

『購入:LEDデスクライト』

光の粒子が集まり、次々と家具が実体化していく。

優太は手際よく配置を決めていった。

テーマカラーは、精神を落ち着かせる「青」。

机には、リュックから取り出した医学書と救急セットを並べ、壁には解剖図のポスター(スキルで購入)を貼る。

数十分後。そこには、異世界とは思えない「日本の真面目な医学生の部屋」が完成していた。

コンコン。

「優太さーん? 入っていい?」

「あ、いいよ」

ドアが開き、キャルルがひょっこりと顔を出した。

彼女は部屋を見渡すなり、パァッと目を輝かせた。

「わぁ……! 素敵な部屋だぁ♡ なんかこう、キチッとしてて、いかにも『男の子の部屋』って感じがするぅ!」

「男の子って歳じゃないけどね。……まぁ、落ち着く場所は必要だから」

「ふふっ、これなら勉強も捗りそうだね! ……あ、そういえば夕飯どうする? 歓迎会だし、どっか出前でも……」

「いや」

優太は立ち上がり、腕まくりをした。

「今日は僕が作るよ。引っ越し初日だし、挨拶代わりにね」

「え? 優太さん、料理作れるの?」

キャルルが驚いたように耳を揺らす。

「ずっと一人暮らしで自炊してたからね。それに、みんなに食べてほしい日本の味があるんだ」

優太はリビングの共用キッチンに立った。

魔導コンロの使い方はすぐに把握できた。火力調整もつまみ一つだ。

「よし、メニューは……これだ」

優太は【地球ショッピング】で食材を取り出した。

玉ねぎ、人参、じゃがいも、そして豚肉。

そして最後に、緑色のパッケージ――『ハウス ジャワカレー(中辛)』。

スパイシーで深みのある大人の味。優太の好物だ。

「まずは米だな」

彼はこだわりの土鍋を取り出し、米を研ぎ始めた。

水加減を調整し、強火にかける。土鍋で炊いた米は、ふっくらとして甘みが増す。

次に、野菜と肉をカットし、鍋で炒める。

玉ねぎが飴色になるまで丁寧に火を通し、肉の表面を焼き固める。

水を加えて煮込み、アクを取り、火を止めてルウを割り入れる。

とろり、とした褐色の液体が出来上がると同時に、部屋中に**「暴力的なまでに食欲をそそる香り」**が充満した。

「……くんくん。な、何ですの? この刺激的で、とてつもなく芳醇な香りは……!」

リビングで待っていたリーザが、鼻をヒクつかせてキッチンに吸い寄せられてきた。

「あら、良い香り。私の森のハーブとも違う、複雑なスパイスの香りね」

ルナも興味深そうに顔を出す。

グツグツと煮える鍋の中で、スパイスと野菜の旨味が融合していく。

「お待たせ。特製カレーライスの完成だ」

テーブルには、湯気を立てる四皿のカレーライスが並べられた。

土鍋で炊いた白米はツヤツヤと輝き、褐色のルウとのコントラストが美しい。

「「「いただきます!」」」

三人の少女たちはスプーンを手に取り、恐る恐る、しかし期待に満ちた表情で口に運んだ。

パクッ。

瞬間、静寂が訪れ――そして、爆発した。

「んんっ!! おいひいいいいっ!!」

キャルルが目を見開いた。

「何これ!? 最初はちょっと辛いけど、後から旨味がドッと来る! お肉も柔らかいし、ご飯との相性が最強すぎるよぉ!」

「ほ、本当に……美味しいですわ……!」

リーザは震えていた。

彼女は、左手に持っていた*「パンの耳(主食)」を、カレーのルウにたっぷりと浸した。

それを口に運び、涙を流して天を仰ぐ。

「パンの耳が……まるで高級フレンチのメインディッシュに……! 生きてて良かった……! カレーという名の奇跡に感謝を……!」

そして、最も重要な判定者、ルナ。

彼女は一口食べると、ポッと頬を染めた。

「あら……。辛いのに、すごく優しい味がするわ。優太さんの心がこもってるのね」

ルナが微笑むと、背後に幻覚のエフェクトで**「極楽浄土の花畑」**が出現し、部屋の空気がマイナスイオンで満たされた。

どうやら「大満足」のようだ。

「うん、ジャワカレーは美味しいな。スパイスが効いてて元気が出るだろ?」

優太も自分の分を食べながら、安堵した。

やはりカレーは偉大だ。異種族間の壁すらも、スパイスの香りが溶かしてくれる。

その時、優太の視界に例のウィンドウが現れた。

【ピロン!】

> システム通知

> 対象:ルナ・シンフォニア

> 状態:幸福(食による精神的充足・極)

> 判定:世界平和への多大なる貢献

> 獲得ポイント:10,000 P

>

優太はスプーンを止めた。

「(……は?)」

「……えっと、ルナさんにご飯を食べさせて、美味しかったって言われただけで……1万ポイント?」

ゴブリン退治が50ポイント。

人命救助が数千ポイントと言われるこの世界で。

ただ一緒にカレーを食べただけで、国家予算レベルのポイントが入ったのだ。

優太は、ニコニコとカレーをおかわりしているルナを見た。

その笑顔の裏に、「不機嫌=世界崩壊」というリスクが潜んでいることを再認識し、背筋が凍った。

「(ルナと一日無事に過ごすだけで1万P加算かよ……。割に合うのか合わないのか、分からなくなってきたぞ)」

優太は冷や汗を拭いながら、それでも「美味しい」と笑う三人の少女たちのために、鍋に残ったカレーを丁寧によそうのだった。

とりあえず、今夜の平和は守られたのだから。

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