EP 7
地雷ジュースの衝撃も冷めやらぬ中、タロウキングでの女子会(+優太)は、いよいよ優太の今後の生活基盤についての話題へと移っていった。
激安シェアハウスと、1万ポイントの時限爆弾
「ん〜、お腹いっぱい♡」
キャルルは空になったハンバーグの皿を満足そうに眺め、食後のアイスティーを啜った。
リーザもカキフライの感動を噛み締め終わり、優雅に(しかしお冷で空腹を誤魔化しながら)口元をナプキンで拭っている。
「それで、優太さん。これからどうしたいですか? 何か目標とかあります?」
キャルルの問いに、優太はストローを回しながら少し考え、真っ直ぐに答えた。
「そうだな……。僕は元の世界で医者……外科医志望だったんだ。だから、この世界でも怪我や病気で苦しむ患者たちを助ける仕事に就きたいと思ってる」
「まぁ、素敵ですわぁ……」
リーザが感嘆の声を漏らす。
暴力が支配しがちなこの世界で、純粋に「治すこと」を志す男の姿は、彼女たちの目には新鮮で眩しく映ったようだ。
「そっか! じゃあ、『セーラ治療院』がいいよ!」
キャルルがポンと手を叩いた。
「セーラ様は伝説の聖女様なんだけど、すごく進歩的な人でね。いつも『新しい技術を取り入れたい』って言ってるし、あそこは年中人手不足だから。人材ギルドを通せば、すぐにでも働けると思うよ!」
「人材ギルド?」
「ええ。仕事を紹介してくれる組織ですの。適性検査をして、最適な職場を斡旋してくれる、冒険者ギルドの事務版のような所ですわ」
「なるほど……(要するにハローワークか)」
優太は納得した。
医療の知識はあっても、この世界での医師免許や身分証明がない。公的なギルドを通すのは最も堅実なルートだ。
「よし、明日にでも行ってみるよ。ありがとう、キャルル」
「どういたしまして! ……で、次は住む場所よね?」
キャルルはニシシ、と悪戯っぽく笑うと、身を乗り出して提案した。
「優太さん、宿暮らしはお金かかるでしょ? 実は私達、シェアハウスをやってるの。4LDKの広めの物件なんだけど、あと一部屋空いてて、一人入れるから」
「えっ? シェアハウス?」
「まぁ! キャルル、それは素敵なアイデアですわ!」
リーザが目を輝かせて賛同した。
「優太さんが来てくだされば、万が一アパートにオークが攻めてきても安心ですし……何より、光熱費や食費の割り勘要員が……いえ、賑やかになりますわ!」
「(今、本音が漏れたな)」
優太は苦笑しつつも、少し躊躇した。
「いや、でも良いのか? 女の子たちの家に、男の僕が住むなんて。いろいろマズくないか?」
「だーいじょうぶ! 私もリーザも強いし、優太さんは襲ってくるような人じゃないって、私の『野生の勘』が言ってるもん。それに……」
キャルルは指を三本立てた。
「家賃は割り勘だから月に金貨3枚(約3万円)だよ♡ タロウ・シティの相場からしたら破格だよ?」
「金貨3枚……!」
確かに安い。このインフラが整った都市で、個室付きでその値段はあり得ない。
優太の心が大きく揺らいだ。
「分かった。稼ぐよ。……でも、本当にいいのか?」
「うんうん! 歓迎するよ! ……ただ、ね」
そこで急に、キャルルとリーザの表情が曇った。
二人は顔を見合わせ、言いにくそうに視線を泳がせる。
「でも……ルナが居るから……」
「ルナ?」
聞き慣れない名前に、優太は眉をひそめた。
「うん……ちょっと、問題有りな子が住んでるんだけど……。性格は良いのよ? すっごく純粋で、優しくて……」
「でも、行動の結果が常に大惨事というか……」
リーザが遠い目をする。
「優太さんには、その……ルナの監視用に……じゃなくて、介護用の人員として期待してる部分もあって……」
「監視? 介護?」
不穏すぎるワードが出た。
4LDKのシェアハウス。住人は、鉄靴の格闘ウサギ、貧乏アイドル王女、そして「問題児」ルナ。
優太の中に強烈な警報が鳴り響く。これは、関わってはいけない案件ではないか?
「……あの、やっぱ今の話――」
優太が断ろうと口を開きかけた、その時だった。
【ブォン!!】
突如、優太の目の前に、今まで見たこともない真紅の警告ウィンドウが出現した。
【緊急・善行クエスト発生】
対象:ルナ・シンフォニア(ハイエルフ / 天然災害指定人物)
内容:彼女のルームメイトとなり、その暴走を未然に防ぎ、世界平和とアパートの崩壊を阻止すること。
報酬:善行ポイント 10,000 P(前払い)
※警告:この申し出を拒否した場合、世界の因果律に重大なるエラー(バッドエンド直行)が発生します。
※選択の余地はありません。
「はぁ!?」
優太は思わず大声を上げて立ち上がった。
「ひ、引き受けてもいないのに!? しかも1万ポイント!? どんだけなんだよ!!」
店内の客が一斉に優太を見るが、それどころではない。
1万ポイント。
先ほどゴブリンを倒して50P。二人にリボンをあげて100P。
つまり、この「ルナ」という人物のお世話係をするだけで、「人命救助」や「国家防衛」クラスのポイントが前払いで叩きつけられたのだ。
「え? 優太さん? どうしたの急に?」
「顔色が真っ青ですわ……」
キョトンとする二人を前に、優太は震える手で空中に浮かぶ『承諾(強制)』ボタンを見つめた。
「(拒否したらエラーって……選択肢ないじゃないか……!)」
外科医志望の優太は知っている。リスクと報酬は比例する。
この破格の報酬は、これから待ち受ける「同居生活」が、戦場(ハワイでの修行)以上に過酷であることを示唆していた。
「……分かった。住むよ。住ませてくれ」
優太はガクリと項垂れながら、承諾ボタンを押した。
『チャリーン! 10,000 P 加算されました』
その軽快な電子音は、優太の平穏な日々の終わりの合図だった。




