EP 45
爆走!タロウ・イーツ ~ダンジョンへの出前~
【AM 11:00 コーポ・タロウ リビング】
「……お湯が……お湯が美味しいですわ……」
リーザが震える手で、湯呑みを啜っている。
中身は白湯。茶葉を買う金すら没収された彼女の、精一杯のティータイムだ。
「リーザ、元気出して。……ほら、新しい仕事を持ってきたぞ」
優太がスマホ型魔導端末を操作し、空中にウィンドウを投影した。
『新サービス開始:TARO Eats』
『求む! 健脚の配達員! 危険手当あり!』
「タロウ・イーツ……? 出前ですの?」
「そうだ。冒険者ギルドと提携して、ダンジョンの奥深くにいる『引きこもりの魔物』や『攻略中の冒険者』に、温かい食事を届けるサービスだ」
優太が説明する。
「報酬は一件につき銀貨1枚(約1000円)。さらに距離と危険度に応じてインセンティブが出る」
「銀貨……! やります! やらせてください!」
リーザが湯呑みを置いて立ち上がった。
銀貨があれば、パンの耳ではなく、パンそのものが買える!
「私も手伝うよ! 運動になるし!」
キャルルも名乗りを上げた。
「よし。今回のオーダーはこれだ」
優太が表示したのは、とんでもない内容だった。
商品: 『スタミナ満点! ニンニク増し増しドラゴン丼(特盛)』
お届け先: 『奈落の迷宮・地下99階』
お客様: 『引きこもりのリッチ(死霊の王)様』
備考: 「汁こぼ厳禁。30分以内に持ってこないと呪い殺す」
「……呪い殺すって書いてありますわよ!?」
「だから高単価なんだ。行くぞ、最強の配達員たち!」
【PM 0:00 奈落の迷宮・入口】
「セット完了!」
キャルルの背中には、衝撃吸収魔法のかかった「ウーバー風の巨大リュック」が背負われている。
そして、そのリュックの上には――
「な、なんで私がリュックの上に括り付けられていますの!?」
リーザがしがみついていた。
「キャルルは速すぎるから、商品(ドラゴン丼)の水平を保つための『ジャイロ・スタビライザー(安定装置)』が必要なんだ。それがリーザ、君だ」
優太がサムズアップした。
「人間の尊厳に関わりますわ!!」
「行くよリーザ! しっかり捕まっててね! 30分デリバリー、スタート!!」
キャルルがクラウチングスタートの姿勢をとる。
安全靴から闘気が噴き出す。
ドォォン!!
「ぎゃあああああああ!!」
リーザの絶叫を残し、二人はダンジョンの闇へと消えていった。
【地下50階・モンスターハウス】
「邪魔よ邪魔よぉぉ!! どきなさぁぁい!!」
キャルルは壁を走り、天井を走り、襲いかかるスケルトンやキラーマンティスの群れを、速度だけで振り切っていく。
「ひぃぃっ! 汁が! 汁がこぼれますわぁ!」
リュックの上のリーザは、必死に丼の水平を維持していた。
彼女のバランス感覚は、長年の貧乏生活(揺れる電車の吊革に捕まらずに半額弁当を守る訓練など)で鍛え上げられていた。
「前方、ミノタウロス!」
「跳ぶよ!」
キャルルが跳躍。ミノタウロスの角を足場にして、さらに加速する。
「タロウ・イーツです! 通ります!!」
風圧でミノタウロスが回転しながら吹き飛んだ。
【地下99階・最奥の間】
残り時間:あと1分
「見えた! ボス部屋よ!」
キャルルが最後の扉を蹴破る。
中には、薄暗い部屋で水晶玉に向かい、ブツブツと独り言を言いながらゲームをしている、骸骨の魔術師――リッチがいた。
「……あ? もう来たのか?」
リッチが振り返る。
「お待たせしましたぁぁぁ!!」
キャルルが急ブレーキをかけ、床を滑りながらリッチの目の前でピタリと止まる。
リュックの上のリーザは、ボサボサの髪で、しかしプロの笑顔で丼を差し出した。
「ハァ……ハァ……! タロウ・イーツですわ! 『ドラゴン丼』、汁一滴こぼさずお届けにあがりましたわ!」
リッチは骨だけの指で丼を受け取り、中身を確認した。
湯気が立ち上る、完璧な状態だ。
「……ほう。やるじゃないか。最近の冒険者は殺しに来るばかりで、飯を持ってくる奴がいなくて困ってたんだ」
リッチは満足げに頷き、懐から報酬を取り出した。
「ほらよ。代金と、チップだ」
チャリン。
渡されたのは、金貨1枚だった。
「き、きんか……!?」
リーザの目が飛び出る。銀貨どころではない。大金だ。
「ありがとうございまぁぁす!! またのご利用をお待ちしておりますわぁぁ!!」
【帰還・コーポタロウ】
「やった……やりましたわ……!」
リーザは金貨を頬擦りし、恍惚の表情を浮かべていた。
命がけのデリバリーだったが、そのリターンは大きい。
「よし、これで今日は……」
リーザはタロー・マートへ直行した。
パンの耳ではない。半額弁当でもない。
彼女が買ってきたのは――
『焼きたての食パン(一斤)』と『高級バター』だった。
「優太さん、見てください! パンに……耳以外の白い部分がありますの!」
「食パンだからね」
「しかも、バターを……こんなに厚く塗って……!」
リーザは厚切りトーストにかぶりついた。
「んん~っ!! 油脂と炭水化物の味がしますわ! 最高ですわ!」
「よかったな、リーザ」
優太は微笑ましく見守った。
リベラに毟り取られても、彼女たちはこうして逞しく生きていく。
タロウ・イーツの過酷な労働と、一枚の食パンの幸福。
【ピロン!】
システム通知
クエスト達成:地獄への出前
報酬:金貨1枚(即・食費へ)
備考:リッチから高評価レビュー「★5:早くて美味い。また頼む」が届きました
「……また頼む、ですって?」
通知を見たリーザの顔が引きつったが、口元のバターを舐め取り、決意の表情で言った。
「行きますわよ! 金貨のためなら、魔王城だろうと天界だろうと、ホカホカのお弁当を届けてみせますわ!」
タロウ国の経済を底辺から支えるアイドル・リーザの戦いは、まだまだ続くのだった。




