EP 44
マルサの女・リベラ ~愛と追徴課税の午後~
【PM 3:00 コーポ・タロウ リビング】
「ふふふ……♪ チャリーン♪」
リーザはコタツの上で、ドーム公演の売上(金貨と銀貨の山)を並べ、うっとりと数えていた。
「素晴らしい……。これが資本主義の輝きですわ。次は奮発して、タロー・マートの『3割引きシール』のお弁当を狙いますわよ!」
「お、景気がいいねぇリーザ」
そこへ、プロデューサーの太郎が、上機嫌でやってきた。彼もまた、懐には興行収入の中抜き……もとい、正当な報酬が唸っている。
「俺もこの金で『全自動麻雀卓』を買おうと思ってな。ガハハ!」
「社長(太郎さん)、私の取り分、もう少し増やしてくれませんこと?」
「バカ野郎、経費がかかってんだよ経費が。スモーク代とか」
二人が「金! 金!」と盛り上がっている、その時だった。
バンッ!!
玄関のドアが乱暴に開かれた。
そこに立っていたのは、いつもの優雅なドレスではなく、黒いスーツに身を包み、腕に『国税(TAX)』という腕章を巻いた、冷徹な眼鏡の美女――リベラだった。
その後ろには、電卓と帳簿を持ったゴルド商会の精鋭部隊(税理士軍団)が控えている。
「……え?」
「リ、リベラ……?」
室内の空気が凍りついた。
リベラは、感情の一切ない声で告げた。
「タロウ・レコーズ代表、佐藤太郎。及び所属タレント、リーザ・ラビットフット。……税務調査に入りますわ」
「ぜ、ぜいむ……?」
リーザが首を傾げる横で、太郎の顔色が土気色に変わった。
「ま、待てリベラ! 俺は国王だぞ!? この国の法そのものだ!」
「ええ。ですから『タロウ国税法・第1条:稼いだ者からは平等に毟り取る』に基づき、執行します。……係員、確保」
「御意!」
屈強な税理士たちが、太郎とリーザを取り囲んだ。
「ひぃぃっ!? 何をするんですの!?」
「嫌だぁぁ! 俺の麻雀卓資金がぁぁ!!」
二人はリビングの椅子に縛り付けられ、リベラによる地獄の査問会が始まった。
【査問会・開始】
リベラはリーザの目の前に、電卓を叩きつけた。
バチバチバチバチッ!!(高速タイピング音)
「まずリーザさん。今回のドーム公演での売上、およびグッズ販売の収益。……申告は?」
「し、しんこく……? 神への祈りなら毎日……」
「確定申告ですわ。所得税の申告がなされていません」
「しょ、しょとく……? これはファンの皆様からの『愛(お捻り)』ですわ! 頂き物です!」
リーザが必死に弁解するが、リベラは眼鏡を光らせて却下した。
「対価性のある金銭授受は『事業所得』とみなされます。さらに、ステージに投げ込まれた金品については……そうですね、『贈与税』の対象にもなり得ますが、今回は雑所得として計上し、最高税率を適用します」
「さ、最高……!?」
「さらに、帳簿の不備、無申告加算税、および延滞税。……締めて、売上の約65%を徴収します」
「ろ、ろくじゅうご……!?」
リーザが白目を剥いた。半分以上持っていかれる。
「そ、そんな殺生な! 私のジャムパン生活が!」
「国民の義務です」
リベラは冷酷に言い放ち、次は太郎に向き直った。
「さて、太郎様。貴方はもっと悪質ですわね」
「お、俺は……俺はただ、国のエンタメを盛り上げただけで……」
「裏帳簿が見つかりましたわよ? 『漫画購入費』『パチンコ軍資金』『隠しおやつ代』……これらを全て『経費』として計上しようとしていますね?」
リベラが証拠のレシート(タローソンで購入したエロ本含む)を突きつける。
「うっ……! それは……取材費だ! クリエイティブな活動には必要な資料で!」
「却下します。これは『私的流用』です。よって、重加算税を含め、貴方の隠し財産の9割を没収します」
「きゅ、9割ぃぃぃぃ!? 鬼かお前は!!」
「いいえ、税務署です」
【PM 6:00 執行終了】
嵐が過ぎ去った後のリビング。
そこには、リベラたちによって根こそぎ回収された金貨の山と、抜け殻になった二人が残されていた。
「……私の……私の小金持ちライフが……」
リーザが震える手で、残った小銭(銅貨数枚)を握りしめている。
計算上、またしても「パンの耳」生活への逆戻りだ。
「……俺の……俺のへそくり……」
太郎もまた、真っ白に燃え尽きていた。
そこへ、仕事から帰ってきた優太が顔を出した。
リビングの惨状を見て、彼は全てを悟った。
「あーあ。……まあ、日本でも『宝くじが当たった翌年に税金で死ぬ』ってよくある話だからな」
優太はリーザの肩をポンと叩いた。
「元気出せよ。リーザにはまだ『歌』があるじゃないか」
「……うぅ……優太さん……」
リーザは涙目で顔を上げた。
「……税金……。私の歌で、税金も免除になりませんこと?」
「ならないよ。むしろ売れれば売れるほど、リベラさんがアップを始めるよ」
「嫌ああああああ!!」
リーザの絶叫がこだまする。
『ラブ&マネー』。
そのタイトル通り、彼女は愛を手に入れたが、マネー(現金)は国の金庫へと吸い込まれていった。
【ピロン!】
> システム通知
> イベント:強制徴収
> 結果:リーザと太郎の資産が初期化されました
> 教訓:ご利用(脱税)は計画的に
>
その夜の夕食。
ジャムのついていない、ただのパンの耳を齧りながら、リーザは「次は……次はタックスヘイブン(租税回避地)でライブをしますわ……」と、新たな野望(と犯罪の匂い)を呟くのだった。




