EP 43
小金持ちリーザの、革命的ライフスタイル
【AM 8:00 コーポ・タロウ ダイニング】
「……信じられませんわ」
朝の食卓で、リーザが震える手でスプーンを握りしめていた。
彼女の目の前にあるのは、いつものパン屋の裏口でもらった「パンの耳」。
しかし、今日は決定的な違いがあった。
パンの耳の上に、赤く輝く『イチゴジャム』が塗られているのだ。
「優太さん、見てください! パンの耳に……色が! 味がついていますの!」
リーザが瞳を潤ませて叫んだ。
「うん、ジャムだね。タローソンの特売で100円だったやつ」
優太がコーヒーを啜りながら答える。
「い、いただきます……!」
リーザはジャムがたっぷり塗られたパンの耳を、恭しく口に運んだ。
「んんっ~!! ……あまぁぁい!!」
彼女は頬を押さえて悶絶した。
「すごい……小麦のパサパサ感が、ジャムの水分と糖分で見事に中和されていますわ! これはもう、パンの耳ではありません! 『高級スイーツ・ストロベリー・ラスク』ですわ!」
「いや、パンの耳だけど」
「いつもは水道水でふやかして食べていましたのに……。ジャムがあるだけで、こんなに世界が鮮やかになるなんて……。私、成功しましたのね……!」
「(……もっといいパン買えばいいのに)」
優太は、幸せそうにパンの耳を齧るリーザを見て、何も言えなくなった。
【PM 1:00 ドラッグストア・タロキヨ】
午後、リーザは優太を連れて、ドラッグストアへ買い物に出かけた。
化粧品コーナーの前で、リーザは一本のボトルを抱きしめて立ち尽くしている。
「優太さん……買いましたわ。ついに買いましたわ!」
彼女が手にしているのは、『大容量ハトムギ化粧水(500ml入り・398円)』。
店内で一番安く、質より量重視のコスパ最強アイテムだ。
「これでお肌をパシャパシャできますの! 夢のようですわ!」
「え? 今までは何を使ってたの?」
優太が何気なく尋ねると、リーザは遠い目をして答えた。
「……雨水ですわ」
「は?」
「バケツに溜めた雨水を、布で濾して使っていましたの。酸性雨がお肌を引き締めると信じて……。でも、たまにボウフラが混じっていたり、砂でジャリジャリしたり……」
「……(涙)」
優太は無言でリーザの肩を叩いた。それはスキンケアではなくサバイバルだ。
「でも、これからは違います! この透明な液体! 砂も虫も入っていない、純粋な化粧水! これを惜しげもなく顔に浴びる……これがセレブの嗜みですわ!」
「うん、よかったね。……あとで美容クリームも買ってあげるよ」
優太は彼女の不憫さに、財布の紐を緩めざるを得なかった。
【PM 7:00 スーパー・タロエツ】
そして夜。
リーザは「小金持ち」としての権力を最大限に行使すべく、スーパーの惣菜コーナーに降臨した。
時間は午後7時過ぎ。
店員が、手に『半額シール』を持って現れる、運命の時間だ。
「来ましたわ……! 私のゴールデンタイム!」
いつもなら、シールが貼られるのをハイエナのように待ち構え、他の主婦と骨肉の争奪戦を繰り広げるリーザ。
しかし、今日の彼女は余裕が違う。
店員がシールを貼った瞬間、リーザは優雅に手を伸ばした。
『特製ミックスフライ弁当(通常498円 → 半額249円)』
「これですわ」
彼女はそれをカゴに入れ、さらに……
『ポテトサラダ(半額)』
「サイドメニューまで……! 今の私には、副菜をつける財力がありますの!」
【PM 8:00 コーポ・タロウ リビング】
「皆様、見てくださいまし! 今夜は宴ですわ!」
帰宅したリーザは、テーブルの上に半額弁当とポテトサラダを広げた。
冷めた揚げ物の匂いが漂うが、彼女にとっては三ツ星レストランのディナーだ。
「いただきまーす!」
リーザは白身魚のフライに、付属のタルタルソースを余すことなく絞り出し、一口で頬張った。
「んぐっ……! はふはふ……!」
サクサク感は失われているが、油と炭水化物の暴力的な旨味が口いっぱいに広がる。
「おいひぃ……! おいひぃですわぁ……!」
リーザの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「いつもは……皆様が食べているのを横目で見て、衣のカスをもらっていましたのに……。今日は、魚も、お肉も、ご飯も、全部私のものですの……!」
「リーザちゃん……」
キャルルとルナが、もらい泣きしそうになっている。
「よかったね、リーザ。味わって食べなよ」
優太が優しく声をかけると、リーザは泣き笑いの顔で頷いた。
「はい! ……ジャムパンの耳、綺麗な化粧水、そして半額弁当。……これ以上の幸せが、この世にあるでしょうか?」
「(いや、もっとあるよ。焼肉とか寿司とか)」
優太は思ったが、口には出さなかった。
今のリーザにとって、このささやかな「人並みの生活」こそが、何よりの贅沢であり、成功の証なのだ。
【ピロン!】
> システム通知
> 状態:幸福度MAX
> 出費:合計 約800円
> 備考:コスパ最強のヒロインです
>
その夜、リーザはお腹いっぱいになった幸せを噛み締めながら、安い化粧水を浴びるように使い、泥のように(いい意味で)眠りについたのだった。




