EP 42
欲望の歌姫、ドームに降臨す
【太郎城・作戦会議室】
「……やはり、リーザしか勝たん」
太郎は真顔で、机をバンと叩いた。
「あんた、まだ懲りないのか。この前の放送事故の始末書、まだ書き終わってないだろ」
優太が呆れたようにツッコミを入れるが、太郎は聞く耳を持たない。
「ルナは強すぎた。キャルルはアホすぎた(褒め言葉)。やはり、芸能の王道は『アイドル』だ。それも、とびきりキュートで、とびきり正直なな」
太郎は一枚の歌詞カードを、リーザに手渡した。
「リーザ。お前のための新曲だ。これを今夜の『タロウ・ドーム(闘技場改修)』のこけら落とし公演で歌え」
「こ、これは……」
リーザが歌詞に目を通す。
最初は戸惑っていた彼女の瞳が、次第に「円」マークのように輝き始めた。
「……素晴らしいですわ。私の魂の叫びが、全てここに記されています……!」
「だろ? かぁ〜っ、ドームの観客が待っているぞ。行ってこい、歌姫!」
「はいっ! 稼ぎに行きますわ!!」
【タロウ・ドーム(旧・王立闘技場)】
夜。数万人を収容する巨大なドームは、異様な熱気に包まれていた。
観客席を埋め尽くすのは、サイリウム(魔法の光る棒)を持ったオーク、ゴブリン、ドワーフ、そして冒険者たち。
『リーザちゃぁぁーん!!』
『俺の金貨を使ってくれぇぇぇ!!』
地響きのような歓声の中、照明が落ちる。
【Intro】
ドラムロールが鳴り響き、ブラスセクションとシンセサイザーが炸裂する。
BPM170の爆速チューンが始まった。
ステージ中央から、金色のスパンコールとフリルを纏ったリーザがポップアップで飛び出す!
「みんな〜! 愛してる〜? (お金を)落としてってね〜♡」
All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!
All: (Fu Fu!)
All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!
All: (Yeah!!)
観客のコールが完璧に揃う。訓練されたオタクたちだ。
【1A】
リーザが軽快なステップを踏みながら歌い出す。
♪朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
♪私はまだ眠いわ (おはよー!)
♪朝シャンしなきゃ (Fu!)
♪朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)
可愛い。ひたすらに可愛い。
しかし、歌詞は徐々に雲行きが怪しくなる。
♪鏡の前で メイクをしなきゃ
(魔法をかけて〜! キュルルン♪)
【1B】
♪さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)
♪のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)
♪扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)
野太い「オレのアイドルー!」コールがドームを揺らす。
【1サビ】
ここからが本番だ。リーザの目がマジ(本気)になる。
♪今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)
♪全て上手くいくわ (絶対!)
♪愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)
リーザが客席を指差す。
♪ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)
♪貴方の愛で生きていける (Fuuu〜!)
「キャッシュ」の部分で、リーザは指で「お金」のジェスチャーをした。
観客席からは「あげるよー!」「土地権利書持ってきたー!」という絶叫が飛ぶ。
【Post-Chorus 1】
♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪だから、何処までもついて来てね♡
(一生ついていくよー!!)
♪ダーリン!
(チュッ♡)
リーザの投げキッスが炸裂。
最前列のオークたちが鼻血を出して倒れた。
【間奏】
スラップベースが唸る中、舞台袖で見守っていた優太が呟いた。
「すごいな……。欲望を隠さないスタイルが、逆に『清々しい』と受け入れられてる……」
「そうだろ優太。アイドルとは偶像だ。だが、この国では『金』こそが最強のリアリティなんだよ」
太郎が満足げに腕を組んでいる。
【2A】
♪夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)
♪お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)
♪スーパーのシール見なきゃ (半額!)
♪ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)
所帯染みた歌詞に、主婦層のファンが涙する。「わかるわぁ……」
♪家賃のために 節約しなきゃ
(現実はシビア〜! ガマン!)
【2B】
♪さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)
♪地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)
♪マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)
【2サビ】
♪今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
♪全部手に入れるわ (強欲!)
♪夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)
♪株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
♪貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)
【Post-Chorus 2】
♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪だから、何処までもついて来てね♡
(一生ついていくよー!!)
♪ダーリン!
(チュッ♡)
【Cメロ】
照明が落ち、スポットライトがリーザ一人を照らす。
ピアノだけの切ないメロディ。
リーザが瞳を潤ませ(演技)、切々と訴えかける。
♪だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの
♪綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ
(そうだー!!)
(維持費払わせてくれー!!)
観客の共感が最高潮に達する。
スネアドラムが連打され、ビルドアップしていく。
♪だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?
♪覚悟はいい?
一瞬の静寂。
ドーム内の全員が息を呑む。
【ラスサビ】
ドォォォン!!
銀テープ(お札柄)が発射され、キーが転調する!
♪世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)
♪全部抱きしめるわ (最強!)
♪愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)
リーザがステージを駆け回る。
♪ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)
♪貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)
「人生」と書いて「すべて」と読ませる重圧。
観客は財布の中身をステージに投げ込み始めた。
【Outro】
♪だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪だから、何処までもついて来てね♡
(一生ついていくよー!!)
♪ダーリン!
(チュッ♡)
音楽がジャン! と止まる。
そして、最後の音がドームに響いた。
(レジの音:チャリーン♪)
「ありがとうございました〜! 物販コーナーで待ってるね〜♡」
ワァァァァァァァ!!!!!
大歓声の中、リーザはステージを降りた。
その顔は、アイドルとしての達成感と、お捻りの山を見た商人の顔が入り混じった、最高の笑顔だった。
「優太さん! やりましたわ! 今夜の稼ぎで、借金完済どころか、鯖缶工場の株が買えますわ!」
「……お疲れ、リーザ。ほどほどにな」
優太は、熱狂するドームを見渡しながら、
「この国の経済、リーザ中心に回り始めるんじゃないか?」
と、新たな懸念を抱くのだった。




