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EP 4

ロックバイソン・バスと、5円玉のアイドル

「うわっ、でかい……これがバスなのか?」

森を抜けた街道沿いの停留所。優太が見上げたのは、現代のバスほどの大きさがある巨大な箱車と、それを牽引する二頭の猛牛――ロックバイソンだった。

岩のようにゴツゴツした皮膚と、トラックのような排気音(鼻息)を立てる魔獣だ。

「ささ、乗った乗った! 太郎国の首都直行便よ!」

キャルルは慣れた様子で優太の手を引き、客車へと乗り込んだ。

車内は意外にも快適で、座席にはフカフカのクッションが敷かれている。

「出発進行ー!」

御者の掛け声と共に、猛牛たちが地響きを立てて走り出した。

揺れは魔法のサスペンションで吸収されているらしく、乗り心地は悪くない。

「優太さん、優太さん! でねっ!」

席に着くなり、キャルルが目を輝かせて身を乗り出してきた。

「この前、駅前の『タロウキング』で食べた『完熟・天使の苺パフェ』がね、もうっ、最高だったんですよ! 中に入ってるスポンジ生地と生クリームの相性が抜群で、最後のアイスまで手抜きなしなんです!」

「そ、そうなんだ……(タロウキング? バーガーキングみたいな名前だな。ファミレスのチェーン店か?)」

優太は窓の外を流れる景色を見ながら相槌を打った。

街道は途中から綺麗に舗装されたアスファルト道路に変わり、遠くには高層ビルのような影が見え始めていた。

数十分後。ロックバイソン・バスは終点のターミナルへ到着した。

「着いたー! ここが太郎国の首都、タロウ・シティよ!」

バスを降りた優太は、目の前に広がる光景に絶句した。

「凄い……なんだこれ……」

そこは、剣と魔法の世界に、昭和の日本と近未来都市を無理やり継ぎ接ぎしたような空間だった。

石造りの城壁の向こうに、鉄筋コンクリートのマンションが立ち並び、空には飛行船と共にドローンが飛んでいる。

通りからは、醤油と豚骨の濃厚なスープの匂い、そして焼き鳥の煙が漂ってくる。

「ラーメン屋の隣に武器屋……コンビニの向かいに魔導具店……スーパーマーケットの看板には『本日オーク肉特売』……」

優太は目眩を覚えた。

ここは異世界だ。だが、彼の知る「日本」の利便性が、歪だが確実に根付いている。

「ちょっと待っててね、優太さん。まずは軍資金!」

キャルルは優太を待たせると、近くの冒険者ギルドの出張所へと駆け込んだ。

数分後、彼女はホクホク顔で戻ってきた。

「お待たせぇ! さっきのオークの換金終わったよ。部位破壊ボーナスも入って結構な額になったわ!」

「さすがだな……(あの蹴りなら納得だ)」

「よし、じゃあ次は……」

キャルルはポケットから、スマホのような形をした磨かれた石――魔導通信石を取り出した。

画面(水晶部分)をタップし、慣れた手つきで通話を始める。

「あ、もしもしリーザ? お疲れ様ー、キャルルだよ。……うん、今ね、クエスト終わって帰ってきたとこ。……え? お腹すいた? ふふふ、安心して!」

キャルルは優太の方を見て、ニカッと笑った。

「今からタロウキングでランチするから、リーザもおいでよ! ……うん、うん。今日は臨時収入があったから、私が奢るから!」

『奢る』という単語が出た瞬間、通信石の向こうから「行くぅぅぅぅ!!」という悲痛な叫び声が漏れ聞こえた気がした。

待ち合わせ場所の広場にて。

優太とキャルルが待つこと数分。人混みをかき分けて、青い髪の美少女が猛スピードで走ってきた。

「ハァッ、ハァッ……! キャルル! 奢ってくれるって本当!? わ、私、今月ピンチで……昨日からパンの耳しか食べてなくて……!」

現れたのは、息も絶え絶えの少女リーザだった。

お姫様のような美しいドレスを着ているが、その裾は少し汚れており、何より瞳が飢えた狼のようにギラついている。

「本当だってば。さっきオーク倒したから完璧よ! ……あ、紹介するね。こちらは中村優太さん。なんと、太郎様と同じ『日本』から来た転生者なのよ!」

「えぇっ!?」

リーザは驚きで目を丸くし、慌てて姿勢を正した。

先ほどまでの飢餓感を隠し(隠せていないが)、優雅にスカートの端をつまんでお辞儀をする。

「た、太郎様と同じ世界から!? それは失礼いたしました。わたくし、海中国家シーランより参りました、駐太郎国親善大使兼……」

彼女は一瞬溜めて、キリッとした顔で言った。

「**『絶対無敵スパチャアイドル』**の、リーザと申します!」

「ア、アイドル……?」

優太が呆気に取られていると、リーザは懐からガチャガチャと音をさせて何かを取り出し、優太の手に押し付けた。

「これ、ご挨拶代わりの私のグッズです! 是非、カバンにつけて推してください!」

渡されたのは、手作り感満載の缶バッジだった。

リーザの笑顔のイラストと共に、『五円(御縁)をください』という切実なメッセージが書かれている。

「ど、どうも。ご丁寧に……(大使なのに、なんでこんなに必死なんだ?)」

優太は困惑しながらも、バッジを受け取った。

キャルルはそんな二人のやり取りを見て、クスクスと笑う。

「ふふ、自己紹介も済んだことだし、行こっか! 今日のランチは『タロウキング』! デザートもドリンクバーも付けて、皆で豪遊しちゃおう!」

「ドリンクバー……! 神の飲み水……!」

リーザが拝むように手を合わせる。

優太もまた、空腹を思い出して腹の虫が鳴いた。

異世界に来て初めてのまともな食事。しかも、どうやら日本のファミレスに近いものが食べられるらしい。

「(……とりあえず、毒の心配はなさそうだな)」

優太は缶バッジをポケットにしまい、鉄靴のウサギと腹ペコ人魚姫の後ろについて歩き出した。

目指すは、王冠を被った太った男性の看板が輝く店――「ファミリーレストラン・タロウキング」だ。

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