EP 39
コンビニ飲みと、幻覚の家賃
蛍光灯の白い光が眩しい、深夜のタローソン。
入口脇にある狭いイートインスペースを、ドレスアップした美女たちと一人の男が占拠していた。
プシュッ! プシュッ!
小気味よい音が響き、優太たちは缶ビール(第3のビール・金麦)を開けた。
「カンパーイ!!」
プラスチックのテーブルで、缶同士がぶつかり合う。
ゴージャスなドレスと、安っぽいコンビニの風景。このギャップこそが太郎国の醍醐味だ。
「ぷはぁーっ! やっぱりパーティーの後はこれよねぇ!」
キャルルが豪快にビールを煽り、テーブルを叩いた。
「優太さぁん、おつまみ出してよぉ。ここの『からあげクン』だけじゃ足りないよぉ」
「はいはい。……ったく、人使いが荒いなぁ」
優太は周囲をチラリと確認してから、テーブルの下でこっそりとスキルを発動した。
『購入:冷凍食品・若鶏の唐揚げ(特盛り)』
『購入:冷凍食品・フライドポテト』
『ホットスナック化(即時解凍・加熱)』
「ほらよ。揚げたてだぞ」
「わぁい! 優太さん大好きぃ♡」
キャルルが唐揚げに食らいつく。
その様子を、レジカウンターの奥から店員が、死んだ魚のような、あるいは殺し屋のような目で見つめている。
「(持ち込み禁止だぞ……あとで高い方のゴミ袋買わせるからな……)」という殺気が漂ってくるが、酔っ払いたちは気にしない。
「うふふ……あはは……」
隣では、リーザが虚ろな目でテーブルの上の小銭を見つめていた。
彼女の手には、さっき財布から転がり落ちた「銅貨1枚」がある。
「優太さぁん、見てぇ……♡」
リーザがとろんとした声で、銅貨を指差した。
「銅貨が……2枚に見えるのぉ……。分裂しましたわ……。これで今月の家賃(金貨5枚)を払えるかなぁ?」
「……リーザ」
優太は冷静に、ポテトを齧りながら突っ込んだ。
「それは酒飲んだ幻覚だから。複視っていう症状だ。それに、仮に2枚に増えても銅貨だろ? 家賃は金貨だ。桁が違う。無理だ」
「うぅ……世知辛いですわ……。マグロ漁船の汽笛が聞こえますわ……」
リーザがテーブルに突っ伏して泣き始めた。
一方、その向かいではルナが優雅に紙パックのお酒をストローで飲んでいた。
「ちゅー……。あら、この『梅酒』というのは美味しいですわね。甘酸っぱくて、初恋の味がしますわ(※初恋経験なし)」
ルナの顔がほんのり桜色に染まっている。
魔力制御が緩んでいるのか、彼女の周囲に小さな花がポコポコと咲き始めている。
「そうですわ! この美味しさを、私の魔力の源である『世界樹』にも教えてあげなくては!」
ルナが立ち上がり、杖を構えた。
「世界樹の根に、梅酒を直接転送して飲ませてあげれば、きっと喜びますわ! 世界中が梅酒の香りに包まれますわよ!」
「待ちなさい!!」
リベラが即座にルナの杖を押さえつけた。
彼女も少し顔が赤いが、眼鏡の奥の理性は辛うじて保たれている。
「それは世界が崩壊するので止めてください! 世界樹が酔っ払ったら、地殻変動が起きて大陸が沈みますわよ!?」
「えぇ~? ケチですわぁ……」
「ふふふ……」
そんなカオスな状況を、リベラは片手に缶チューハイ、もう片手にグロック19を持って眺めていた。
「でも、悪くない夜ね。……優太様?」
「はい?」
「この銃……酔った勢いで発砲しないように、安全装置の場所をもう一度教えてくださる?」
「今すぐホルスターにしまってください!! コンビニで銃を出さないで!!」
優太が慌ててリベラの手元を隠す。
店員のゴブリンが、ついに受話器(通報用)に手を伸ばした。
優太は察した。これ以上は限界だ。
「よ、よし! みんな、そろそろ帰るぞ! 明日も仕事だ!」
「えぇ~? まだ飲む~!」
「家賃がぁ……」
「世界樹にカンパ~イ!」
「ターゲット確認……ふふふ」
制御不能の酔っ払いヒロインたち。
優太は溜息をつきながら、全員分の会計(と店員への口止め料としての商品券)を支払い、千鳥足の美女たちを引きずってタローソンを後にした。
【ピロン!】
システム通知
状態:二次会終了
損害:店員への精神的苦痛(慰謝料支払い済み)
獲得:二日酔い確定フラグ
夜風が冷たいタロウ・シティの帰り道。
「ラーメン食べたい!」と叫ぶキャルルをなだめながら、優太は「平和ってなんだっけ」と星空に問いかけるのだった。




