EP 38
永遠の17歳と、平和のための9mmパラベラム
【ゴルド邸・パーティールーム】
「リベラ姉さん、お誕生日おめでとうございます!」
クラッカーの音が鳴り響き、煌びやかなドレスに身を包んだリベラ・ゴルドが優雅に微笑んだ。
今日は彼女の誕生日。
招待された優太、キャルル、ルナ、リーザは、目の回るような豪華な料理が並ぶ長テーブルを囲んでいた。
「皆様、ありがとう。こうして信頼できる友人たちと祝えるのが、一番のプレゼントよ」
リベラがグラスを掲げる。
そして、メインイベントの時間だ。
「じゃあ、ケーキを出しますね!」
優太が【地球ショッピング】のウィンドウを開いた。
取り出したのは、日本の有名デパート・銀座の老舗店から取り寄せた、特大の『フルーツタルト・ホールケーキ』だ。
「わぁぁっ! 宝石みたい!」
色とりどりのフルーツが輝くケーキに、キャルルが目を輝かせる。
優太はロウソクの袋を取り出した。
「さて、ロウソクは何本立てれば……」
優太が呟くと、ルナが小首を傾げて無邪気に言った。
「あら、30本かしら?」
「ブフッ!」
リーザがスープを吹き出しそうになる。
キャルルが慌てて突っ込んだ。
「ちょっとルナ! 殺されるわよ!? リベラ姉はまだ21歳でしょ!?」
「あら、貫禄が素晴らしいので、てっきり三十路かと……」
場が凍りつく中、リベラが眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、絶対零度の微笑みを浮かべた。
「優太様? ……ロウソクは17本ですわ」
「えっ? でも戸籍上は……」
「17本・で・す・わ(威圧)」
「はい!! 17本ですね!!」
優太は震える手で、永遠のセブンティーンを祝うロウソクを立てた。
この弁護士に、年齢詐称という概念は通用しない。法(彼女)が定義すれば、黒も白になるのだ。
【プレゼント贈呈タイム】
気を取り直して、プレゼントの交換が始まった。
「はい! 私からはこれ!」
キャルルが可愛らしい包みを渡した。
中に入っていたのは、不器用ながらも丁寧に刺繍された『人参柄のハンカチ』だった。
「手作りなの! 弁護士って汗かくでしょ? これで拭いてね!」
「まぁ、可愛い。キャルルの一生懸命さが伝わってくるわ。大切にするわね」
リベラが目を細める。
次はルナだ。
「私からはこちらですわ。庭で育てた『完熟シャイニングメロン』です」
ドスン、とテーブルに置かれたのは、自ら発光する巨大なメロン。
「糖度は50度を超えています。食べると肌が発光しますが、美容には最高ですわ」
「(発光するの……?) ええ、ありがとう。お風呂上がりにいただくわ」
そして、リーザの番が来た。
彼女は震える手で、小さな缶詰を一つ差し出した。
「わ、わたくしからは……こちら、タロー・マート特売の『鯖の水煮缶』ですわ……!」
「……鯖缶?」
「今の私の全財産を叩いて買いましたの……。DHAが豊富で、頭が良くなりますから……」
リーザの目には涙が浮かんでいる。貧乏アイドルの精一杯の献上だ。
リベラは一瞬驚いたが、すぐに慈愛に満ちた表情になった。
「ありがとう、リーザ。その気持ち、確かに受け取ったわ。……これは私からの内祝い(お返し)よ」
リベラがパチンと指を鳴らすと、執事が桐箱を持ってきた。
「『最高級タラバガニ・缶詰詰め合わせセット(金貨10枚相当)』よ」
「ひぇぇぇぇ!? 鯖が蟹になりましたわぁぁぁ!! 海老鯛ならぬ鯖蟹ですわぁぁ!!」
リーザが桐箱に頬擦りして号泣する。わらしべ長者もびっくりだ。
【優太のプレゼント】
最後に、優太が前に出た。
「リベラさん、僕からはこれを」
優太が差し出したのは、黒いハードケースだった。
「あら、何かしら? 医療器具?」
リベラが箱を開ける。
そこに入っていたのは、鈍い光を放つ無骨な鉄塊――『グロック19(Glock 19 Gen5)』と、専用のコンシールメント・ホルスターだった。
「……!」
会場が静まり返る。
「グロック19です。僕が持っているグロック20よりも小型で扱いやすい9mm弾モデルです。反動も少ないし、スーツの下に隠しても目立たないホルスターも付けました」
優太は爽やかな笑顔で説明した。
「どうぞ。太郎国は比較的平和ですけど、リベラさんは危険な相手と交渉することも多いでしょう? 護身用に使ってください」
その説明を聞いたヒロインたちの脳内に、それぞれの感想が駆け巡る。
キャルル:
(……い、いや、論理的には正解かもしれないけど……! お誕生日のプレゼントに『銃』を渡す男がいる!? どんな感性してるのよ!?)
ルナ:
(花束とか、アクセサリーとかあるでしょうに……。まともそうに見えて、優太様が一番ズレていますわ……)
リーザ:
(……見なかったことにしましょう。関わったら負けですわ。私は蟹缶のことだけを考えるのです……)
ドン引きする少女たち。
しかし、プレゼントを受け取ったリベラだけは違った。
彼女はグロック19を手に取り、慣れた手つきでスライドを引き、チェンバーを確認し、グリップを握りしめた。
その構えは、法廷での弁論ポーズのように様になっていた。
「ふふふ……素晴らしいわ、優太様」
リベラの眼鏡が、怪しく光った。
「ちょうど、明日はマフィアのボスと示談交渉がありましたの。言葉(法律)だけで通じない相手には、この『9mmの説得材料』が欲しかったところよ」
彼女はうっとりと銃身を撫でた。
「ありがとう、優太さん。これで交渉が圧倒的に有利になりますわ♡」
「気に入ってもらえて良かったです!」
キャルル・ルナ・リーザ:
(((この二人、お似合いすぎて怖いわ……!!)))
平和な太郎国(?)の夜。
最強の弁護士は、新たな牙を手に入れた。
ロウソクの火を吹き消すリベラの横顔は、17歳の少女というよりは、これから戦場に赴く女戦士のそれであった。




