EP 36
コタツからの脱出と、文明の利器キャンプ
【コーポ・タロウ・リビング】
「う~ん、極楽、極楽……」
リビングの中央に鎮座する、優太が【地球ショッピング】で購入した「家具調コタツ(ヒーターユニット強)」。
その中には、キャルル、ルナ、リーザの三人が、まるで亀のように首だけ出して埋まっていた。
「そうだなぁ……たまには『キャンプ』ってのも悪くないな」
優太はスマホ画面のようなスキルウィンドウをスワイプしながら、独り言のように呟いた。
画面には、最新のアウトドアグッズや、焚き火台のセール情報が表示されている。
「キャンプぅ?」
キャルルが、みかんの白い筋を丁寧に剥きながら、気だるげに答えた。
「う~ん……私達、本職は冒険者だよ? 野営なんて仕事で散々やってるし、わざわざ休日に硬い地面で寝たくないよぉ」
冒険者にとってのキャンプとは、見張り番を立て、魔物に怯えながら干し肉を齧る「サバイバル」そのものだ。レジャーという認識はない。
「いやいや、僕が言うのは『野営』じゃなくて『レジャーキャンプ』さ」
優太は指を立ててプレゼンを開始した。
「ふかふかのテント、座り心地の良いチェア。そして夜空を見上げながらのバーベキューだ。最高級のカルビやハラミ、厚切りのステーキを炭火で焼いて食べるんだ」
その瞬間、コタツ布団が激しく波打った。
「!!? タンパク質(お肉)!! 行きます!!」
リーザがガバッと起き上がり、血走った目で叫んだ。
「鯖缶も美味しいですけど、やはりアイドルには赤身肉が必要ですわ! 行きます! 這ってでも行きます!」
「そうですわねぇ……。皆さんが行くなら、私もお供しますわ」
ルナも優雅にみかんを口に運びながら同意した。
「野外調理ならお任せになって。火ぐらいは起こせますわ」
彼女が杖を軽く振ると、先端にボッと小さな太陽のような火球が灯った。
「うん、ありがとう。でも火炎龍を出すのは止めてな? 山火事になるから」
優太は即座に釘を刺した。
前回、森林火災で多額の賠償金を払ったトラウマはまだ新しい。
「よし、決まりだな。善は急げだ、行くぞ!」
優太が号令をかけると、キャルルも「お肉が出るなら……」としぶしぶ(でも尻尾を振って)コタツから這い出した。
【タロウ郊外・星見の丘キャンプ場】
街から少し離れた小高い丘。
そこは魔物も少なく、満天の星空が見える絶好のスポットだ。
「ここならいいな。よし、設営開始!」
優太はスキルを発動させた。
『購入:スノーピーク・ランドロック(大型2ルームシェルター)』
『購入:ヘリノックス・チェアワン ×4』
『購入:コールマン・ロードトリップグリル』
「わぁ……! 何これ、お家みたい!」
一瞬で出現した巨大なテントに、キャルルが目を丸くする。
冒険者用の簡素な布切れとは違い、頑丈なフレームと快適な居住空間を持つ現代のテントだ。
「椅子もフカフカですわ! お尻が痛くありません!」
リーザがチェアに座り、感動で震えている。
「さあ、まずは火起こしだ。ルナ、着火剤に少しだけ火を点けてくれ」
「任せてくださいな。……『種火』」
ルナが指先から小さな火種を飛ばし、炭に着火する。今回は火炎龍ではなく、ちゃんと「コンロ用の火」だ。
「よし、肉を焼くぞ!」
優太がクーラーボックスから取り出したのは、霜降りの黒毛和牛、分厚い豚バラ、そしてプリプリのソーセージ。
「焼きまーす!」
ジュワァァァァ……!!
脂が炭に落ちて煙が立ち上り、暴力的なまでに食欲をそそる香りが丘に広がる。
「いただきまーす!!」
キャルルが焼きたてのカルビを口に放り込む。
「んんっ~!! 柔らかぁい! 野営の干し肉と全然違うよぉ!」
「こ、これが……タンパク質の味……! 細胞が喜んでいますわ!」
リーザはステーキを一枚丸ごと皿に乗せ、涙を流しながらナイフを入れている。
「ワインも合いそうですわね。優太さん、ホットワインを作りましょう」
ルナは持参したチーズを炙り、優雅な晩酌を始めた。
【夜・焚き火タイム】
お腹も満たされ、四人は焚き火を囲んでチェアに座っていた。
パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く静寂。
頭上には、異世界の美しい星空が広がっている。
「……綺麗だね」
キャルルがホットココアを飲みながら呟いた。
「仕事で野宿する時は、警戒して空なんて見てる余裕ないから……。こうやってゆっくり星を見るの、初めてかも」
「そうですわね。……あ、流れ星」
リーザが指差す。
「わたくし、願いますわ。……借金完済! 武道館ライブ! あと明日のご飯!」
「リーザちゃん、願いが切実すぎるよ」
優太は苦笑しながら、炎を見つめた。
日本にいた頃は、忙しくてこんな時間を過ごすことはなかった。
異世界に来て、命がけの戦いも多いけれど、こうして仲間と火を囲む時間は悪くない。
「優太さん。素敵な時間をありがとうございます」
ルナが優太の肩に頭を預けてきた。
「ふふ、あったかいですわ」
「ちょっとルナ! 抜け駆け禁止!」
キャルルが反対側の肩にもたれかかる。
「わたくしも寒いですわ~!」
リーザが背中から抱きつく。
「おいおい、重いって……」
優太は文句を言いながらも、悪い気はしなかった。
コタツもいいが、焚き火の温かさは格別だ。
【ピロン!】
> システム通知
> イベント:星空のキャンプファイヤー
> 効果:パーティ全員の精神力(SAN値)が全回復しました
> 獲得ポイント:3,000 P
>
「……まあ、たまにはこういうのもいいか」
優太は夜空を見上げ、深く息を吸い込んだ。
冷たく澄んだ空気が、温かい体に心地よかった。
翌朝、テントの中で「誰が優太の隣で寝るか」という寝袋争奪戦が勃発し、優太がテントの端っこに追いやられることになるのは、また別の話である。




