EP 33
チョコとスルメと、林檎の塔
「えぇっと……まずは日用品ね。トイレットペーパーは特売のダブルにして……あとは洗濯洗剤……」
キャルルが主婦のような顔つきで、チラシと棚を見比べている。
家計を預かる彼女にとって、1円(銅貨の端数)の無駄も許されない。
そんなキャルルの背後で、リーザが忍者のような手つきで動いた。
彼女は棚から『ビッグ・サンダー・チョコバー』を抜き取り、自然な動作で買い物カゴに滑り込ませた。
「……リーザ」
キャルルが振り返りもせずに言った。
「戻してきなさい」
「チッ……バレましたか」
リーザが悔しそうに舌打ちをする。
「駄目よ。もしルナが間違って食べて、また虫歯になったらどうするの? 世界崩壊アゲインよ?」
「まぁ、失礼しちゃうわ。チョコを食べたくらいで、私は泣きませんわ」
ルナがプンスカと怒るが、優太はジト目で指摘した。
「いやいや、この前『あたりめ(スルメ)を食べてた時はヤバかったじゃん。勢い余って舌を噛んだだけで、アパートの周りに食虫植物が大量発生したんだぞ」
「うっ……」
ルナが口を押さえて黙り込む。
あの時は、優太が必死に「痛いの痛いの飛んでいけ」をして、なんとか植物を枯らせたのだ。
「チョコは却下です。……でも、甘いものが食べたいですわ……」
リーザがゾンビのように店内を彷徨い、そして果物コーナーで足を止めた。
「あっ! 優太さぁん! 林檎! 林檎が食べたいですわ!」
彼女が指差した先には、真っ赤な林檎が山積みされたワゴンがあった。
「ね! 良いでしょ? ビタミンはお肌にも良いですし!」
「仕方ないなぁ……。まあ、果物なら健康的だし良いか」
優太が許可を出すと、リーザは「やったぁ!」とワゴンに駆け寄った。
しかし、そこにはただの林檎売り場ではない、ある「ルール」が存在していた。
【果物コーナー・特設ワゴン】
ワゴンの上には、手書きの看板が掲げられている。
『本日の目玉! 林檎の詰め放題!』
『専用の袋に詰めた分だけ —— 銅貨5枚(500円)!』
「詰め放題……!」
優太がゴクリと喉を鳴らす。
ワゴンの周囲には、すでに歴戦の猛者たち――オークの主婦や、ドワーフのお婆ちゃんたちが群がり、殺気立った空気を放っている。
「戦場だね……」
キャルルが目を細めた。
単に袋に入れるだけではない。重力、摩擦、そして袋の強度。全ての物理法則を味方につけた者だけが勝利する、過酷なバトルフィールドだ。
「やりましょう! 私の貧乏テクニックを見せる時ですわ!」
リーザが指定のビニール袋(明らかに小さい)を手に取った。
「まずは袋を伸ばします! 破れる寸前まで!」
リーザが袋を引っ張り、極限まで拡張する。
「あら、袋の拡張なら任せてくださいな……。空間魔法で亜空間に繋げれば、無限に入りますわよ?」
ルナが杖を構えようとする。
「ストップ! それは万引きになるから! あと空間ごと袋が消滅する!」
優太が慌てて止める。
「ルナ、魔法を使うなら『袋の中』じゃなくて、『林檎の固定』に使って。積み上げた林檎が落ちないように、見えない力で支えるの」
「なるほど……。構造強化と摩擦係数の操作ですわね。お安い御用ですわ」
「よし、作戦開始だ!」
【作戦名:バベルの塔】
優太たちはワゴンの隙間に潜り込んだ。
フェーズ1:土台作り
「まずは底に大玉を敷き詰める!」
キャルルが素早い手つきで、底面積を最大化するように林檎を配置する。
フェーズ2:立体機動
「ここからは二段目! 林檎と林檎の隙間に、逆さまにして食い込ませる!」
リーザがパズルのように林檎を嵌め込んでいく。
フェーズ3:魔法による補強
袋の口を大きく超え、林檎が山盛りになってきた。
普通なら崩れ落ちる高さだ。
「ルナ! 今だ!」
「はいな♡ 『微細凍結』!」
ルナが指先を振るうと、林檎同士の接点がわずかに凍りつき、強力な接着効果を生んだ。
もはや袋に入っているというより、袋の上に「林檎のタワー」が建っている状態だ。
「まだ行ける! キャルル、頂上へ!」
「了解!」
キャルルは繊細な指先で、タワーの頂点にさらに林檎を積み上げていく。
そのバランス感覚は、ジェンガの達人級だ。
「完成……! 名付けて『レッド・バベル・タワー』!」
優太たちは息を飲んだ。
小さなビニール袋の上に、実に30個以上の林檎が芸術的に積み上がっている。
「お、おい……あれを見ろ……」
「なんて高さだ……」
周囲のオーク主婦たちも、作業を止めて驚愕している。
【レジカウンター】
優太は、崩落寸前の林檎タワーを、そーっとレジに運んだ。
店員が、そのタワーを見て二度見した。
「……お客さん、これ……」
「(……ダメか? さすがにやりすぎたか?)」
優太が冷や汗を流す。
しかし、店員はニカッと笑い、親指を立てた。
「すげぇ芸術点だ!! 合格!! 銅貨5枚だ!!」
「やったー!!」
キャルル、リーザ、ルナがハイタッチをする。
優太は代金を支払いながら、重たい袋(というか塊)を抱えた。
「どこの世界でも、おばちゃんの戦場と、詰め放題のルールは共通なんだな……」
【ピロン!】
システム通知
成果:林檎(32個)の獲得
善行:フードロス削減への協力(?)
獲得ポイント:500 P
帰り道。
「アップルパイにしましょう!」「焼き林檎もいいですわね!」「私は丸かじり!」と盛り上がる三人の笑顔を見ながら、優太は「当分、おやつは林檎尽くしだな」と苦笑するのだった。




