表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

EP 33

チョコとスルメと、林檎の塔

「えぇっと……まずは日用品ね。トイレットペーパーは特売のダブルにして……あとは洗濯洗剤……」

キャルルが主婦のような顔つきで、チラシと棚を見比べている。

家計を預かる彼女にとって、1円(銅貨の端数)の無駄も許されない。

そんなキャルルの背後で、リーザが忍者のような手つきで動いた。

彼女は棚から『ビッグ・サンダー・チョコバー』を抜き取り、自然な動作で買い物カゴに滑り込ませた。

「……リーザ」

キャルルが振り返りもせずに言った。

「戻してきなさい」

「チッ……バレましたか」

リーザが悔しそうに舌打ちをする。

「駄目よ。もしルナが間違って食べて、また虫歯になったらどうするの? 世界崩壊ラグナロクアゲインよ?」

「まぁ、失礼しちゃうわ。チョコを食べたくらいで、私は泣きませんわ」

ルナがプンスカと怒るが、優太はジト目で指摘した。

「いやいや、この前『あたりめ(スルメ)を食べてた時はヤバかったじゃん。勢い余って舌を噛んだだけで、アパートの周りに食虫植物が大量発生したんだぞ」

「うっ……」

ルナが口を押さえて黙り込む。

あの時は、優太が必死に「痛いの痛いの飛んでいけ」をして、なんとか植物を枯らせたのだ。

「チョコは却下です。……でも、甘いものが食べたいですわ……」

リーザがゾンビのように店内を彷徨い、そして果物コーナーで足を止めた。

「あっ! 優太さぁん! 林檎! 林檎が食べたいですわ!」

彼女が指差した先には、真っ赤な林檎が山積みされたワゴンがあった。

「ね! 良いでしょ? ビタミンはお肌にも良いですし!」

「仕方ないなぁ……。まあ、果物なら健康的だし良いか」

優太が許可を出すと、リーザは「やったぁ!」とワゴンに駆け寄った。

しかし、そこにはただの林檎売り場ではない、ある「ルール」が存在していた。

【果物コーナー・特設ワゴン】

ワゴンの上には、手書きの看板が掲げられている。

『本日の目玉! 林檎の詰め放題!』

『専用の袋に詰めた分だけ —— 銅貨5枚(500円)!』

「詰め放題……!」

優太がゴクリと喉を鳴らす。

ワゴンの周囲には、すでに歴戦の猛者たち――オークの主婦や、ドワーフのお婆ちゃんたちが群がり、殺気立った空気を放っている。

「戦場だね……」

キャルルが目を細めた。

単に袋に入れるだけではない。重力、摩擦、そして袋の強度。全ての物理法則を味方につけた者だけが勝利する、過酷なバトルフィールドだ。

「やりましょう! 私の貧乏テクニックを見せる時ですわ!」

リーザが指定のビニール袋(明らかに小さい)を手に取った。

「まずは袋を伸ばします! 破れる寸前まで!」

リーザが袋を引っ張り、極限まで拡張する。

「あら、袋の拡張なら任せてくださいな……。空間魔法で亜空間に繋げれば、無限に入りますわよ?」

ルナが杖を構えようとする。

「ストップ! それは万引きになるから! あと空間ごと袋が消滅する!」

優太が慌てて止める。

「ルナ、魔法を使うなら『袋の中』じゃなくて、『林檎の固定』に使って。積み上げた林檎が落ちないように、見えない力で支えるの」

「なるほど……。構造強化ハードニングと摩擦係数の操作ですわね。お安い御用ですわ」

「よし、作戦開始だ!」

【作戦名:バベルの塔】

優太たちはワゴンの隙間に潜り込んだ。

フェーズ1:土台作り

「まずは底に大玉を敷き詰める!」

キャルルが素早い手つきで、底面積を最大化するように林檎を配置する。

フェーズ2:立体機動

「ここからは二段目! 林檎と林檎の隙間に、逆さまにして食い込ませる!」

リーザがパズルのように林檎を嵌め込んでいく。

フェーズ3:魔法による補強

袋の口を大きく超え、林檎が山盛りになってきた。

普通なら崩れ落ちる高さだ。

「ルナ! 今だ!」

「はいな♡ 『微細凍結マイクロ・フリーズ』!」

ルナが指先を振るうと、林檎同士の接点がわずかに凍りつき、強力な接着効果を生んだ。

もはや袋に入っているというより、袋の上に「林檎のタワー」が建っている状態だ。

「まだ行ける! キャルル、頂上へ!」

「了解!」

キャルルは繊細な指先で、タワーの頂点にさらに林檎を積み上げていく。

そのバランス感覚は、ジェンガの達人級だ。

「完成……! 名付けて『レッド・バベル・タワー』!」

優太たちは息を飲んだ。

小さなビニール袋の上に、実に30個以上の林檎が芸術的に積み上がっている。

「お、おい……あれを見ろ……」

「なんて高さだ……」

周囲のオーク主婦たちも、作業を止めて驚愕している。

【レジカウンター】

優太は、崩落寸前の林檎タワーを、そーっとレジに運んだ。

店員ゴブリンが、そのタワーを見て二度見した。

「……お客さん、これ……」

「(……ダメか? さすがにやりすぎたか?)」

優太が冷や汗を流す。

しかし、店員はニカッと笑い、親指を立てた。

「すげぇ芸術点だ!! 合格!! 銅貨5枚だ!!」

「やったー!!」

キャルル、リーザ、ルナがハイタッチをする。

優太は代金を支払いながら、重たい袋(というか塊)を抱えた。

「どこの世界でも、おばちゃんの戦場と、詰め放題のルールは共通なんだな……」

【ピロン!】

システム通知

成果:林檎(32個)の獲得

善行:フードロス削減への協力(?)

獲得ポイント:500 P

帰り道。

「アップルパイにしましょう!」「焼き林檎もいいですわね!」「私は丸かじり!」と盛り上がる三人の笑顔を見ながら、優太は「当分、おやつは林檎尽くしだな」と苦笑するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ