EP 32
苺の甘い罠と、窓の外の亡霊たち
「うわぁぁぁ……! すごい! すごいよ優太さん!」
キャルルの目の前に、塔のように聳え立つパフェが運ばれてきた。
『季節限定・完熟苺のプレミアムタワーパフェ(金貨1枚相当)』。
真っ赤な苺がこれでもかと積み上げられ、頂上には金粉が振られている。
「ふふ、今日はキャルルがMVPだからな。遠慮なく食べていいぞ」
「やったぁ! いただきまーす!」
キャルルはスプーンを手に取り、大きな苺を頬張った。
「ん〜っ♡ 甘酸っぱい! 生クリームも濃厚! 幸せの味がするぅ〜♡」
その顔はとろけてしまいそうで、見ている優太まで笑顔になる。
「優太さんも食べて! はい、あーん♡」
「え、いいよ僕は」
「ダメ! 共犯者なんだから! ほら!」
キャルルがスプーンを突き出す。優太は観念して口を開けた。
「ん……美味い。確かにこれはプレミアムだ」
「でしょでしょ? ……えへへ、皆には内緒で二人きりって、なんかドキドキするね」
「そうだな。リーザやルナにバレたら、また騒ぎになるからな」
「だよね〜。特にリーザなんて、食べ物の恨みは怖いもんね」
二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
甘いパフェと、二人の秘密の時間。
窓の外はすでに夜。店内の照明が温かく二人を包む。
平和だ。とても平和なデートだ。
――コン、コン。
不意に、窓ガラスを叩く音がした。
「ん?」
優太がふと窓の方を向く。
そこは3階だ。窓の外には何もないはずだ。
しかし、そこには――。
張り付いていた。
ガラス越しに、二つの顔が。
一つは、恨めしそうに涙を流しながら、ガラスにへばりつくリーザ。
もう一つは、虚ろな目で杖を構え、宙に浮いている(飛行魔法)ルナ。
「ひぃぃぃっ!?」
優太は悲鳴を上げ、キャルルはスプーンを取り落とした。
「優太さぁん……? 窓、開けていただけますぅ……?」
ルナの声が、ガラス越しに微かに、しかし脳内に直接響くように聞こえた。
「ど、どうしてここが!? 内緒にしてたのに!」
キャルルが震える。
優太はおずおずと窓を開けた。
「あ、あの……お二人とも、どうしてここに?」
ぬらり、と二人が店内に侵入してくる(不法侵入)。
「匂いですわ……」
リーザがゾンビのような動きでテーブルに近づき、パフェを凝視した。
「タロウキングの方角から……私の大好物である『高級な糖分』と『優太さんの財布が開く音』が風に乗って聞こえましたの……」
「(どんな聴覚と嗅覚だよ!)」
「私は……優太さんの魔力反応がキャルルさんと密着しているのを感知しましたので……飛んできましたわ」
ルナはハイライトの消えた目でキャルルを見下ろした。
「キャルル? ……抜け駆けは、重罪ですわよ?」
「う、うぐぐ……! で、でも! これは私が働いて稼いだ報酬だもん! リベラ姉からもらった商品券だもん!」
キャルルが必死にパフェをガードする。
「ズルイですわ! 私だっていつも頑張ってますのに! 今日の夕飯なんて、道端で摘んだ野草でしたのよ!?」
リーザが泣き崩れる。
「優太さん……私には内緒で、キャルルとイチャイチャパフェ……。悲しくて、この店ごと氷漬けにしてしまいそうです……」
ルナの杖の先端から、冷気が漏れ出し、パフェの苺が凍り始める。
「ちょっ! 待って! 凍らせないで!」
優太は慌てて立ち上がった。
このままでは、楽しいデートが修羅場(と店舗損壊事件)に変わる。
優太は懐から、リベラからもらった商品券の残りを確認した。
キャルルのパフェで半分使ったが、まだ残額はある。
「分かった! 分かったから! 二人にも奢る! 奢るから座ってくれ!」
「「本当ですの!?」」
二人の表情が一瞬で輝き、目にも止まらぬ速さで席についた。
「店員さぁーん!!」
リーザが手を挙げる。
「『完熟苺のプレミアムタワーパフェ』を一つ! あと『フライドポテト大盛り』と『ドリンクバー』も!」
「私は『苺パフェ』と……優太さんと同じ空気を吸える『スマイル』をくださいな♡」
「(スマイルはメニューにないよ!)」
優太は溜息をつき、追加注文を済ませた。
【数分後】
テーブルの上には、三つの巨大なパフェが並んだ。
「ん〜♡ 美味しいですわ〜! タンポポとは大違いですわ!」
リーザが涙を流しながら貪り食う。
「優太さんと食べるパフェは格別ですわね♡」
ルナも上機嫌だ。
結局、いつものメンバーでの食事会になってしまった。
「むぅ……。せっかくのデートだったのに……」
キャルルが頬を膨らませて、不満げに苺をつついている。
優太は苦笑しながら、テーブルの下でそっとキャルルの手を握った。
「(ごめんな。また埋め合わせするから)」
優太が小声で囁くと、キャルルの耳がピクリと動き、顔が真っ赤になった。
「……うん。約束だよ? 次は絶対に二人きりだからね?」
「ああ、約束する」
キャルルはニシシと笑い、優太の手を握り返した。
その様子を、鋭い目ざとさで見逃さないリーザがいた。
「あ! 机の下で手を繋いでますわ! 延長料金が発生しますわよ!」
「あら、私も繋ぎますわ!」
ルナが反対側の手を掴んでくる。
「もう! 私が先なんだから!」
騒がしい夜のファミレス。
優太の財布(商品券)は空になったが、システムウィンドウには静かに表示されていた。
【ピロン!】
システム通知
ミッション:修羅場の回避とガス抜き
結果:全員の糖分補給完了
報酬:今夜は平和に眠れます(プライスレス)
「ま、これなら安いもんか……」
優太は甘いパフェと、少し騒がしい仲間たちに囲まれて、長い一日を終えるのだった。




