EP 31
雷光の処刑執行と、秘密の苺パフェ
【スラム街・工場跡地】
「くんくん……。こっちです、優太さん。匂いが強くなってる」
キャルルが鼻をひくつかせ、錆びついた鉄扉の前で足を止めた。
中からは、男たちの怒号と、何かが引きずられる音が聞こえてくる。
「……間違いないな」
優太はホルスターの留め具を外し、音もなく扉の隙間から中を覗いた。
薄暗い工場の中央。
麻袋を被せられ、ぐるぐる巻きにされた男――ルカラスが転がされていた。
「助けてくれぇ……! 俺はまだ何も喋ってねぇ! 司法取引なんて知らねぇよぉ!」
「黙れ。組織を裏切ろうとした時点で、テメェの命は終わってんだよ」
ドスの効いた声の男――売人組織の幹部が、ルカラスを見下ろしている。
周囲には抜身の剣を持った構成員が数名。そして、ルカラスの足には重りが結びつけられていた。
「お前をこのまま港に運んで、海に沈めれば全て終わる事だ。魚の餌になりな」
「やばい! 殺される!」
優太が飛び出そうとした瞬間、キャルルが先に動いた。
ダンッ!
「そこまでよ!! 現場を押さえたわ!」
キャルルが鉄扉を蹴破り、堂々と名乗りを上げた。
「あぁ!? なんだテメェら……優男と、ウサギの小娘じゃねぇか。ここが何処だと思って入ってきてんだ? 舐めてんのか!?」
幹部が鼻で笑い、顎をしゃくった。
構成員たちが一斉に殺気を放ち、剣を構えて迫ってくる。
「殺せ。目撃者は消すのがルールだ」
「無駄だ!」
優太の動きは速かった。
【地球ショッピング】で購入したショルダーホルスターから、愛銃**『グロック20』**を抜き放つ。
バン! バン! バン! バン!
乾いた銃声が工場内に反響する。
優太が狙ったのは、人体ではない。構成員たちが握っていた「剣の刀身」だ。
10mmオート弾の強烈な運動エネルギーが、安物の鉄剣を根元からへし折った。
「な、なんだと!?」
「剣が……折れた!?」
手元に残った柄を見て、構成員たちが狼狽える。
「投降しろ!」
優太は硝煙の漂う銃口を、真っ直ぐに幹部の眉間へと向けた。
その構えには一切のブレがない。
「くっ……! 舐めるなよ、冒険者風情が!」
幹部は追い詰められたネズミのように顔を歪めると、懐から赤黒い液体が入った「魔法瓶」を取り出し、地面に叩きつけた。
パリーン!!
「出でよ! 合成魔獣!!」
割れた瓶から黒い霧が噴き出し、異形の怪物が実体化した。
獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ合成獣――キメラだ。
「なっ……街中でキメラだと!?」
優太が目を見開く。
「食い殺せ!! そいつらを八つ裂きにしろ!!」
キメラが咆哮を上げ、優太たちに襲いかかる。
しかし、その前に小さな影が立ちはだかった。
「優太さんを傷付ける人は……誰だろうと蹴り飛ばします!!」
キャルルだ。彼女の背中からは、かつてないほどの闘気が立ち上っている。
「キャルル……よし! 援護は任せろ!」
優太は即座に引き金を引いた。
ドォォン!!
グロック20が火を噴き、キメラの右目――獅子の眼球を正確に撃ち抜いた。
「グギャアアアッ!!」
キメラが視界を失い、一瞬怯む。
その刹那こそが、キャルルの待ち望んだスタートの合図だった。
「(あの特訓を思い出して……!)」
キャルルは深く身を沈め、クラウチングスタートの姿勢をとった。
全身の筋肉バネを極限まで圧縮する。
「行くわよ……!」
バヂヂヂヂッ!!
安全靴から紫電が迸る。
キャルルが地面を爆発させ、弾丸のように射出された。
加速。加速。さらに加速。
「もっと……もっと速く! 私は音速を超える!!」
工場内の空気が裂ける音がした。
5秒台? いや、今の彼女はそれすら置き去りにする速度だ。
トップスピードに乗ったまま跳躍し、空中で前方宙返り。
遠心力、重力、速度、そして全闘気。全てを右足の一点に収束させる。
「でええええい!! 超・電光流星脚!!」
バリバリバリバリッ!!
ドガガガガガガアアアアアアンッ!!!
雷を纏った踵が、キメラの頭部に直撃した。
地竜すら粉砕したその一撃に、合成獣の肉体が耐えられるはずもない。
キメラの顔面は瞬時に炭化し、その巨体は工場の壁を突き破って外まで吹き飛んだ。
「ひ、ひぃぃぃぃ……!!」
幹部が腰を抜かし、ガタガタと震えながら後ずさる。
自分の切り札が一撃で消滅した恐怖に、顔面蒼白だ。
そこへ、紫電を纏ったままのキャルルが着地し、ゆっくりと近づいた。
彼女は跪く幹部の顔の横に、まだバチバチと放電している安全靴の裏をピタリと添えた。
焦げ臭い匂いが、幹部の鼻を刺激する。
「分かった? ……優太さんを傷つけようとしたら、次は貴方の顔がこうなるから」
「あ、あひぃ……! ご、ごめんなさいぃぃ!」
幹部は白目を剥いて失禁し、その場で降参した。
【事件解決・その後】
しばらくして、リベラの通報を受けた憲兵隊が到着し、幹部と構成員、そして保護されたルカラスを連行していった。
ルカラスは「あんな化け物がいるなら、檻の中の方がマシだ!」と叫びながら、喜んで自白することを約束した。
夕焼けが工場の廃墟を赤く染める。
「ふぅ……終わったね」
優太がグロックをホルスターに戻すと、キャルルが勢いよく抱きついてきた。
「えへへ♡ 今日の私、格好良かったでしょ?♡」
上目遣いで尻尾を振る彼女は、さっきまでの雷神のような姿とは別人のように可愛い。
「あぁ。大したもんだよ。あの踏み込み、完璧だった」
優太が頭を撫でると、キャルルは嬉しそうに目を細め、そしてニシシと悪戯っぽく笑った。
「じゃあ……ご褒美が欲しいな♡」
「ご褒美?」
「今日は『タロウキング』で豪遊しましょ! 季節限定の『完熟苺パフェ(プレミアム)』が出てるの! 食べたーい!」
優太は苦笑した。リベラからの報酬(商品券)もあるし、何より今日の彼女の活躍はMVP級だ。
「分かった分かった。好きなだけ食べていいぞ」
「やったぁ〜♡」
「ただし……リーザとルナには内緒だぞ。あいつらが来ると、また店ごと貸切になりかねないからな」
優太が人差し指を立てると、キャルルも声を潜めて「シーッ」と真似をした。
「うん! 二人だけの秘密のデートね♡」
「(デート……まあ、そうなるか)」
二人は工場の跡地を後にし、甘い苺パフェを目指してタロウ・シティへと歩き出した。
今夜ばかりは、トレーニングもお預け。
甘酸っぱい苺と、二人の秘密の時間だけが待っているのだった。




