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EP 29

盆踊りと浴衣、そして射的のスナイパー

街路樹には紅白の提灯がぶら下がり、どこからともなく太鼓と笛の音が聞こえてくる。

そして、鼻をくすぐる焦げたソースの香り。

「なにこれ? お祭り?」

キャルルが鼻をヒクつかせる。

「あ、そうですわ! 今日は年に一度の『タロウ・スピリット・フェスティバル』……通称『ボン・オドリ』の日ですわ!」

リーザが手を叩いた。

「ボン・オドリ……盆踊りかよ」

優太は提灯の明かりを見上げ、苦笑した。

この国、日本のイベントは全部やる気か。

「あら、奇遇ね。皆様もこれからお祭り?」

人混みの中から、涼しげな声をかけてくる人物がいた。

高級な絹の着物を着崩し、扇子を優雅に仰ぐ美女――リベラだ。

「リベラ姉! その格好、似合ってる!」

「ありがとう。父が『日本の伝統衣装を広める』とか言って、大量に輸入したのよ。……優太様たちも、着てみる?」

リベラが指を鳴らすと、控えていたゴルド商会の従業員たちが、人数分の浴衣を持ってきた。

「え、いいんですか?」

「ええ。お祭りには形から入るのが流儀でしょう? さあ、着付けはお任せになって」

【数十分後・祭り会場】

「うわぁ……! 動きにくいけど、なんか可愛い!」

キャルルはピンク色の生地に桜の柄が入ったミニ丈の浴衣を着ていた。足元はもちろん安全靴だが、意外と似合っている。

帯のリボンが、彼女のウサギの尻尾の上で揺れている。

「ふふ、どうかしら? 優太さん」

ルナは白地に紫陽花が描かれた、大人っぽい浴衣だ。

しかし、彼女の豊満なプロポーションが帯を圧迫しており、色気が凄まじいことになっている。

「わたくしは……これ、派手すぎませんこと?」

リーザは黄色い生地に「金貨」と「招き猫」が描かれた、縁起の良さそうな柄だ。

リベラ曰く「金運アップの特注品」らしい。

「みんな似合ってるよ。日本の夏って感じだ」

優太も紺色の浴衣に身を包み、帯を締めていた。

普段の白衣や冒険者装備とは違う、リラックスした雰囲気に、三人の少女たちが頬を染める。

「さあ、行きましょうか。屋台の支払いは、今日は私が持ちますわ(経費で)」

リベラの一言で、タロウ・スピリット・フェスティバルが開幕した。

【屋台めぐり:射的コーナー】

「いらっしゃい! 狙った景品を落とせばゲットだよ!」

強面のテキドワーフが店番をする射的屋。

景品棚には、お菓子やオモチャ、そして特賞として「ミスリル銀のインゴット」が飾られている。

「ミスリル……! あれがあれば武器の強化ができる!」

優太の目が光った。

しかし、渡されたのは粗末なコルク銃だ。弾道は曲がり、威力も弱い。

「ふふん、優太さん。ここは私に任せて!」

キャルルがコルク銃を受け取った。

彼女は屋台のカウンターに片肘をつき、スナイパーのような鋭い目つきで的を凝視した。

「(風速ゼロ……距離2メートル……コルクの偏差修正……)」

彼女の集中力が極限まで高まる。

優太との特訓で培った「動体視力」と「集中力」が、こんなところで火を吹く。

パンッ!

放たれたコルク弾は、吸い込まれるようにミスリルインゴットの重心を捉えた。

ガシャン!

「なっ!?」

店主が目を見開く。

「次! あれも! これも!」

パン! パン! パン!

キャルルは百発百中だった。

チョコバナナ、お面、怪しい壺、そして特賞のインゴット。

棚の上の商品が次々と消えていく。

「や、やめてくれぇぇ! 店が潰れるぅぅ!」

店主の悲鳴を背に、キャルルは大量の戦利品を抱えてドヤ顔をした。

「へへん! 私の目は誤魔化せないよ!」

【屋台めぐり:金魚すくい】

「あら、可愛いお魚さん……」

ルナは金魚すくいの水槽を眺めていた。

水面を泳ぐ色とりどりの金魚(中には小型の水竜の稚魚も混じっている)。

「ポイをどうぞ。紙が破れたら終わりですぜ」

ルナはポイを受け取ると、水面にそっと浸した。

「優しく……優しくすくうのよね……」

しかし、彼女の魔力が無意識に漏れ出してしまう。

パキィィィ……

「え?」

ポイが水に触れた瞬間、水槽の水が一瞬で凍結した。

金魚たちは氷の中に閉じ込められ、静止画のように固まっている。

「あ、あらぁ……? 鮮度保持……?」

「保持しちゃダメだろ! 解凍してあげて!」

優太が慌てて叫ぶ。

結局、店主から「営業妨害だ!」と怒られつつ、お情けで凍った金魚(解凍したら元気に泳ぎ出した)を一匹もらうことになった。

【中央広場・やぐら

祭りの中心には巨大な櫓が組まれ、太鼓のリズムが響いている。

そこから流れてきた曲は――

♪ポンポンポン〜 たぬきのお腹は〜

「あれ? こ、この曲は……!?」

リーザが耳を疑った。

スピーカーから大音量で流れているのは、先日彼女が森で歌った**『タヌキ・ダンシング・オールナイト』**だった。

どうやら、あの時の録音が何らかのルートで流出し、中毒性の高さから祭りのBGMに採用されたらしい。

「リーザ! 出番よ!」

「えっ!?」

リベラが背中を押した。

広場の人々が、リーザの姿に気づいて歓声を上げる。

「あ! 歌のお姉ちゃんだ!」

「本物だ! 金玉の人だ!」

「き、金玉の人じゃありませんわ!!」

リーザは真っ赤になって否定したが、すでに手にはマイクを持たされていた。

櫓の上に押し上げられるリーザ。

スポットライトが当たる。

「も、もう……ヤケクソですわ! 皆様、踊り狂いなさい!!」

リーザは浴衣の袖をまくり、ドジョウ掬いの動きを取り入れた「新・盆踊り」を披露し始めた。

♪ソレ! ポンポコ ピーヒャラ テーンツルリン!

「「「テーンツルリン!!」」」

観客の大合唱。

異世界の住人たちが、日本の変な歌に合わせて輪になって踊る狂乱の夜。

優太は、たこ焼き(リベラのおごり)を頬張りながら、その光景を眺めた。

「……平和だなぁ」

「うん。美味しいし、楽しいね」

隣でキャルルが、チョコバナナを齧りながら笑う。

ルナは金魚の入った袋を大事そうに持ち、リベラは優雅に扇子を使っている。

太郎国。

日本と異世界がデタラメに融合した、カオスで愛すべき国。

優太は、夜空に打ち上がった魔法の花火を見上げながら、

「まあ、骨を埋めるならここでもいいか」

と、少しだけ本気で思うのだった。

【ピロン!】

システム通知

イベント達成:異世界の夏祭り

獲得ポイント:5,000 P

(※リーザの『金玉の人』という二つ名が定着しました)

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