表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/47

EP 28

ドジョウ掬いアイドルと、脂肪燃焼クエスト

「う……も、もしかして……太ったかも……」

キャルルがパーカーの裾をまくり、自分のお腹をつまんでいる。

うっすらと割れていた腹筋の上に、ほんの少しだけ、しかし確実に「柔らかい何か」が乗っていた。

「わ、私もです……。ドレスのファスナーが……息を止めないと上がりませんわ……」

リーザが顔面蒼白で、背中のファスナーと格闘している。

「嫌ぁぁぁ!! 完璧な私のプロポーションがぁぁ!!」

ルナに至っては、鏡の前で自分の顎のラインを必死に確認し、絶望のポーズを決めていた。

ニンニク、背脂、極太麺。あの悪魔的なカロリー爆弾は、等しく彼女たちの脂肪細胞にチャージされていたのだ。

「うん……みんな、立派なジロリアンになってしまったからね」

優太もまた、ベルトの穴を一つ緩めながら遠い目をした。

美味しい代償は重い。物理的に。

「運動よ! 運動しなきゃ!! みんなで冒険者ギルドに行きましょう!!」

キャルルが安全靴を履き、バンバンと床を踏み鳴らす。

「分かったよ。金も稼げるし、運動して痩せられる。一石二鳥だな」

こうして、「ダイエット」という切実な目的のため、一行は再び森へと向かった。

【某所の森・広場】

「よし……ここなら敵も多そうだ」

優太たちは、魔物が頻出するエリアに到着した。

効率よくカロリーを消費するためには、向こうから襲ってきてもらわなければならない。

「じゃあ、リーザ。あの歌を歌ってくれ」

優太が指示を出すと、リーザがキョトンとした。

「え? あの『たぬきのポンポコ節』をですか? ……何故ですの? あれは宴会芸用の曲で、戦闘向きでは……」

「えっと……君のその歌声を聞いていると、僕達の力が湧き上がるからさ(嘘だけど)」

優太は真顔で言い切った。

本当は、あのふざけた歌詞と騒がしいリズムで、周囲のモンスターの注意を引きつけ(ヘイトを集め)、一網打尽にする作戦だ。

「まぁ♡ そう言われては断れませんわ! 私の歌で皆様を鼓舞します!」

リーザはその気になり、リュックから「ステージ衣装」を取り出した。

それはいつものドレスではない。

手ぬぐいを被り、鼻に五円玉を貼り付け、腰には魚籠ビクをつけた、伝統的な「ドジョウ掬い」の格好だった。

「(……なんでその衣装を持ってるんだ)」

優太がツッコミを飲み込む中、リーザはザルを両手に持ち、腰を落としてコミカルに踊り始めた。

「さあ! 参りますわよ! 『タヌキ・ダンシング・オールナイト』!!」

> ♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン

> ♪月よ~月で~頭は ハーゲハゲでピーカピカ~

> ♪お尻はツールツル~ 金玉はマ〜ルマル~!

> (ソレ! ヨイヨイ!)

>

「グギャ?」

「ブモ?」

森の奥から、騒ぎを聞きつけたゴブリンやオークたちが顔を出す。

しかし、彼らは襲いかかるのを忘れ、目の前で踊る「奇妙な生きリーザ」に釘付けになっている。

> 【二番】

> ♪は、は、葉っぱを乗せても ドロンとドンドン

> ♪化けよ~化けで~尻尾は ボーサボサでチョーロチョロ~

> ♪おヘソはデベソだ~ 金玉はユーラユラ~!

> (ア、ドッコイ!)

>

モンスターたちがジリジリと集まってくる。

「なんだあれは?」「金玉……?」「ユーラユラ?」とでも言いたげに、完全に隙だらけだ。

> 【三番】

> ♪と、と、トックリ抱えて グイグイグイグイ

> ♪酒よ~酒で~目玉は クルークルのパーラパラ~

> ♪足元フラツク~ 金玉はブーラブラー!

> (ソレ! モヒトツ!)

>

「(下ネタのオンパレードだな……太郎のセンスはどうなってるんだ)」

優太が呆れる横で、リーザは最後の決めポーズに入った。

> 【締め】

> ♪み~んな合わせて 腹太鼓~

> ♪ポンポコ ピーヒャラ テーンツルリン!

>

「ブモォォォォ!!(訳:よくわからんが腹立つ!!)」

歌が終わった瞬間、集まったオークたちが興奮して襲いかかってきた。

作戦通りだ。

「よし! 行くわよ! 脂肪燃焼!!」

キャルルが飛び出した。

彼女はトンファーを構え、回転しながら敵の群れに突っ込む。

「月影流……月衝破げっしょうは!!」

ドォォン!!

キャルルがトンファーに全闘気を込め、オークの腹部に突きを放つ。

衝撃波が背中まで突き抜け、オークがくの字に折れ曲がって吹き飛んだ。

「ワンツー! ワンツー! 有酸素運動よぉぉ!」

彼女は止まらない。流れるような演舞で次々と敵を殴打していく。汗と共にカロリーが散っていく。

「えぇっと……前回は燃やして怒られたから、今日は凍らせましょう♡」

ルナは優雅に世界樹の杖を掲げた。

炎熱魔法は封印だ。森に優しい(?)氷魔法を選択する。

「『氷狼召喚サモン・フェンリル』! お行きなさい、可愛いワンちゃんたち!」

空間から、透き通るような氷でできた狼の群れが出現した。

氷狼たちはゴブリンの群れに飛びかかると、その口から白い冷気を吐き出した。

『絶対零度ブレス(アブソリュート・ゼロ)』

「ギャ……ッ!?」

ゴブリンたちが悲鳴を上げる間もなく、カチンコチンに凍りつき、氷像へと変わっていく。

森の緑はそのままに、敵だけが芸術的なオブジェと化した。

「よし! 僕も初心に帰って……!」

優太は薙刀を構えた。

銃も便利だが、体を動かさなければダイエットにならない。

彼は外科医としての知識を刃に乗せる。

「(頸動脈……大腿動脈……正中神経……)」

優太の動きに無駄はない。

襲い来るオークの攻撃を最小限の動きで躱し、すれ違いざまに薙刀の切っ先を走らせる。

スパッ。

鮮やかな斬撃が、オークの首筋(頸動脈)を正確に切り裂いた。

大量出血と共に、巨体が崩れ落ちる。

「ふぅ……!」

三人(と一人の踊り子)の猛攻により、集まったモンスターの群れは瞬く間に壊滅した。

「はぁ……はぁ……。どう? 優太さん! 私、痩せた!?」

キャルルが汗だくになりながら、期待の眼差しでウエストを見せる。

「うん、動きにキレがあったよ。確実に燃焼してる」

「やったぁ!」

【ピロン!】

> システム通知

> クエスト達成:モンスターの群れの討伐

> 追加成果:余剰カロリーの消費(-1500kcal)

> ボーナス:ドジョウ掬いによる敵への精神攻撃

> 獲得ポイント:3,000 P

>

「……さて」

優太は、まだ鼻に五円玉をつけたまま「ハァハァ」と息をしているリーザを見た。

「リーザ、その格好……街に戻る前に着替えてくれよ? アイドルとしての尊厳が死ぬから」

「は、はい……。でも、お腹が減りましたわ……」

「ラーメンは禁止だぞ」

「うぅ……」

森に平和が戻り、少しだけスリムになった一行は、心地よい疲労感と共に帰路についたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ