EP 28
ドジョウ掬いアイドルと、脂肪燃焼クエスト
「う……も、もしかして……太ったかも……」
キャルルがパーカーの裾をまくり、自分のお腹をつまんでいる。
うっすらと割れていた腹筋の上に、ほんの少しだけ、しかし確実に「柔らかい何か」が乗っていた。
「わ、私もです……。ドレスのファスナーが……息を止めないと上がりませんわ……」
リーザが顔面蒼白で、背中のファスナーと格闘している。
「嫌ぁぁぁ!! 完璧な私のプロポーションがぁぁ!!」
ルナに至っては、鏡の前で自分の顎のラインを必死に確認し、絶望のポーズを決めていた。
ニンニク、背脂、極太麺。あの悪魔的なカロリー爆弾は、等しく彼女たちの脂肪細胞にチャージされていたのだ。
「うん……みんな、立派なジロリアンになってしまったからね」
優太もまた、ベルトの穴を一つ緩めながら遠い目をした。
美味しい代償は重い。物理的に。
「運動よ! 運動しなきゃ!! みんなで冒険者ギルドに行きましょう!!」
キャルルが安全靴を履き、バンバンと床を踏み鳴らす。
「分かったよ。金も稼げるし、運動して痩せられる。一石二鳥だな」
こうして、「ダイエット」という切実な目的のため、一行は再び森へと向かった。
【某所の森・広場】
「よし……ここなら敵も多そうだ」
優太たちは、魔物が頻出するエリアに到着した。
効率よくカロリーを消費するためには、向こうから襲ってきてもらわなければならない。
「じゃあ、リーザ。あの歌を歌ってくれ」
優太が指示を出すと、リーザがキョトンとした。
「え? あの『たぬきのポンポコ節』をですか? ……何故ですの? あれは宴会芸用の曲で、戦闘向きでは……」
「えっと……君のその歌声を聞いていると、僕達の力が湧き上がるからさ(嘘だけど)」
優太は真顔で言い切った。
本当は、あのふざけた歌詞と騒がしいリズムで、周囲のモンスターの注意を引きつけ(ヘイトを集め)、一網打尽にする作戦だ。
「まぁ♡ そう言われては断れませんわ! 私の歌で皆様を鼓舞します!」
リーザはその気になり、リュックから「ステージ衣装」を取り出した。
それはいつものドレスではない。
手ぬぐいを被り、鼻に五円玉を貼り付け、腰には魚籠をつけた、伝統的な「ドジョウ掬い」の格好だった。
「(……なんでその衣装を持ってるんだ)」
優太がツッコミを飲み込む中、リーザはザルを両手に持ち、腰を落としてコミカルに踊り始めた。
「さあ! 参りますわよ! 『タヌキ・ダンシング・オールナイト』!!」
> ♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン
> ♪月よ~月で~頭は ハーゲハゲでピーカピカ~
> ♪お尻はツールツル~ 金玉はマ〜ルマル~!
> (ソレ! ヨイヨイ!)
>
「グギャ?」
「ブモ?」
森の奥から、騒ぎを聞きつけたゴブリンやオークたちが顔を出す。
しかし、彼らは襲いかかるのを忘れ、目の前で踊る「奇妙な生き物」に釘付けになっている。
> 【二番】
> ♪は、は、葉っぱを乗せても ドロンとドンドン
> ♪化けよ~化けで~尻尾は ボーサボサでチョーロチョロ~
> ♪おヘソはデベソだ~ 金玉はユーラユラ~!
> (ア、ドッコイ!)
>
モンスターたちがジリジリと集まってくる。
「なんだあれは?」「金玉……?」「ユーラユラ?」とでも言いたげに、完全に隙だらけだ。
> 【三番】
> ♪と、と、トックリ抱えて グイグイグイグイ
> ♪酒よ~酒で~目玉は クルークルのパーラパラ~
> ♪足元フラツク~ 金玉はブーラブラー!
> (ソレ! モヒトツ!)
>
「(下ネタのオンパレードだな……太郎のセンスはどうなってるんだ)」
優太が呆れる横で、リーザは最後の決めポーズに入った。
> 【締め】
> ♪み~んな合わせて 腹太鼓~
> ♪ポンポコ ピーヒャラ テーンツルリン!
>
「ブモォォォォ!!(訳:よくわからんが腹立つ!!)」
歌が終わった瞬間、集まったオークたちが興奮して襲いかかってきた。
作戦通りだ。
「よし! 行くわよ! 脂肪燃焼!!」
キャルルが飛び出した。
彼女はトンファーを構え、回転しながら敵の群れに突っ込む。
「月影流……月衝破!!」
ドォォン!!
キャルルがトンファーに全闘気を込め、オークの腹部に突きを放つ。
衝撃波が背中まで突き抜け、オークがくの字に折れ曲がって吹き飛んだ。
「ワンツー! ワンツー! 有酸素運動よぉぉ!」
彼女は止まらない。流れるような演舞で次々と敵を殴打していく。汗と共にカロリーが散っていく。
「えぇっと……前回は燃やして怒られたから、今日は凍らせましょう♡」
ルナは優雅に世界樹の杖を掲げた。
炎熱魔法は封印だ。森に優しい(?)氷魔法を選択する。
「『氷狼召喚』! お行きなさい、可愛いワンちゃんたち!」
空間から、透き通るような氷でできた狼の群れが出現した。
氷狼たちはゴブリンの群れに飛びかかると、その口から白い冷気を吐き出した。
『絶対零度ブレス(アブソリュート・ゼロ)』
「ギャ……ッ!?」
ゴブリンたちが悲鳴を上げる間もなく、カチンコチンに凍りつき、氷像へと変わっていく。
森の緑はそのままに、敵だけが芸術的なオブジェと化した。
「よし! 僕も初心に帰って……!」
優太は薙刀を構えた。
銃も便利だが、体を動かさなければダイエットにならない。
彼は外科医としての知識を刃に乗せる。
「(頸動脈……大腿動脈……正中神経……)」
優太の動きに無駄はない。
襲い来るオークの攻撃を最小限の動きで躱し、すれ違いざまに薙刀の切っ先を走らせる。
スパッ。
鮮やかな斬撃が、オークの首筋(頸動脈)を正確に切り裂いた。
大量出血と共に、巨体が崩れ落ちる。
「ふぅ……!」
三人(と一人の踊り子)の猛攻により、集まったモンスターの群れは瞬く間に壊滅した。
「はぁ……はぁ……。どう? 優太さん! 私、痩せた!?」
キャルルが汗だくになりながら、期待の眼差しでウエストを見せる。
「うん、動きにキレがあったよ。確実に燃焼してる」
「やったぁ!」
【ピロン!】
> システム通知
> クエスト達成:モンスターの群れの討伐
> 追加成果:余剰カロリーの消費(-1500kcal)
> ボーナス:ドジョウ掬いによる敵への精神攻撃
> 獲得ポイント:3,000 P
>
「……さて」
優太は、まだ鼻に五円玉をつけたまま「ハァハァ」と息をしているリーザを見た。
「リーザ、その格好……街に戻る前に着替えてくれよ? アイドルとしての尊厳が死ぬから」
「は、はい……。でも、お腹が減りましたわ……」
「ラーメンは禁止だぞ」
「うぅ……」
森に平和が戻り、少しだけスリムになった一行は、心地よい疲労感と共に帰路についたのだった。




