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EP 27

黄色い看板の魔境と、ニンニク入れますか?

「よぉ! お疲れ、優太」

紫煙をくゆらせながら、リュウが作業着のポケットに手を突っ込んで近づいてきた。

「お疲れ様です、リュウさん」

「なんかな、太郎がよぉ……また変なもん作りやがったんだ。『新しいラーメン店を作った』とか言ってな。俺に無料回数券を回してくれたんだよ」

リュウは呆れたように笑いながら、数枚の黄色いチケットを差し出した。

「ラーメンですか? 太郎さん、本当に日本の食文化を再現するのに命かけてますね」

「おうよ。でもな、俺たち家族だけじゃ使いきれねぇからよ。お前にもやるよ」

リュウは4枚綴りのチケットを優太の手に押し付けた。

「え、いいんですか? 悪いですって」

「いいんだいいんだ。太郎曰く、これは『試食会』も兼ねてるらしい。『最初は無料にして、味を覚えさせて、依存させる戦法』だとか言ってたぜ」

「(……言い方が売人のそれなんだよなぁ)」

リュウはニカッと笑い、優太の肩をバンと叩いた。

「可愛い彼女達を誘って、男を上げてこいよ。美味い飯を奢れば、イチコロだろ?」

「いっ!? か、彼女だなんて……そんな、あの……ただの同居人で……」

優太が顔を赤くして否定するが、リュウは聞く耳を持たず「いいからいいから」と笑って去っていった。

【その日の夕方】

アパートに帰った優太は、空腹を訴える三匹のヒナ鳥(キャルル、ルナ、リーザ)を連れて、チケットに記された場所へと向かった。

そこは、タロウ・シティの裏通り。

異様なオーラを放つ、黄色い看板と赤い暖簾の店があった。

『ラーメン 太郎二郎タロウジロウ

店の前には、すでに屈強なオークやドワーフたちが列をなし、独自の緊張感が漂っている。

豚骨を煮込みすぎた獣臭と、強烈なニンニクの香りが路上まで漏れ出している。

「……ラーメン太郎二郎店……二郎系かよ……!」

優太は立ち尽くした。

それはラーメンであってラーメンではない。「二郎」という名の格闘技だ。

「デートなんて生易しいものじゃない……。ここは戦場だぞ……」

「わぁ! 良い匂い! お肉の匂いがします!」

キャルルが無邪気に鼻を鳴らす。

「タダでラーメン……! 太郎様に感謝ですわ!」

リーザも目を輝かせている。

優太は戦慄した。彼女たちは知らないのだ。これから待ち受ける「暴力」の味を。

【店内・カウンター席】

「いらっしゃい!」

ねじり鉢巻をしたマッチョな店主(元オークキング)の野太い声が響く。

店内は殺伐としており、客たちは無言で丼と向き合い、ただひたすらに麺を啜る音だけがBGMだ。

優太たちは横並びの席に座った。

「ご注文は?」

店主がドスの効いた声で尋ねる。

カウンターには、呪文のような文字が書かれたメニュー表が貼られていた。

赤インクで殴り書きされたそれは、まるで血文字のようだ。

「……これ、何ですの?」

ルナがメニューを読み上げた。

「『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ』……? 攻撃魔法の詠唱かしら?」

「えっと、私もそれにする! 強そうだし!」

キャルルも続く。

「リーザは知ってますの? これの意味」

リーザが自信ありげに頷いた。

「ええ、太郎様から聞いたことがありますわ……。『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメと唱えれば、天国へ飛べるぞ』と」

「やめろぉぉぉ!!」

優太が叫んだ。

「それは魔法じゃない! 『野菜超大盛り・刻みニンニク投入・背脂ドバドバ・味超濃い目』っていう、死の宣告だ! 引き返せないぞ!!」

しかし、時すでに遅し。

店主の目がギラリと光った。

「へい! 畏まりましたァッ!! 全マシマシ、4丁ォォ!!」

「あっ……終わった……」

優太は灰になった。

自分も巻き込まれた。

着丼ちゃくどん

ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

カウンターに置かれたのは、もはや丼ではない。茶色い山だった。

もやしとキャベツのタワー。その頂上には、雪のように積もった刻みニンニクと、煮凝りのような背脂の塊。

スープは表面張力の限界を超え、受け皿にこぼれ落ちている。

「こ、これは……」

優太が絶句する。日本で見た二郎よりも、異世界の魔物肉を使っている分、凶暴さが増している。

「これを……食べるの?」

キャルルの耳がペタリと垂れた。

体育会系の彼女でも、この量は未知の領域だ。

「ひぇぇ……。一週間分のカロリーが……」

リーザが震える。

「あら、意外といい香り……いえ、目が! ニンニクの刺激で目が痛いですわ!」

ルナが涙目になる。

「……残したら、ギルティ(有罪)だ。行くぞ……!」

優太は割り箸を割り、覚悟を決めた。

「「「い、いただきます……」」」

【実食・死闘】

まずは野菜の山を切り崩さなければ、麺にたどり着けない。

キャルルはアスリートの本能で、機械的に野菜を口に運び始めた。

「んぐっ……味がない……あ、スープに浸すと……しょっぱい! でも……脂が甘い……?」

ルナは魔法で箸を操ろうとしたが、脂で滑ってうまく掴めない。

「なんて野蛮な……! でも、悔しいけれど……この極太の麺、噛みごたえがあって……クセになりそうですわ……!」

リーザは、貧乏精神を発揮した。

「こ、これを逃せば、次はいつお肉にありつけるか分かりませんわ……! 脂身は栄養素! ニンニクは風邪薬! 食べるのですリーザ!」

彼女たちは、無心で貪った。

途中から、味の感想は消え、ただ「嚥下」するという作業になった。

優太は「天地返し(麺と野菜をひっくり返す技)」を駆使し、なんとか完食を目指す。

「うっぷ……もう……無理……」

「でも……完食しないと……太郎様に申し訳が……」

彼女たちの胃袋の中で、極太麺が水分を吸って膨張していく。

ニンニクと脂の暴力的な旨味が、脳髄を痺れさせる。

【翌朝・コーポタロウ】

朝5時。

まだ太陽も昇りきらない薄暗い廊下に、悲痛な叫びが響き渡っていた。

「ど、どいてぇぇぇ!! 私が先よぉぉ!!」

キャルルがトイレのドアノブを掴んで叫ぶ。

「駄目ですわ! アイドルの尊厳に関わる緊急事態なんですの!! お腹の中で雷竜が暴れてますわ!!」

リーザが涙目でキャルルを引き剥がそうとする。

「あぁ……神よ……。世界を滅ぼしますから……どうか腹痛を止めて……」

ルナはすでに床にうずくまり、真っ青な顔でうわ言を呟いている。

そして優太もまた、自室のベッドで脂汗を流していた。

太郎が仕掛けた「二郎系」という名の罠。

それは、ニンニクと脂による消化器系へのダイレクトアタックだった。

【ピロン!】

> システム通知

> 状態:胃もたれ・腹痛(重度)

> 原因:オーバードーズ・オブ・ガーリック&アブラ

> 教訓:ご利用は計画的に

>

その日、セーラ治療院には「原因不明の集団腹痛」により、優太たちが揃って遅刻の連絡を入れることになった。

そして伝説の勇者リュウは、やつれた顔で出勤してきた優太を見て、「おう、昨日はハッスルしすぎたか? 若いねぇ」と、最悪の誤解を深めるのだった。

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