表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

EP 19

すき焼きと生卵、そして仁義なき肉争奪戦

「ただいまー! さあ、鍋だ鍋だ! お肉だー!」

玄関を開けるなり、キャルルが安全靴を脱ぎ捨ててリビングへダイブした。

お風呂上がりの適度な空腹感。コンディションは万全だ。

「優太さん、食材費は私の『へそくり(オーク討伐報酬)』を出しますわ! 今日こそはパンの耳以外を食べ尽くします!」

リーザも鼻息が荒い。

優太はキッチンに向かい、腕まくりをした。

「じゃあ、今日は日本のご馳走の王様……『すき焼き』にしようか」

「スキヤキ……?」

三人が首を傾げる。

太郎国には様々な料理が伝わっているが、高級料理であるすき焼きは、まだ庶民(貧乏アイドルや冒険者)には浸透していないようだ。

「甘辛いタレで牛肉と野菜を煮込んで、溶いた生卵につけて食べるんだ」

「な、生卵ですって!?」

リーザが悲鳴を上げた。

「優太さん、正気ですの!? 生の卵なんて、お腹を壊してトイレの住人になってしまいますわ!」

「大丈夫。僕のスキルで出した卵は、徹底的に衛生管理された『日本の卵』だから。絶対に当たらないよ」

優太は自信満々に【地球ショッピング】のウィンドウを開いた。

『購入:黒毛和牛(切り落とし大パック)』×3

『購入:長ネギ、焼き豆腐、しらたき、春菊』

『購入:ヨード卵・光(6個パック)』

『購入:エバラ すき焼きのたれ』

次々と現れる高級食材たち。特に、サシの入った美しい牛肉の輝きに、三人の目が釘付けになった。

「こ、これが……お肉……? 宝石みたい……」

「よし、準備するぞ。……あ、ルナさん?」

優太が振り返ると、ルナが杖を構えてコンロの前に立っていた。

「私、火を点けますわ! 『地獄の業火ヘル・ファイア』!」

「ストーーップ!!」

優太はスライディングで止めに入った。

「その魔法だと鍋ごと蒸発する! コンロのスイッチひねるだけでいいから!」

「あら、残念……」

【実食:すき焼きパーティー】

リビングのテーブルにカセットコンロ(スキル産)と鉄鍋がセットされた。

牛脂を溶かし、ネギを焼いて香りを出す。そこへ肉を投入。

ジュワァァァ……!

たまらない音が響き、肉の焼ける匂いが部屋中に充満する。

「うわぁぁぁ……! いい匂いぃぃ!」

キャルルの耳がメトロノームのように揺れている。

「そこへ『割りたれ』を投入!」

優太がタレを回し入れると、醤油と砂糖の焦げる甘い香りが爆発的に広がった。

野菜と豆腐を加え、煮立つのを待つ。

「さあ、この器に卵を割って、溶いて待ってて」

三人は恐る恐る、しかし優太を信じて卵を溶いた。

「よし、煮えた! 食べていいよ!」

「「「いただきます!!」」」

キャルルが一番に箸を伸ばし、肉を卵に潜らせて口に放り込んだ。

「んんっ!!?」

彼女の動きが止まる。

「あまじょっぱいタレと、お肉の脂が……卵でまろやかになって……口の中で溶けたぁぁぁ!! なにこれぇぇぇ!!」

「わたくしも……!」

リーザが震える手で肉を口にする。

「……っ!! (号泣)」

言葉にならないようだ。ただひたすらに、目から涙を流しながら肉を噛み締めている。

パンの耳生活からの落差が激しすぎて、脳が処理落ちしているらしい。

ルナも一口食べ、頬を染めてうっとりとした。

「あら……。こんなに野蛮な見た目なのに、味はとっても繊細でエレガントですわ。優太さんのようですわね♡」

「(野蛮な見た目って……)」

優太も肉を食べた。

日本の味だ。エバラのタレは裏切らない。

「さあ、どんどん食べて。肉はまだあるから」

その言葉が、戦いのゴングだった。

「このしらたきは私のよ! 味が染みてて美味しいの!」

「春菊は渡しませんわ! この苦味が大人なんです!」

「あら、お豆腐が逃げていきますわ(魔法で浮かせながら)」

「ルナ! 魔法禁止! 箸を使いなさい!」

鍋を囲む箸と箸のぶつかり合い。

それはまさに、小さな戦争だった。

しかし、そこには笑顔があった。

【ピロン!】

> システム通知

> 善行:食卓の団欒(異文化交流と栄養補給)

> 獲得ポイント:3,000 P

>

優太はビール(ノンアルコール)を飲みながら、賑やかな食卓を眺めた。

一人暮らしの侘しい夕食とは違う、温かい時間。

1万ポイントの時限爆弾ルナも、今はただの食いしん坊なエルフだ。

「ふぅ……美味しかった……」

鍋が空になり、締めに入れた「うどん」まで完食した三人は、座布団の上で幸せそうに転がっていた。

「優太さん、最高……。私、もうこの家から出られないかも……」

「わたくしもです……。明日からパンの耳に戻れる気がしません……」

「優太さん、毎日これ作ってくださいな♡」

優太は苦笑しながら、食器を片付けた。

「毎日は無理だけど、また作ってあげるよ。……さ、明日はみんな仕事だろ? もう寝よう」

「はーい……」

こうして、濃厚な一日は終わりを告げた。

優太は自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

「……疲れたけど、悪くないな」

天井を見上げ、目を閉じる。

明日もまた、セーラ治療院での激務と、この騒がしい同居人たちとの生活が待っている。

しかし、今の優太には、それを乗り越えるための「仲間」と「ポイント(貯金)」があった。

(……おやすみ、みんな)

優太の寝息が聞こえ始めた頃。

リビングでは、ルナがこっそりと起き出し、冷蔵庫のプリン(優太の明日の分)を狙ってキャルルに取り押さえられるという、小さな事件が起きていたことを彼は知らない。

【中村優太の異世界生活 2日目終了】

現在の所持ポイント:24,650 P

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ