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EP 17

慶應ガールの補習授業と、ドクターグリップ

「ふぅ……美味しかったぁ……。もう食べられないよぉ……」

キャルルが膨らんだお腹をさすりながら、ソファに沈み込んでいる。

リーザもまた、ビーフシチューの皿を舐めるように完食し、恍惚の表情を浮かべていた。

「さて、お腹も満たされたことですし……」

リベラが眼鏡の位置を「カチャリ」と直し、優雅に紅茶を置いた。

その瞬間、キャルルとリーザの背筋が凍りついたように伸びる。

「『代金』を支払っていただきましょうか。……もちろん、お金ではなく『脳ミソ』でね」

リベラは鞄から分厚い参考書と問題集を取り出し、ドサリとテーブルに置いた。

「ひぃっ! で、出た! リベラ姉のスパルタ教室!」

「今日は勘弁してくださいまし! 新曲の振り付けを覚えるので脳の容量がいっぱいですの!」

「却下します。キャルルは先日のクエスト報酬の計算を間違えていましたね? リーザは漢字の読み書きが怪しいままです。契約書を読めずにサインして、また変な事務所に騙されたいのですか?」

リベラの正論(詰め)に、二人はぐうの音も出ない。

これが、リベラがスポンサーをする代わりの条件――「一般教養の底上げ」だった。

「さあ、始めますわよ。……あら?」

リベラが筆記用具を取り出そうとして、眉をひそめた。

彼女が愛用している高級羽ペンが、インク切れを起こしていたのだ。

「しまったわ。インク壺を馬車に忘れてきてしまった……」

「あ、それなら僕が」

見かねた優太が手を挙げた。

インテリ仲間として、そして奢ってもらったお礼として、ここは良いところを見せておきたい。

【地球ショッピング起動】

『購入:パイロット ドクターグリップ(シャープペンシル・0.5mm)』×4本

『購入:キャンパスノート(A4・5冊パック)』

『購入:消しゴム(MONO)』

「これを使ってください。僕の世界の筆記用具です」

優太は、人間工学に基づいた太めの軸を持つシャープペンシルと、高品質なノートを差し出した。

「……! これは……」

リベラがドクターグリップを手に取り、その感触を確かめる。

「このグリップの弾力……指への負担を極限まで減らす設計……。それに、この『MONO』という消しゴムの消字能力……!」

彼女は試し書きをし、そして消しゴムで消してみて、感嘆の吐息を漏らした。

「素晴らしいわ。こちらの世界の硬いペンと羊皮紙では、長時間の書類作成で腱鞘炎になりかけていましたの。……さすが、日本の技術力ね」

「気に入ってもらえて良かったです。勉強、頑張ってくださいね」

「ええ。……優太様も参加するのですよ?」

「え?」

リベラはニッコリと微笑み、優太の前にもノートを広げた。

「貴方はこの世界の法律と常識が欠けています。医者として働くなら、医療法や薬事法(私が作った法案ですが)を知っておくべきですわ」

「うっ……ごもっともです」

こうして、優太も巻き込んだ勉強会が始まった。

〜数十分後〜

「うぅ……数字が……数字が踊ってるよぉ……」

キャルルが白目を剥いている。

「この漢字……『薔薇』……書けませんわ……画数が多すぎます……」

リーザがMONO消しゴムを握りしめて震えている。

「あら、優太さんのお顔を描きましたの♡」

ルナだけはノートに優太の似顔絵(美化200%)を描いて遊んでいるが、リベラは「芸術点が高いのでヨシ」とスルーしている。

そんな中、リベラがふと優太に話しかけた。

「そういえば、優太様。貴方のスキル……食品も出せましたわよね?」

「ええ、出せますよ」

「……実は、相談があるのですけれど」

常勝無敗の弁護士が、少しだけ頬を染めて、モジモジと視線を逸らした。

「その……私の執務室に、『甘いもの』を定期配送していただけないかしら? こちらのお菓子は砂糖が貴重で、甘さが足りなくて……」

激務のストレスを抱える彼女にとって、糖分はガソリンそのものなのだ。

「ああ、お安い御用ですよ。日本のチョコやクッキーでいいですか?」

「ええ! 是非! ……特に、あの『アルフォート』と『たけのこの里』が恋しくて……!」

リベラが身を乗り出してきた。クールな仮面の下にある、元・日本女子の素顔だ。

「分かりました。じゃあ、今出しますね」

優太が『ファミリーパック』の大袋を取り出すと、リベラの目が獲物を狙う猛禽類のように輝いた。

「ありがとうございます……! これで明日からの『対・国税局 査察対応』も乗り切れそうですわ!」

【ピロン!】

> システム通知

> 善行:激務の弁護士への糖分補給(精神安定への寄与)

> 獲得ポイント:1,000 P

> 追加報酬:リベラ・ゴルドの好感度が大幅アップ(専属弁護契約が結ばれました)

>

優太は苦笑した。

最強の弁護士も、チョコ一袋で買収できる。

この「チョロさ」こそが、彼女たちが太郎国で逞しく生きている秘訣なのかもしれない。

「さあ、糖分も補給したことですし……キャルル、リーザ? あと10ページ進むまでは帰しませんわよ?」

「「ひぃぃぃぃ!!」」

タロウキングのボックス席に、少女たちの悲鳴と、優太がページをめくる音だけが響いていた。

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