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EP 16

黄金の弁護士と、経費という名の魔法

「はぁ……。『次に森を燃やしたら、植林ボランティア100時間の刑』だってさ……」

優太は重いため息をついた。

オーガ討伐の報酬は出たものの、環境修復のための罰金が差し引かれ、手元に残ったのは微々たる額だった。

「しょうがないよ。これくらいで済んでラッキーだと思わなきゃ」

キャルルはケロッとしている。

隣では、元凶であるルナが「テヘッ♡」と舌を出しており、優太の胃痛を加速させている。

「うぅ……お腹すきましたわ……。罰金のせいで、今日のランチ代が……」

リーザがフラフラと歩きながら、悲痛な声を上げた。

そこでキャルルが何かを思いつき、指をパチンと鳴らした。

「そうだ! しょうがない、『姉さん』を呼ぼう!」

「姉さん?」

優太が聞き返すと、キャルルは魔導通信石を取り出した。

「うん、リベラ姉さん。こういう時は、スポンサーになってもらうのが一番よ!」

「(スポンサー……?)」

キャルルは慣れた手つきで通話を開始した。

「あ、もしもしリベラ姉さん? ……うん、キャルルだよ。今から『タロウキング』でランチ行くんだけど、時間空いてる? ……え? ちょうど近くの裁判所で勝訴したところ? さすがぁ! ……うん、うん、分かった。じゃあ、店前で待ってるから♡」

通話を切ったキャルルは、ニシシと勝ち誇った顔をした。

「来るって! これで今日の支払いは安泰よ!」

「リベラ姉さんは忙しい方ですから、捕まえられたのは奇跡ですわ」

リーザが安堵の表情を浮かべる。

「ルナさん、そのリベラさんって人は何者なの?」

「あら、ご存知ない? 彼女は弁護士ですわ。とっても賢くて、お強い方よ」

「弁護士? 異世界に弁護士がいるのか……凄いな」

優太が感心していると、大通りの向こうから、周囲の馬車とは明らかに格の違う一台が近づいてきた。

漆黒に塗られたボディ、金色の装飾。牽引するのは、白銀の毛並みを持つ高級魔獣・ユニコーンだ。

「お待たせ」

馬車が優太たちの前で静かに止まり、御者が扉を開ける。

そこから降り立ったのは、仕立ての良いスーツに身を包み、知的な眼鏡をかけたハニーブロンドの美女だった。

「あ、リベラ姉! 来た来た!」

キャルルが手を振る。

彼女こそが、大陸屈指の大企業「ゴルド商会」の令嬢にして、常勝無敗の弁護士、リベラ・ゴルドだった。

「お久しぶりね、キャルル、リーザ、ルナ。……あら?」

リベラは眼鏡の位置を指で直し、優太の方へと視線を向けた。

その碧眼が、値踏みするように鋭く光る。

「そちらの殿方は?」

「は、初めまして。中村優太と言います」

優太は思わず背筋を伸ばして一礼した。

彼女からは、ただの貴族とは違う、現代社会の「エリート」特有のオーラが漂っている。

「中村優太……日本人ね。なるほど、太郎様から伺っているわ。なんでも、医者志望の転生者が現れたとか」

「はい。向こうでは医大生でした」

「ふふ、話が合いそうね」

リベラは優雅に微笑み、右手を差し出した。

「私は桜田リベラ。慶應大学法学部卒の弁護士だったわ。今はリベラ・ゴルドと名乗っているけれど」

「け、慶應……!? 法学部……!」

優太は驚愕した。

ルチアナ(ジャージの女神)が適当に連れてきた自分とは違い、彼女は前世から正真正銘のエリートだったのだ。

「奇遇ですね。僕は一応、国立の医学部です」

「あら、インテリ仲間ができて嬉しいわ。この世界、筋肉で解決しようとする方が多すぎて、法的解釈の話ができる相手が不足していたのよ」

リベラは優太の手を握り、知的連帯の握手を交わした。

その横で、空腹の限界を迎えたリーザが袖を引いた。

「あのぉ……リベラ姉、感動の再会もいいのですけど……お腹が……背中とくっつきそうですわ……」

「あら、ごめんなさいリーザ。分かったわよ、中に入りましょう」

【タロウキング・店内】

「いらっしゃいませ! ……あ、ゴ、ゴルド様!?」

店に入った瞬間、猫耳ウェイトレスの顔色が変わり、店長ドワーフが奥から飛び出してきた。

「お待ちしておりました! VIP席へご案内します!」

「いいえ、いつものボックス席で構わなくてよ。その方が落ち着くもの」

リベラは慣れた様子で店員を制し、優太たちを席へと促した。

6人掛けの広いボックス席。

優太の隣にはルナが(当然のように)座り、向かいにはリベラ、キャルル、リーザが並んだ。

「さぁ、好きなものを注文してちょうだい」

リベラはタッチパネルを操作し、ブラックカードのような魔導プレートをテーブルに置いた。

「遠慮はいりませんわ。今日は父(会長)から『接待交際費』の枠を分捕ってきましたから。全て経費で落とします♡」

その言葉は、金欠の冒険者たちにとって「全回復魔法」よりも尊い響きだった。

「やったーー!! じゃあ私、『タロウ・デラックス・ハンバーグ(チーズ増し)』!」

「わ、わたくしは……『ビーフシチューセット』と、『海鮮パスタ』と、『特大パフェ』を……!」

「私はサラダバーだけで十分ですわ(と言いつつ、ルナはメニューの『季節のケーキ全種盛り』を見ている)」

次々と高額メニューが注文されていく。

優太は恐縮しながら、リベラに尋ねた。

「あの、僕までいいんですか? 初対面なのに」

「構いませんわ。貴方は『医者』。私は『弁護士』。この世界で数少ない**『先生』**と呼ばれる職業同士、協力関係コネを築いておくのは有益ですもの」

リベラは優雅に紅茶(ドリンクバーではなく、持参した高級茶葉を店員に淹れさせたもの)を啜り、ウインクした。

「それに……ルナさんの『保護者』を引き受けた勇気ある男性には、これくらいの報酬があって然るべきですわ」

「……事情をご存知で?」

「ええ。彼女の『被害報告書』と『示談交渉』は、いつも私が担当していますから」

優太は深く納得した。

この最強の弁護士がバックにいれば、ルナがまた何かやらかしても、社会的に抹殺されることだけは防げるかもしれない。

【ピロン!】

システム通知

コネクション獲得:リベラ・ゴルド(最強の法的盾)

効果:警察・ギルド・裁判所に対する防御力が著しく向上します。

獲得ポイント:500 P

(法的盾……! これほど頼もしい装備はない!)

優太は運ばれてきた『厚切りサーロインステーキ』にナイフを入れながら、この出会いに感謝した。

しかし、リベラの眼鏡の奥の瞳が、「その代わり、貴方の医療知識も利用させてもらいますわよ?」と語っていることに、まだ気づいてはいなかった。

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