EP 12
迷子姫のハーネスと、コンビニおにぎり
「優太さぁん! 今日、私は冒険者ギルドにクエスト受けに行くんですけど、一緒にどうですか?」
リビングで身支度を整えていたキャルルが、尻尾をブンブン振って誘ってきた。
彼女はいつものパーカーに短パン、そして足元にはピカピカに磨かれた鉄芯入り安全靴を履いている。
「うん、いいよ。ちょうど僕も、昨日の帰りに武器屋で薙刀を購入したからね。実戦で慣らしておきたいと思ってたんだ」
優太は、背負った長い袋を軽く叩いた。
【地球ショッピング】ではなく、あえて太郎国の武器屋で購入した鋼鉄製の薙刀だ。リュウに選んでもらった一品で、重さとバランスが心地よい。
「やった! 行きましょ行きましょ♡ (うふふ、今日はリーザもいないし、優太さんと二人きりのデート……!)」
キャルルの邪念が漏れ出ている。
ちなみにリーザは、「次のライブに向けて新曲(またしても集金ソング)のボイトレがある」とのことで、今日は不在だ。
「じゃあ、行ってきます――」
優太がドアノブに手をかけた、その時。
「あら、楽しそうですわね。私も行きます」
背後から、優雅ながらも絶対零度の圧力を伴う声がかかった。
振り返ると、ルナ・シンフォニアが完璧な外出着(フリルのついた冒険者風のドレス)で微笑んでいた。
「えっ……ルナ?」
「森に行くのでしょう? 森は私の庭ですもの。案内役が必要ですわ」
「(いや、君が一番案内しちゃダメな人だろ……)」
優太は頬を引きつらせた。
彼女が森に行けば、高確率で「迷子になる」か「森を燃やす」かの二択だ。
しかし、彼女の瞳の奥には「置いていったらアパートを氷河期にする」という無言のメッセージがある。
「……分かった。一緒に行こう。ただしルナ、絶対に森ごと燃やしたりしちゃダメだよ? 約束できる?」
「は〜い♡ 優太さんと一緒なら、大人しくしてますわ」
「全くぅ……せっかく二人きりだったのにぃ……」
キャルルが露骨に耳を垂らしてふてくされる。
こうして、優太の「冒険」兼「介護」の旅が始まった。
【冒険者ギルド & コンビニ】
ギルドのホールにある巨大なタッチパネル式掲示板(魔導通信石製)の前で、キャルルがクエストを検索する。
「えっとねー、今日は三人だし、ちょっとランク上げていいかな。……これ! 『暴れオーガの討伐』!」
「オーガか……」
オークよりも一回り大きく、怪力とタフさを誇る人食い鬼だ。
優太一人なら避ける相手だが、格闘の天才キャルルと、移動砲台ルナがいれば勝機はある。
「了解。受けよう」
「ふふ、楽しみですわぁ。私の魔法で塵にしてあげますわ」
ルナが物騒なことを呟いているのをスルーし、三人は出発前の補給に向かった。
ギルドの隣にある『コンビニエンスストア・タローソン』だ。
「いらっしゃいませー」
店内には、おにぎり、パン、ホットスナックが並ぶ。
優太たちは、おにぎり(ツナマヨ、鮭、昆布)と、ペットボトルのお茶を購入した。
レジ横の「からあげクン(オーク肉使用)」の誘惑を断ち切り、いざ森へ。
【某所の森・入り口】
「あぁ〜、良い天気ぃ! 絶好のクエスト日和だね!」
キャルルが伸びをする。
木漏れ日が差し込む森は、鳥のさえずりが聞こえるのどかな場所だ。
「のどかだなぁ……。魔物が出るとは思えないくらいだ」
優太もマイナスイオンを吸い込んでリラックスする。
だが、そんな平和な光景の中で、一つだけ異質なものがあった。
「あの……優太さん? このハーネスは何なのですか?」
ルナが、自分の腰に装着されたベルトと、そこから伸びて優太の手元に繋がっているロープを指差して尋ねた。
それは、優太が【地球ショッピング】で購入した『迷子防止用ひも(子供用ハーネス・天使の羽リュック付き)』だった。
ルナの背中には、可愛い天使の羽がついている。
「だって、ルナは超方向音痴じゃない。森に入って3歩で遭難するでしょ? 手綱がないと危ないから」
優太は真顔でリードを握りしめた。
「そうそう。ルナ、前科(アパートからコンビニに行こうとして隣町まで行った)があるんだから我慢しなさい」
キャルルも呆れ顔で援護射撃する。
「うっ……反論できない……」
ルナは悔しそうに口を尖らせたが、自分が致命的に方向音痴である自覚はあるため、大人しく従った。
「(……まるで散歩中の大型犬だな)」
優太は心の中で呟いた。
端から見れば、美少女ハイエルフを紐で繋いで歩く男。通報案件ギリギリだが、背に腹は代えられない。
【ピロン!】
> システム通知
> 善行:徘徊による遭難および森林火災の未然防止(公共の安全確保)
> 獲得ポイント:500 P
>
(やっぱり、これを着けるだけで善行扱いになるのか……)
【森の中・休憩ポイント】
しばらく歩き、小川のほとりで昼食休憩をとることにした。
「優太さん、ルナ、お昼だからご飯にしよ!」
「そうだね。腹が減っては戦はできぬ、だ」
優太はレジャーシート(スキル産)を広げ、タローソンで買ったおにぎりを取り出した。
「わぁい! 私、ツナマヨ大好き!」
キャルルがパッケージを器用に開け、かぶりつく。
ルナも優雅に座り(ハーネスは着けたまま)、鮭おにぎりを手に取った。
「不思議な食べ物ですわね。海苔の香りと、お米の甘みが絶妙ですわ」
「日本のソウルフードだからね」
優太もお茶を飲みながら、昆布おにぎりを頬張った。
静かな森、美味しいご飯、そして(今は)大人しい美少女たち。
ハーネスで繋がれていることさえ除けば、平和なピクニックのようだった。
「……ん?」
ふと、キャルルの長い耳がピクリと動いた。
咀嚼を止め、彼女の表情から笑顔が消える。
「……優太さん、ルナ。ご飯はそこまで」
「え?」
「来るよ。……匂いがする」
キャルルが立ち上がり、安全靴で地面を軽く踏みしめた。
森の奥から、鳥たちが一斉に飛び立つ。
ドシン、ドシン、と腹に響く地響きが近づいてくる。
平和なランチタイムは終わりだ。
優太は薙刀を手に取り、ルナのハーネスを外した(戦闘モード移行)。
「ターゲットのお出ましだね」
そこには、身長3メートルを超える巨体、赤黒い肌の怪物――オーガが、太い棍棒を引きずって現れたのだった。




