5 叱責 sideカーク侯爵
sideカーク侯爵
メルバから光属性だと判定された魔力測定表を見せられた時、胸が張り裂けるほど誇らしかった。
「見たか、アメリ! 我らの娘は特別なのだ!」
「まぁ! なんて素晴らしいのでしょう、旦那様!」
カーク侯爵家のサロンにて、三人で喜びを分かち合った後、勢い込んでアメリとメルバを連れて、王宮に向かう。国王陛下に謁見を申し出た。控え室で待たされている合間に、ウキウキしながら会話を弾ませる。
「国王陛下から褒美が出されるかもしれん。なにしろ数百年ぶりの光属性だ」
「高価な宝石や目もくらむような黄金かしら? お父様、楽しみです!」
「きっと、素晴らしいご褒美でしょうね。旦那様のお陰で、メルバのような優秀な子に恵まれました。旦那様、ありがとうございます! そして、メルバ、お母様は幸せよ」
「ふふっ、ありがとうございます。私もお母様の娘に産まれて本当に幸運でした。お父様のお陰ですわ」
(あぁ、なんと私の妻と娘は家族愛に満ちているのだろう。心優しく善良な妻子を持って、私は幸せだ)
謁見の間に足を踏み入れると、玉座には国王陛下と王妃殿下、さらに第二王子レオンハルト様までもが並んでおられた。私は胸を高鳴らせながら進み出て、メルバの魔力が光属性だったことを報告する。
国王陛下の口から最初に告げられた言葉は、素直な喜びを表す言葉だった。
「学園からも早速報告が届いておる。光属性が現れたと。数百年ぶりのこと、まことにめでたい。しかも、学業成績も優秀であると聞いておるぞ」
私とアメリは顔を見合わせ、弾けるように微笑んだ。
「はい、その通りでございます! やはりメルバは選ばれし存在……神の祝福を授かったに違いありませんわ」
アメリが待ちきれぬとばかりに前へにじり出る。だが――それを見た王妃殿下が眉間に皺を寄せた。
「控えなさい! そなた平民のうえに、正式に屋敷に迎えられた者ではないでしょう? 全くこれだから教育をしっかり受けていない者は……王族の前で軽々しく口を開くなど、身のほどをわきまえなさい!」
アメリの顔がたちまち屈辱で真っ赤に染まり、即座に反論する。
「なっ……! 私は屋敷に迎えられました! 実際、カーク侯爵家に住んでいますし、使用人たちはカーク侯爵夫人と呼びます!」
(アメリ、そんなに強い口調で反論するなよ。相手は王妃殿下だぞ。実家は筆頭公爵家で父君は宰相なのに)
「屋敷に迎えられた、とは物理的なことを言っているのではありません。貴族が平民を正妻とする場合、一代男爵家などの養女としたうえで、王家の承認を得る。そんなことも知らないのですか?」
王妃殿下が鼻で笑う。さすが王妃だけあって、威圧感がすごい。アメリは涙目になっていた。
(しまった。失念していたかもしれぬ……アメリを妻に迎える申請書を提出しただけで、貴族の養女にして王家の承認をもらった覚えは……ないかも……)
「つまりだ。カーク侯爵は手続きが滞っていたため、アメリはただの同居人、そこのメルバは庶子のままよ。即刻、手続きを進めよ。レオンハルトとメルバを婚約させたい」
急ぎ手続きを整え、国王陛下の口添えもあって、アメリは一代男爵家の養女としての地位を得る。これにより、私とアメリは正式に夫婦と認められた。
国王陛下は、その場でまだ婚約者のいない第二王子レオンハルト殿下を、メルバの許婚と定められる。こうしてメルバは庶子でなくなり、跡取り娘の地位を手にしたのである。
「……しかし、こんなことも知らなかったとは……カーク侯爵、無知は罪であると心得よ」
ホッとしたのもつかの間、今度は国王陛下が私を戒め、私たち夫婦は国王夫妻から叱責される形になってしまった。
「し、失念していたかもしれません……! しかし、その制度を知らなかったわけではありません」
国王の目は、まるで無能な者を哀れむように冷ややかだった。
「……ほう、知っていながら手続きを怠ったと申すか。ペンフォード王国では、王族以外が側室を設けることは禁じられておる。結果、そなたは長年、側室を抱えていたも同然だ。よって、規定に従い罰金を課す。いかに光属性を持つ娘の父といえど、例外は認めぬぞ。定められた額を、しかと納めるがよい!」
背筋に冷たい汗が流れた。まさか、こんなことになろうとは……。
(褒美をもらうどころか、罰金か……こんなはずでは……)
その横で、アメリが、またしても口を開く。
(いい加減。黙ってくれ!)
「国王陛下、それは形式だけの問題にすぎませんわ! 私はずっとカーク侯爵夫人として屋敷を切り盛りして……」
「そうですわ。お母様はずっとカーク侯爵夫人でした」
「控えよ、アメリ! メルバ!」
国王の叱責が鋭く響き、場の空気が凍りついた。
「貴族の身分を手に入れたからといっても、そなたたちは臣下の立場。臣下が主君に異を唱えるとは……まずは己の立場をわきまえよ! これでは先が思いやられる」
アメリとメルバは、国王陛下の威厳ある叱責にすっかり縮み上がり、ついには人目もはばからず泣きじゃくった。
その様子を冷ややかに見下ろしながら、王妃殿下は吐き捨てるようにおっしゃった。
「光属性でなければ、レオンハルトには全く相応しくありませんね。礼儀も躾もなっていないとは……。カーク侯爵、今後は常識をアメリとメルバに叩き込みなさい」
「も、申し訳ございません……!」
私は額に冷や汗を浮かべ、必死に頭を下げたのだった。
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※ちょっとプチざまぁを意識して書きました。両陛下、光属性の令嬢だから第二王子と縁を結ばせただけで、どうやらカーク侯爵やアメリ、メルバに好意は持っていない、のがわかりますね。
※次話は閑話です。こちらは明らかなプチざまぁ。鳥糞ざまぁで笑いたい方だけ読んでくださいね。




