20 断罪-3 side メルバ
平民となった初日は、広場の真ん中で晒し者にされるという罰がまだ残っていたようです。 今回はそのお話になります。 なので、 断罪-3として お楽しみください(#^.^#) コメディー調で残酷描写はありません。
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side メルバ
私とお母様は、あの鼠色の衣に身を包み、広場のど真ん中に立たされていた。今日一日、ここで晒し者にされるのが、国王陛下の考えた罰のひとつだったのよ。体にまとわりつく、くすんだ鼠色のゴワゴワ長衣は、脱ぐことはできない。ドレスでもワンピースでもない、微妙に間抜けなその形は恥ずかしさを倍増させるだけでなく、私の罪がくっきりと刻まれている。
傍らにはお父様もいて、額と両頬には、くっきりと炎の印が刻まれていた。広場の立て札には、お父様の罪だけでなく、私たち母娘の罪も詳しく書かれていた。
「なんで私がこんな目にあわなきゃいけないの? スカーレットが悪い……メルバが悪い……スカーレットが悪い……メルバが悪い」
お母様は、まるでうわごとのように、その言葉を繰り返していた。
(なんで私まで恨むのよ! お母様がすすんでやったことなのに)
「お母様が、私をちゃんと育てなかったから悪いのよ! 国王陛下も言ってたでしょう? 本当に可愛かったなら努力させるべきだったんだって。だから悪いのはお母様じゃない!」
(私ばかり責められるなんて納得できない! だってお母様は、私に注意したことなんて一度もなかったじゃない!)
お父様は炎印のせいで顔の表情が歪み、眉をしかめ、時折舌打ちをする。怒りと苛立ちをかみしめながら、お母様と同じように私を責め立てた。
「メルバが真面目に勉強しなかったのが悪い! 甘やかしたアメリも悪い! スカーレットの成績を自分のものにするなど、なんという恥知らずだ! しかも見かけ倒しの偽聖女だったとは……おまけにスカーレットを殺そうとしたなんて……私はお前たちに騙されたんだ!」
「なんで私たちばかり責めるのよ! 元をたどれば、旦那様がスカーレットを虐げていたせいでしょう? 最初からスカーレットがお嬢様として大事にされていたなら、私たちだってこんなことをしようなんて思わなかったわ!」
お母様は息を荒くしながら、必死に反論した。
「そうよ! お父様が一番悪いわ! 二番目はお母様よ! 」
私は思わず声を張り上げた。だって私は少しも悪くないから。
私たちが口々に言い争っているうちに、見物人が徐々に集まりだした。彼らは小声でささやき、私たちを指して笑ったり、眉をひそめたりしている。
「元侯爵様だってさ。この男、娘を虐待していたらしいぜ。お産で奥さんが亡くなったのを、娘のせいにしてたんだってよ」
「母親が難産で亡くなるのは、珍しくねぇのにな。だいたい子供のせいじゃなくて、妊娠させたてめぇの責任だろ!」
「だよな、子供は一人じゃできねぇし。クソ親父だぜ!」
「この女たち、先妻の娘を殺そうとしたらしいぜ」
「偽聖女だってよ! 姉の功績を奪ったらしい。まったく、人でなしだな」
飲みかけのジュースや食べかけのものが、乱暴に投げつけられた。子供たちは囃し歌を口ずさみ、好奇の目で私たちを見つめる。広場の空気は、まるで楽しい余興を見物しているかのように明るかった。
元貴族がこんな形で晒し者にされるのは、本当に珍しいことよ。彼らは思う存分、私たちを笑い飛ばし、馬鹿にしたいに違いない。
(なによ! むかつく! 本当ならこんな連中に貶される筋合いなんてないのに……)
「卑しいくせに、うるさいわ! 私は高貴なカーク侯爵令嬢なのよっ!」
「なんだよ、生意気だな! 今はただの罪人だろうが」
お母様も負けじと、周りにいる者たちに叫ぶ。
「あっちに行ってよ! 関係ない人がグダグダ言わないで! 私はカーク侯爵夫人なのよ!」
「そうだぞ! 私はカーク侯爵だぞ! お前らなんて、会うこともできないほどの高貴な人間なのだぞ!」
お父様も、声と身ぶりに全力で威厳を込め、平民たちを追い払おうとした。
(平民に落とされても、私たちの高貴さは変わらないはず。心はずっと高位貴族のままなんだからっ!)
でも、見物人たちは、私たちが少しも反省していないことに腹を立てたらしく、広場の大きなゴミバケツから腐った食べ物やゴミを次々と投げつけてきたのだった。
手の自由を奪われたまま、私たちは無抵抗でいるしかない。顔や髪に付いたものはそのまま残るけれど、衣に投げつけられたものは、一瞬べっとりと汚れるものの、次の瞬間にはまるで何事もなかったかのように元通りになった。国王陛下が作らせたこの鼠色の衣は、確かに高性能だった。でも私は少しも嬉しくない。
「その罪が書いた文字は相当みっともないが、なかなか便利そうな服だねぇ? ねえ、あたしに貸しておくれよ」
それを見ていた物乞いの老婆が、罪状衣を無理やり私から脱がそうと手を伸ばす。もちろん魔法がかかっているので 絶対に脱げない。皮膚が引っ張られる痛みに、思わず叫び声をあげた。
「ちょっと、なにすんのよっ! ババァ! 私に触るな!」
そう叫んで老婆を思い切り突き飛ばすと、周りの視線が一層冷たくなった。しまいには、小石が飛んでくる。
広場に一日中、立っていなければならないという、国王陛下の命令は変わらない。移動することも許されず、ただひたすら晒され続けるしかないのよ。けれど、見張りの騎士が小石を投げる民衆に注意してくれたおかげで、大きな怪我には至らなかった。
「何を投げてもいい。ただし、怪我をさせるものは禁止だ。国王陛下は、この者たちが命を落とすことは望んでおられない。今年は王女殿下の第一子がお生まれになった、おめでたい年である。命を奪ったり、怪我をさせた者には罰が下されるぞ」
「怪我さえしなければいいんだろう? だったら、広場にあったゴミバケツの底に溜まった汁を、頭にぶっかけてもいいかな?」
いたずら盛りの子どもたちは、騎士の方を見上げて、にやにや笑いながら問いかけた。あどけない顔立ちでまだ幼いのに、無邪気さを盾にした残酷さを見せる。
「あーー、まぁ、いいだろう。臭いだけで命に関わることはあるまい」
騎士は肩をすくめ、やれやれと小さく笑う。手に負えない弟たちを見守る兄のような淡々とした調子だった。
その様子を見たお母様は声を張り上げて怒鳴った。
「なにを言ってるの! 止めなさいよ!」
お父様も負けじと怒鳴る。
「なんだ、このガキどもは! やめろ、すぐにやめさせろ!」
けれど、いたずら盛りの子どもたちはお構いなしだ。大きなゴミバケツを四人がかりで持ち上げると――
(くっ、くさっ! こんなの、最悪よぉーー。つっ・・・・・・痛いのは嫌だけど、くさいのも嫌よぉーー)
そして私もお母様もお父様も、べちゃりとしたおかしな色の汁にまみれ、鼻を突く悪臭に息をするたび吐き気を催すのだった。




