44. きっと大丈夫
竹宮くん……?
今、私は竹宮くんに手を握られている。
心臓の音が身体じゅうに響いていて、何も考えられなくなってしまう。
「……これからは、こうしても……いい?」
そう言われて私は――わからなくなってしまった。
「あ……竹宮くん……」と言いながらうつむく私。
「……ごめん。こんなところで」
「違うの、私ね……」
言わなきゃ。
私だって竹宮くんに……。
そう思っていたら駅を過ぎたあたりに桜並木が見えてきた。
満開の桜が私たちを迎えてくれるような優しさ。
花びらがふわりと舞い、誘われるように歩いていく。
「梅野さん、こっち」
竹宮くんに連れられた先には、小さな公園があった。
彼に手をぎゅっと握られるぬくもりが伝わって来て、ドキドキもするけど安心もできる。
ベンチに座ってどちらからともなくそっと手を離す。
手を繋いでいなくても、あのぬくもりは残ったまま。
春だから、桜が綺麗だから、そして隣に彼がいるから――
“何か”の感情がじんわりと湧き上がる。
「急だったよな、梅野さんを……離したくなかった」
「竹宮くん……」
離れたくなかったのは、私も同じ。
ここなら人も少ない。
少しずつなら……話せそう。
「私ね、嬉しかった。竹宮くんに……そう言ってもらえて、手も……」
「本当?」
彼の顔がほんの少し近づいた気がして、さらにドキドキしてくる。
「うん……あれ……?」
私はどんどん目尻が熱くなっていき、やがて溢れてゆくものを頬に感じていた。
どうしてまた……泣いてしまうの?
「梅野さん……?」
「あ……竹宮くん……私……こんなことがあっていいのか……急にわからなくなっちゃったよ……だって……竹宮くんだよ? 竹宮くんは女子たちみんなの憧れだった。私はいつも自分に自信がない。ずっと竹宮くんに会いたかったのに……今日会えてすごく嬉しいのに……」
高校生になれたのに私は……まだまだ変われない。
いつも不安になってばかりで、竹宮くんにああいうことを言われても、初めてのことだから。
こんな気持ちは初めてだから。
「梅野さん」
竹宮くんは私のことをまっすぐに見てくれる。
そして私の両手を自分の両手で包み込んで、こう言った。
「大丈夫だから」
その言葉は――いつも誰かに言われていた気がする。小さい頃はお母さんに。受験生の時は松永先生に。
言われるたびに「ああ、大丈夫なんだ」って思えて、心がゆっくりと落ち着いていった。
だけど今回はそれ以上の“何か”を感じた。
きっと、涙と共に心の底からあふれ出すもの。
竹宮くんと、ずっと隣で歩いていたい。
もっと一緒に過ごしたい。
もっと彼に触れたい。
そして――
これが、“恋”なんだ……。
「竹宮くん……ありがとう。こういう気持ち、初めてだったから……驚かせてごめん」
「ううん。僕は……」
「……」
「梅野さんのこと、大切に思ってる。だから……好きなんだ」
竹宮くんが……私にそう言ってくれた。
心臓の音はすでに彼にも聞こえてしまいそう。
胸がぎゅっとなって私の想いもおさえられない……。
「私も……竹宮くんが好き」
まだ涙が少しこぼれていたけれど、彼にやっと言えた……私の気持ち。
春の風が私たちの背中を押してくれるように、そのまま竹宮くんに抱き寄せられる。ずっとこうやって彼に包まれたかった。
あたたかくてゆったりとした時間が流れ、桜が優しく舞っている。私の髪に触れた花びらを彼がそっと取ってくれた。
「桜の花びらって、こんなに綺麗だったんだ」
「うん……」
桜だけではなくて――
私たちはこれからも様々な景色を見て、笑ったり、泣いたり、感動したりするんだろうな。
初めてのことばかりかもしれないけど、
戸惑うこともあるかもしれないけど――
彼と一緒なら、きっと――
どんな未来も乗り越えてゆける。
迷ったり、泣いたりする日もあるかもしれない。
だけど今日みたいに、心がまっすぐに向き合えたなら。
私は、きっと大丈夫。
この春に芽生えた気持ちを、ずっと信じていける。
終わり




