31. 休息
(竹宮くん視点)
「奈々美っ……!? ちょっと奈々美!」
菊川さんの声が聞こえてきたと思ったら、廊下で梅野さんが倒れていてみんなが集まっている。
「梅野さん!」
僕はすぐにそこに向かい、倒れている彼女の顔を見る。息が苦しそうな上に顔色も悪くてつらそうである。どうにかしてあげたい。
「どうしよう、竹宮くん。保健室連れて行きたいんだけど……」と菊川さんが泣きそうになりながら言う。
「じゃあ梅野さんを何人かで支えて……」と僕が言ったその時だった。
「おい! 大丈夫か!」
この声は――松永だ。
「ここは大丈夫だ、保健室には連れて行くから。誰か、梅野さんの荷物を持ってきてくれるか?」
「はい、取ってきます!」と僕が言い、教室へ急いで向かった。
そして心配で振り返ると、松永が梅野さんをひょいと抱き抱えて保健室の方に歩いていくのが見えた。
自分よりもはるかに力強くて逞しい松永の姿を見て、少し胸がざわついた。今の僕は、まだあんな風にはなれない――でも、それどころじゃない。彼女の荷物を取りに行かなくては。
教室に着いて梅野さんの席に行き、リュックに教科書を入れていく。早くしないと、と焦ってうっかりノートを落とし、拾っているとそこから飛び出ているピンク色の付箋が目に入った。
付箋に書かれた『野城川』の文字。
これは一体……?
彼女は僕と一緒に星山岡高校を目指していたはずだった。野城川も気になっていたのだろうか。
「やば、早くしないと」
僕は梅野さんのリュックを持って保健室に行く。野城川のことが気になりながらも、彼女の体調が心配で気づいたら結構な速さで管理棟まで走っていた。
「失礼します……!」
保健室に入って梅野さんのベッドの近くまでリュックを持って行った。まだ眠っているようだ。
「ありがとう、持ってきてくれて」と保健室の先生。
「梅野さんは大丈夫なんですか?」
「熱があるから早退になるわ」
「え……」
僕は彼女のことが気になっていたが、すでに5時間目の理科の授業が始まっている。今度は理科室まで急いで向かって行った。
※※※
(奈々美視点)
ふわっと目が覚めると白い天井が見えた。
まだ頭がぼんやりする。
私は何を……そうだ。理科室に行こうとして……。
ここは保健室みたい。そばにリュックも置いてある。誰かがここまで連れて来てくれたのかな。
すると、ガラリとドアが勢いよく開く音がして――
「奈々美っ……!」
この声は……お母さん……?
「ああ、奈々美……大丈夫?」
お母さんと保健室の先生が私の方を見つめている。
「お母さん……」
「ごめんね……奈々美……私が……」
「え? お母さんのせいじゃないよ……」
「梅野さん、熱があるのでまずはゆっくり休んでね」
そう保健室の先生が言ってくれた。私ったら……熱を出しちゃったんだ。今日はこのままお母さんと一緒に家に帰るみたい。
そしてまた誰かの足音がした。
「梅野さん、今日のホームルームで配布する手紙だ」
松永先生だった。
「あ……ありがとうございます」
「まずはゆっくり休むんだな」
松永先生にそう言われてちょっと恥ずかしい気持ちになる。
私はどうにか起き上がり、お母さんがリュックを持ってくれて、2人で保健室を出た。
「お2人とも、ご無理なさらずに」
後ろから松永先生の声が聞こえた。
お母さんは明らかに身体がピクッと動いていたけれど、振り返って松永先生に「ありがとうございました」と言っていた。
※※※
自宅に到着してすぐに病院に行ったけれど、感染症ではなかった。普通の風邪みたいで最近疲れていたのもあったと思う。
その日はぐっすり眠って――翌日になった。
まだ熱が少しあるので今日は欠席である。身体も怠いので私はベッドで横になっていた。
そういえばスマホを全然見ていない。もしかしたらみんなから何か連絡があったかもしれないと思ってスマホを取りに行き、画面をタップする。
女子グループのチャットにみんなからメッセージが届いていた。
『奈々美ちゃん、お大事にしてね』
『早く元気になってね』
そしてすみれちゃんからは個別にメッセージが届いている。
『奈々美ー(泣) 大丈夫? ゆっくり休んでね、早く元気になってね』
『あの時ね、松永が奈々美をお姫様抱っこして保健室に運んでくれたんだよ』
『あとね、竹宮くんもすごく心配してくれてて、奈々美のリュックを取りに行ってた』
松永先生に……お姫様抱っこ……!?
は……恥ずかしい……中学生にもなってそんなこと……。
私は余計熱が上がりそうになってしまう。
リュックは竹宮くんが持って来てくれたんだ。
その竹宮くんからもメッセージが届いていた。
『梅野さん、体調はどう? 無理しないでね。早く元気になりますように』
竹宮くん……優しいな……。
みんなももちろん優しいんだけど……。
彼のメッセージが一番じんと来るなんて。
あ……また熱上がっちゃいそうだから寝ておいた方がいいかも。
午後になってようやくお母さんのいる部屋に行った。
「奈々美、身体はどう?」
「ちょっとましだよ、結構寝たから。熱も少し下がった」
「そう。お粥とか……何か食べられそう?」
「お粥欲しいな」
「ちょっと待っててね」
お母さんがパソコンを広げている向かい側でお粥を食べながら、ぼんやりと考える。期末テストも近くて大事な時期なのに倒れちゃうなんて、情けないな……。
「奈々美」
お母さんに呼ばれる。真剣な表情だ。
「何か……困っていることある?」
「え……それは……特には」
「じゃあ、こう聞くね。奈々美、塾の先生に“野城川に行けるかも”って言われたとき、どう思った?」
野城川……それは……。
私はうつむいてしまう。正直、どういう感情なのかわからない。
「ごめん、体調悪い時に言う話じゃないわよね」
「ううん。私は……野城川って言われて嬉しかったんだけど……ちょっと迷っていたのかも」
「そうよね、今まであれだけ星山岡って言ってたんだもの」
「それに、お母さんが……いや、お母さんのせいじゃなくて……」
うまく話せない。頭もまわっていない。
「私は奈々美が安心して受験できるのが一番だと思う。あ、もちろん完全に安心している人なんていないと思うけど」
「お母さん……」
「最近は仕事で必死だったから……ごめんね奈々美。何かあったら言ってほしい。ゆっくりでいいから話そう? いつでもいいから」
「うん……」




