25. 文化祭
竹宮くんと……星山岡高校の文化祭で……2人っきりで……過ごした。
まだ信じられない……。
つい美術部の展示が気になって先輩と話したりして、夢中になってたけど……竹宮くん退屈してなかったかな?
だけど、私が気に入っていた作品。落ち葉から手が伸び、光を掴むようなシーン。この絵を2人で鑑賞できたことが嬉しかった。
そう、竹宮くんと一緒にあの絵を見て、一緒に帰ってきて……そして……。
『一緒に頑張ろうよ』
私は彼のその言葉を思い出してまた胸の奥がぎゅっとなる。
“一緒に”っていう言葉でこんなにも心を動かされるなんて思っていなかった。
お母さんやすみれちゃん達と“一緒に”とは全然違う。
「一緒に……かぁ」
そう言いながらも「塾は別だから」とか言ってたの、ちょっと面白かったな。
竹宮くんって女子達からは“高嶺の王子様”みたいに見られているけど、実際は私たちと同じ――部活に励んでいて、今は受験を突破しようと頑張ってるんだよね。
だからかな……?
前よりも竹宮くんと、話しやすくなったかも。
まぁ、勉強もスポーツもかなりできる方なんだけど。
私も見習わないと……。
一緒に頑張るって……決めたもの。
※※※
9月下旬、学校の文化祭が開催された。
学年で合唱をして、あとは文化系の部活の展示や発表になる。
暑い中で合唱の練習は毎回疲れたけれど、さすが3年生と言われるぐらいの迫力はあったようだ。
そして美術部での展示。
私の絵は――
※※※
(竹宮くん視点)
無事に学年合唱も終わって、僕は梅野さんの美術部の展示に向かう。
星山岡高校の文化祭で熱心に美術部の展示を見ていた彼女。一体どんな絵を描くのだろう。
あれから学年合唱の練習や体育祭の準備もあって、さらに塾もあったので梅野さんとはあまり話せていない。
だけど前と違って、目が合うと彼女は自然な表情をしてくれるようになった。それが嬉しかった。
管理棟に入り、美術室に向かうと数人ぐらいがすでに入口に集まっている。人気ありそうだな。
「あれ? 竹宮くんだ!」
美術室に入ってすぐに、菊川さんに気づかれる。
他にもクラスの女子達、男子達が何人かいた。
「竹宮くんも見にきたんだ」
「スポーツもできて芸術にも興味あるって素敵」
ヒソヒソ声が聞こえて来るが、梅野さんの作品を……見たい。
すると、
「あ……竹宮くん」
そう言って梅野さんが来てくれた。
「ここが1年生、向こうが2年生、正面が3年生の作品で……油絵は2年生からで、使いたい人だけなの。3年生もアクリル絵の具使う人いるし、ポスターもありだし、割と自由かな」
「そうなんだ……じゃあ、順番に見ていこうかな」
「うん」
風景画や幾何学模様みたいな絵など、様々な作品が並んでいる。
そして正面にある3年生の作品の中に梅野さんの絵があった。
床の一部と壁の一部がステンドグラスで覆われた場所。
真ん中にあるのは……花火だろうか。
ダークな部屋にステンドグラスの水色やピンク、黄色や黄緑などが鮮やかで、室内だけど花火の金色や銀色が融合しているような……。
僕はその絵を見て、ぐっと心が惹かれてゆくのがわかった。
ステンドグラスが繊細で綺麗なうえに花火の美しさまで表現されている。それにあの時2人で見たことを思い出す――花火フェスタでの、空一面の大輪の花。
「すごい……」
「だよねぇ、竹宮くん♪」
知らない間に隣に菊川さんがいた。
「あたしも奈々美の絵、何回か見たことあるけどさ、色のセンスっていうのかなぁ、いつもパッと目を引くものがあるの。一つひとつが綺麗で細やかで。それに部屋で花火上がるって思いつかないよ」
「すみれちゃん、褒めすぎだって」
「だって本当にすごいんだもん。あ、いけない。吹奏楽部……! みんな見に来てねー!」
菊川さんは吹奏楽部のステージに向けて準備をしに行った。
「あ……梅野さん。僕もこの絵、すごく綺麗で……つい見入ってた」
「竹宮くん……ありがとう」
そして他の絵も見ていると、そこにぬっと現れたのは――松永か。
「あ、先生……」
「おお、すごいな。この絵。丁寧だな梅野さんは」
「ありがとうございます」
松永に褒めてもらえて、梅野さんが嬉しそうに笑っているような……。
いや、何考えてるんだ僕は。
別に先生なんだから、あの人は。
そう思っている間に、もうすぐ文化祭のフィナーレである。梅野さん含めみんなで吹奏楽部の演奏を見に行った。
※※※
(奈々美視点)
美術部の展示、みんなに見に来てもらえて良かった。
これで引退だと思うと寂しい気がするけれど、今度は高校でたくさんの作品に出会って、自分でもたくさん絵を描いて……あぁ、まずは勉強頑張るか。
竹宮くんも来てくれた。
もともとはステンドグラス風の部屋の絵を描いてたんだけど、あの時竹宮くんと見た花火が忘れられなくて……追加してみた。そうしたら、さらに綺麗に見えて自分でも驚いちゃった。
文化祭最後は吹奏楽部の演奏。
体育館にみんなが集まる。
すみれちゃんのトランペットを見るのもこれで最後なのかな。
席が混んでいてなかなか場所が見つからない。
適当にみんなが座っていったけれど、竹宮くんと私は座る場所がなかった。
「梅野さん、あそこ空いてる」
竹宮くんに言われて、私たちはどうにか端の方の席につく。
また……竹宮くんと一緒だ。
こうして、さりげなく隣にいることが増えてきた気がする。
吹奏楽部の演奏はやっぱり圧巻で、すみれちゃんのトランペットを吹く姿もかっこよかった。花火フェスタの時の曲も演奏され、身体を揺らしてノリノリの人もいる。
全ての演奏が終わるとすみれちゃん達3年生は涙ぐんでいた。それを見た私も少しもらい泣きしていた。
「梅野さん……?」
「あ……ごめん。これを見れるのも最後かなって。すみれちゃん達見てたらつい」
恥ずかしい。つられてちょっと涙が出ちゃうなんて。
「前さ、僕の大会の時も泣いてくれてたよね」
「あ、本当だ……」
「梅野さんって、優しいよね」
「え……?」
竹宮くんにそう言われて、私は多分顔が赤くなっている。体育館がまだ暗いから見えない……よね。
そう言う竹宮くんだって優しい。
クラスのみんなに親切だし、今日は美術部の展示見に来てくれたし。
だけどうまく話せなくて、「あ……そうかな」としか言えなかった。
※※※
こうして中学生最後の文化祭が終わった。
私は美術部を引退して、受験勉強に集中する。
文化祭の一日を思い出すと、心に残る場面がいくつもある。
絵の前で竹宮くんと過ごした時間も、すみれちゃんの涙ぐんだトランペットも、「優しいよね」って言われた、あの一言も。
全部が、きっと私の中で大事な思い出になっていく。
そして竹宮くんと一緒に……あの高校に向かって。




