24. 高校見学②
(竹宮くん視点)
梅野さんが――来てくれる。
星山岡高校の文化祭、友達と一緒に行けたのは良かったけど、クラスで彼女以外に志望校のことは言っていない。
あの花火フェスタの時に梅野さんに言って安心したのか、他の人に言うタイミングを逃してしまった。だけど、あれだけ皆に「長乃嶋高校に行くんだろ?」と言われると……何だか言いづらい。
僕もみんながどこを志望するかまでは知らないから、別にいいんだけど。
今日の文化祭で星山岡高校の雰囲気がわかったような気がする。皆が元気で活発に見えて楽しそうだ。
「ハクチョウキング」を見にいくときに梅野さんに会えて、少し話したいなとも思ったけれど人数も多いし難しかった。
だからさっき呼んだ。梅野さんにチャットをして――
花火大会の時に何となく……流れでチャットのID交換をしたものの、特に用事がなくてやり取りはほとんどなかった。
同じ星山岡高校を目指すから、チャットで繋がっておきたかった。多分……それだけ。
いや、嘘だ――話したかっただけだ。
しばらくして向こうの方から梅野さんがキョロキョロしながらやって来る。僕は手をあげて合図した。
「あ……竹宮くん」
「梅野さん……」
今気づいたけど……彼女一人でここまで来させてしまって悪かった。大勢の高校生がいる中、紺色のワンピースで中学生が歩いていたら何と言われるか。優しそうな人が多いとはいえ、こういった人の多いところで彼女は危なっかしく見えてしまう。花火の時みたいに。
「ごめん。急に呼び出して」
「ううん、いいの。美術部……私、もう一度見に行きたかったんだ」
「そうだったんだ」
「こっちだよ」
彼女と一緒に階段を登っていく。2階に美術部と書かれた教室があった。
「こんにちは! あれ……さっきも……?」
部員の人が梅野さんに向かって言う。
「はい……もう一度見に来ちゃいました。あの絵が気になって」
「本当? 嬉しい」
梅野さんはある一枚の絵の前で立ち止まった。多くの色の落ち葉の山から手が伸びていて光を掴もうとしている、幻想的な油絵だった。
「これ……さっき見て気になってたの」
彼女の声が、いつもより少し力強く感じられた。
「うん……希望があるような気がする」
「私も頑張ろうって思えるというか……何だか出来るような気がして。これから……受験とか」
「そうだな」
梅野さんは美術部だから、きっと絵画を見て想像力を働かせているんだろうな。それにしても他の絵も全部綺麗だな、街中のギャラリーみたいだ。
「あ……ごめん。私ばっかり見てて。竹宮くんも……好きなの見てくれたら……」
「あ、うん……大丈夫」
梅野さんを呼んだのも……美術部って言ったら来てくれるかなって思っただけ。でも僕もこれらの絵を見ていいな……と思った。こんなに心を動かされるんだ。
梅野さんの絵も……見てみたいな。
「あの……また市の絵画展に参加されるのですか?」
「ちょっとわからないんだよね、前はたまたまだったから……もしかして見に来てくれたの?」
「はい……感動しちゃって。私もああいうの描きたいです」
「うん……それは是非見たい。だから頑張ってうちに入ってきてね」
「はい……!」
梅野さんが積極的に美術部員の先輩と話している。
やっぱり彼女は……しっかりしているな……。
※※※
「竹宮くん、ありがとう。おかげで……先輩と話ができたよ」
「うん、梅野さんだったらあの美術部入れそう。すごく真剣に見ていたし」
「……だったらいいな」
帰り道、彼女の少し照れたような横顔を見てドキっとする。本当に美術が好きなんだな。
「竹宮くんも……ここの卓球部入れると思うよ。大会で強かったから」
「……だったらいいよな」
梅野さんと一緒の高校に入学できれば、この高校に入学できれば、夢に近づく気がする。
僕だけじゃなくて、彼女も一緒に……楽しめるのかな。
一緒に……か。
「そうだ、梅野さんは文化祭でどんな展示をするの?」
「えーと……テーマはみんな自由だけど……私は身の回りの景色というよりは、自分で想像した場所みたいなのを描いてて」
「……見に行きたいな」
「えっ? あ……うん。ありがとう」
何だか彼女と話していると、自分も一生懸命取り組もうって思えるんだよな。
「いい高校だったな。ますます行きたくなった」
「うん……楽しかったね」
「明日からまた塾だ……」
「私もだよ」
前よりも彼女と話すのが楽しくなってきた。
一緒の高校を目指す仲間として……だと思う。
だけどやっぱり……。
梅野さんといるとどことなくホッとするような気がする。
正直に自分のことを話せるからだろうか。
「竹宮くん……」
「ん?」
「あの……頑張ろうね。受験」
「うん……」
「あ……けど竹宮くんは……余裕だよね。私が頑張らなきゃ」
「じゃあさ、梅野さん」
「……」
「一緒に頑張ろうよ」
「え……」
ん……?
彼女が……固まっている。引いた……?
(調子に乗ったかもしれない……)
「あ……その……もちろん塾は別だからその……一緒にっていうのは」
そう言うと梅野さんは口に手を当てて笑っていた。
「ありがとう、竹宮くん。一緒に頑張るって思っておくね」
彼女がふんわりとした笑顔で言う。
それだけで僕は心強く感じる。
明日からの学校も塾も……きっと頑張れるって思えるようになっていた。




