23. 高校見学
9月に入り、星山岡高校の文化祭に行く日となった。
「行ってきます」
私はいつも通りワンピースとレギンスで出かける。高校なので落ち着いた紺色のワンピースにした。初めての見学、緊張と楽しみが半々だ。
※※※
「おはよー奈々美ー!」
すみれちゃんや女子達で駅から星山岡高校まで歩いていく。みんないつもより落ち着いた色の服を着ているが、それでも自分よりはおしゃれに見えてしまう。
校門を入ってすぐに各クラスの立て看板がずらりと並び、どのクラスの看板も立体的で迫力があって気合いを感じる。
「どうしよ、どこ行こっか」
「あ、ベビーカステラ美味しそう」
「ステージがいいんだって」
行きたいところが多くて迷ってしまう。まずは金券が必要なので売り場で金券を購入する。
「2年4組のベビーカステラでーす!」と言いながら男子高生が呼び込みを行っていたので、その人に聞いてベビーカステラの売り場まで連れて行ってもらった。
「お、中学生? ぜひうちの高校に来てねー!」
そう言われながらチョコソースのかかったベビーカステラを手渡しされ、出来立てをみんなで食べる。
「これたこ焼き器で作ってるっぽい」
「あ、そうかも」
「おいしーい♪」
「あの人カッコいいよね」
「あたしもそう思ったー!」
売り場も大盛況。その辺りを歩いている星山岡高校の生徒たちもみんな笑顔で「展示してまーす!」「プラネタリウムでーす!」と言いながら歩いている。
「奈々美、美術部の展示行く?」とすみれちゃんが言ってくれた。
「うん、行きたいな。みんなはどうするの?」
「私は3年のステージが気になる」
「じゃあ私は……」
みんなで話し、いったん何人かに分かれて別の場所に行くこととなった。すみれちゃんは私と一緒に美術部の展示に来てくれる。
「あたしもこう見えて! 絵画を見るセンスはあるはず!」
「ありがとうすみれちゃん、あ……あそこだ」
※※※
美術部と書かれた教室に入ると一面に油絵が展示されていた。
「こんにちは! テーマは“秋の始まり”です! あ、始まりと言ってますが全体的に秋って感じです」
部員さんにそう言われて私たちは一枚一枚を鑑賞していく。イチョウ並木が綺麗に並ぶ絵や、学校の中庭をイメージして植物に動きを出した絵など、どれも今の私の力では描けそうもない作品ばかり。
その中でもたくさんの彩り豊かな落ち葉から手だけが見えていて、お日様のような光を掴もうとしている絵が印象的だった。
ふと、その構図が自分の気持ちと重なる。落ち葉も赤や青などたくさんの色が混じっている。
「これ……気になる」と私が言うと、
「ありがとうございます、私が描いたの」と言う部員さん。
聞いてみるとまだ1年生、私とひとつしか変わらない。
「すごいです……私はまだまだです」
「そうなんだ、美術部なの?」
「はい……こんな感動する絵を描きたいです」
「大丈夫だよ、自分の思った通りで自由でいいんだから」
自分の思った通り……。
自由……。
そう言う部員さんは自由に好きなことに打ち込んでいて、活動的なのかな。
高校生になったら自分でさらに色々と考えて、だけど自由さもあって……まだ私には想像できないけど……。
この絵を見ていたら、そういうことも出来るんじゃないかって思えた。やっぱりここの美術部に入りたい。
「ありがとうございましたー!」
そう言われて私たちは美術部の展示を見終わった。
「クォリティがすごいね、奈々美が行きたいのもわかるよ」とすみれちゃんも言ってくれた。
そして体育館のステージに向かう途中の渡り廊下に、見覚えのある男子達が集まっていた。
あれは――クラスの男子たち。
そして……竹宮くんもいる。
「あれ? 竹宮くんいるじゃん!」
すみれちゃんが向かって行ったので私もついていく。
「あ、菊川さんと梅野さんだ」と男子たちに言われ、
「ねぇねぇ、どこ行ってきたのー?」とすみれちゃんが喋っている。
「3年4組のステージが今年の目玉なんだよ、兄貴が言ってた」と男子が言っている。
すみれちゃんと私もそのステージを見に行くところだった。他の女子達はもう体育館に入っている。
「じゃあ一緒に行こ! 竹宮くん♪」
「え……ああ、うん」
すみれちゃんが竹宮くんの隣に行き、私は他の男子たちに混じりながら体育館に入る。
どうにか座る場所を見つけて男子たち、竹宮くん、すみれちゃん、私の順で並んでいる。
すみれちゃんは竹宮くんに会えたことが嬉しそうでさっきからニコニコしながら話をしている。
話の内容も普段私に話す時と同じぐらい明るいので、私はやっぱりすみれちゃんが羨ましくなってきた。
「それでは! 3年4組! 『ハクチョウキング』です!」
ハクチョウキングとは劇団愛季の有名なミュージカル。白鳥の王様が悪魔の白鳥に倒され、残された息子の白鳥が成長する物語。ヒロインの幼馴染の白鳥と恋に落ちるシーンもある。
白鳥や様々な鳥達の合唱シーンも本当のミュージカルみたいで迫力満点だった。ハクチョウキング、小さい時にお母さんと見に行ったきりだけど……ここまで再現できるなんて。
「素敵……」
白鳥のヒロインとのシーンですみれちゃんが小さく呟いた。隣の竹宮くんに届いたかどうかはわからない。
だけどこんなにロマンチックなシーンを並んで見たら……彼はきっとすみれちゃんのことを……。
そう思いながらも、フィナーレでは全員がステージに立っての大合唱で、歓声とともに手拍子で会場の熱気が上がってゆく。
「すごい……」
みんなでそう言って拍手を送る。
こんなにクラス一体になってステージが出来上がるんだ。
準備は大変かもしれないけれど、きっと充実感があるに違いない。
星山岡高校って……いいな。
※※※
「ねぇ竹宮くん、星山岡行くの?」とすみれちゃんが欠かさず聞いている。
「え……今日は……文化祭を楽しもうと……」
「そうそう! 晴翔はもっと上だもんな!」
男子達も言っている。
やっぱり竹宮くん、もっとレベルが高いところに行くのかな。
「じゃーねー!」
私たちも女子達みんなと合流し、そろそろ帰ろうかと言いながら正門に向かう。
すると私のスマホが鳴った。
画面に――竹宮晴翔、の文字。
え? どうして今?
私はこっそりとスマホを見る。
『梅野さん、もう帰った? 良かったら美術部、一緒に見に行かない?』
た……竹宮くん……!?
すみれちゃんと一緒にいたのに……私だけ、こんなふうに誘われていいのかな。
そう思ったけれど、それでも私は……行きたい。
みんなが正門から出ようとしていたので私はこう言った。
「ごめん、美術部の……絵画展の案内もらうの忘れてた。みんな先帰ってて。先輩に話も聞きたいし……長引くかもしれないから」
「そうだ奈々美、前に絵画展行ったって言ってたもんね!」
すみれちゃんがそう言って手を振ってくれた。
私はすぐに竹宮くんにチャットを打つ。
『うん、行きたい。どこにいるの?』
『1階の金券売り場の近く』
竹宮くんは男子達とはもう解散したのだろうか。他に誰かいるのかな。
金券売り場の近くに行くと竹宮くんが手を上げて「こっちだよ」っていう表情をしていた。
竹宮くん一人だけだ。
わぁ……急に緊張してきちゃったよ。
こんな風になるなんて――ほんの少し前の私には、想像もできなかった。




