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20. 花火

 今……どういう状態?


 私と竹宮くんは、手を繋いだまま花火の打ち上げを待っている。


 人混みの中、彼が私の手を取ってここまで来てくれたのだけど……そのまま私はどうすれば良いのかわからず竹宮くんの顔を見るのも恥ずかしい。


 2人とも固まったままで、まるで時間が止まったみたい。

 

 竹宮くんの手は……やっぱりあったかい。

 緊張し過ぎて、何も思い浮かばないし何も話せない。


「それではー! 皆さんで10からお願いしまーす! 10、9、8、7……」


 打ち上げ前のカウントのように、いやそれ以上に私の心臓もバクバクしてくる。つい力が入ってしまってぎゅっと竹宮くんの手を握ってしまった。


 

 すると竹宮くんもぎゅっと握り返してくれた。


 

 思わず竹宮くんの顔を見ると、彼も私の方を向いて――


 

 その瞬間――夜空に大輪の花火がひらいた。


 

 ドンッ――と響く音とともに、金のしぶきが空に広がる。光の筋が円を描くように舞って、やがて音もなくほどけるように散っていった。華やかに弾ける音が鳴ったと思えば、銀色の糸が消えてゆくように空を流れている。


 そしてパチパチとした小さな火花の後には、ロケットのように勢いよく駆け上がる花火が続いてゆき、光が交差してどこまでも……どこまでも明るく見えた。


 まばたきも忘れるぐらい、私はその光に見入っていた。



「綺麗……」

「うん……」



 毎年見ていたフェスタでの花火。

 今年はいつもよりもきらきらと全部が輝いていて、心が強く揺さぶられて、ずっと見ていたくなった。


 

 このまま……竹宮くんと。


 

「あれ、こんなの……去年あったっけ」

 流れ星のように流れる赤と緑色の光を見ながら竹宮くんが言った。


「ううん……初めて見た」

「だよな、すごい」


 そして中盤で仕掛け花火が遠くのステージ近くで行われ、光ののれんみたいなものがかかっていた。

 私たちの場所からは微かに見える程度。夜空のカーテンの……ほんの上部分だけ。

 


「あ……ごめん、手」

「あ……うん、ごめん、私も気づかなくて」

 ようやく私たちは手を放す。


 随分長い間、彼と手を繋いでいた。

 花火にはもちろん見惚れていたけれど、竹宮くんの手からも何か特別なものを感じて、私は胸がいっぱいになっていた。


 こんなにも高鳴る気持ちは……初めてかもしれない。

 どうしよう、何を喋ったらいいんだろう。


 そうだ、とりあえず……。


「写真と……動画撮ろうかな」

 私はそう言ってスマホをカバンから取り出す。

 仕掛け花火が終わったあとに再び大きな花火が打ち上げられたため、スマホを空へ向ける。


 お母さんのためにちょっとだけ動画を撮っておいて、写真も何枚か撮影しておいた。


「あ……どうかな」と私がスマホを見ていると、

「どんなの?」と竹宮くんが覗き込む。


 

 近い……。

 もう少しで顔同士が触れそう……。

 

 

 私は胸がさらに熱くなってきてしまったので、どうにか落ち着こうと、

「お母さんに見せるんだけどね」と言ってみた。


「あ、じゃあ僕も。父さんと母さんと……兄さんにも見せたいし」

 竹宮くんも自分のスマホで空に咲く花たちを撮影していた。


「梅野さん、これ意外と難しくない? できたらたくさん上がってて綺麗な瞬間がいいんだけど」

「うん……わかる」

「まぁいいか。それっぽく撮れたら」


 何枚か撮影した後に花火のフィナーレが始まり、これでもかと言うぐらい一気に、色とりどりの花火が連続して空に放たれた。ヒュー……と光が登ってゆく音が何度も聞こえて、空に繊細な金色の傘が広がっていく。


 まさに圧巻の光景で私たちは「うわぁ……」と言いながら感動を味わっていた。


 

「すごく……綺麗だったね」

「うん、今までで一番感動した」


 

 竹宮くんが今までで一番感動したって言っている。

 私もそうだよ。竹宮くんがいたから……というのも……あるかも……しれない。


 もう花火が終わっちゃった。人たちが一斉に帰ろうと移動を始めて出口が塞がっている。


「あ、竹宮くんは……誰かと来てたんだっけ」

「え……ああ。毎回はぐれてるし……もういいよ。梅野さんは?」

「私も……この中では友達探すの無理かも」


 そして、もうちょっと竹宮くんといたいと思っている自分がいる。

「だよな。混んでるし、少し待ってようか」

「うん」


 まだ一緒にいられるって思うと……照れてしまいそう。

 

「……そういえばさ。梅野さんって……志望校どこなの?」

「え?」

「あ……ごめんいきなりで」


 どうして私の志望校なんて気にするのかな。竹宮くんのレベルにはかなわないのに。


「僕は最近……志望校、変えたんだよ」

「そうなの?」

「うん……卓球をもっとやりたくて。星山岡(ほしやまおか)に行きたいって……親に言った」


 

 星山岡(ほしやまおか)高校……?


 

「あ……私も……星山岡を目指してるの」

「え、梅野さんも? 一緒じゃん」


 竹宮くんがぱっと笑顔になったので、私はまた心がぎゅっとなってしまった。まるで彼が私と一緒の高校で喜んでいるみたい。


「竹宮くん、卓球頑張ってたもんね。星山岡って卓球部、強いの?」

「うん、強豪校って言われてる」

「そうなんだ。私は美術部が気になって」

「へぇ……美術部も熱心なんだ」


 星山岡(ほしやまおか)高校ってみんなが生き生きしていて、部活や好きなことにチャレンジしているイメージなんだよね。

 


 そこに……竹宮くんと……通えるなら……。



 私は少しだけ、彼との高校生活を想像してしまって恥ずかしくなった。


 そんなことを考えているとカバンの中でスマホが鳴る。

 私が確認すると、一緒に来ていた友達からだった。


「あ……出口の近くで待ってくれてるみたい」

「梅野さん」

「ん?」



「チャットのID、教えてもらっても……いい?」

 


「え……?」

「あ……その……同じ……星山岡を目指すってことで……その……」


 竹宮くんが……私とチャットを……!?


 待って。

 落ち着こう。

 こんなこと……あっていいの?

 え? え?


 私……今ちゃんと笑えてる?

 変な顔してないかな……。


 いつも通り固まってしまったけれど、竹宮くんとID交換できるなら……お願いしたい。


「うん……IDの画面はえーと……これかな」

「じゃあ……読み取るから」


 そして私のチャット画面に「竹宮晴翔」の文字と青空のアイコンが追加された。それを見ただけで胸がふわっとなって、少しだけ現実じゃないみたいだった。

 ちなみに私のアイコンは家にあるクマのマスコットだから、少し子供っぽいかな。


 

 これから竹宮くんと……どんなやり取りをするんだろう。


 

「あ、僕も連絡来たよ、逆側の出口か。じゃあね、梅野さん」

「うん……またね」


 そう言って私たちはそれぞれの友達の方へ向かった。

 途中でちょっと振り返ってみると、竹宮くんもこっちを振り向いていた。

 

 小さくほんの少しだけ手を振って、私は出口に向かう。

 まだ……鼓動がおさまらない。

 花火のことと、これからのことと……色々考えて頭がパンクしちゃいそう。



 竹宮くん……。




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