18. 大会②
(竹宮くん視点)
予選リーグの4校。うち決勝トーナメントに進めるのは上位2校。そしてできれば1位通過を目指したい。
そう思いながら挑んだ次の対戦相手。僕は最後の第5試合・シングルスで対戦したが最後の最後で惜しくも敗れてしまった。強い……あの大将、只者ではない。その中学がその後も残り2校に勝利して1位通過が決定。
2位通過にならなければ……決勝トーナメントに行けずに終わってしまう。
「大丈夫だ。今までの自分たちを信じて」
そう顧問が言い、僕たちはどうにか気持ちを切り替えて予選リーグ最終戦に向かう。
応援席の母さんは祈るようなポーズをしてくれている。父さんは背もたれに寄りかかって静止したようにこちらを見ている。
母さん、父さん……。
僕はこのままでは終わらないから。
応援席のクラスの女子達もざわざわしながら「頑張ってー!」と言っている。
梅野さんは……母さんと同じだ。祈るようなポーズでどこか不安そうな表情。
彼女にここで……見せることができれば。
最終戦。
どちらかが2位通過――
僕は今回第4試合のシングルスで待機していた。第1試合で相手にポイントを取られたものの、僕は皆を励まして第2試合、第3試合は勝つことができた。
5試合のうち3勝すれば勝ちなので、あと1勝は第4試合の僕にかかっている。プレッシャーを感じながらも一歩ずつ前に進み、ラケットを握り直してピンポン球を手に取る。
いざ――勝負。
相手もこれで負けたら終わりなので必死なのだろう。まさかの先取を許してしまう。まずい。落ち着かないと。
そして深呼吸をしてラケットを構え直し、今度こそ集中した。もう少しで同点だ。ふと視線の先、梅野さんの姿が目に入る。彼女はずっと祈るようなポーズをしながらこちらを見ている。
もしかして涙目にもなっているような……いや、次だ。僕は追いついて見せる。絶対に。
そして同点にまで追いつき、そのまま最後は相手も疲れていたのだろうか。僕が振り抜いた一打が決まり、勝利をおさめた。
「予選リーグ突破! よし! よし! 次へ行こう!」
顧問やメンバーたちとハイタッチをして午後からの決勝トーナメントに備える。
母さんは安堵の表情、父さんは母さんに何かを話しているようだった。そしてほんの少しだけ父さんの顔にうっすらと笑みのようなものが見えた。
クラスの女子達もわぁっと喜んでいる。
「竹宮くーん!」「すごーい!」「応援してるよー!」
と、みんなが手を振っているので「ありがとう」と言いながら手を振る。
そして一瞬だったけれど梅野さんと目が合う。
彼女はやわらかな笑顔で僕に小さく手を振っていた。
彼女のその姿を見て僕は――午後からも頑張ろうと思えた。
※※※
決勝トーナメントに8校が揃う。2位通過だったため相手校は別グループ1位通過の強豪校だった。
1年前の記憶が蘇る。この学校は予選もストレート勝ちだったため余力があるのだ。そして今回もそうだ。圧倒的なチーム力と個人のスキルで順当に勝ち上がってきた。
またあそこか、といった空気が流れる。
だけど、今年こそはという気持ちもある。
円陣を組む。もしかしたら最後の試合かもしれないと思うと「やり切ろう」という気持ちが湧いて来て、それが僕の背中をぐっと押してくれる。
僕は最後の第5試合で控えている。大将の役割だ。
去年は第1試合で僕が勝ったものの、その後が続かなかった。だから今回は最後に僕が出ることとなったのだが……正直ここまで来ずに負けてしまう可能性だってある。
だけど僕はみんなに声をかけながら、試合を見守りながらひたすら待った。
第1試合、第2試合でやはり相手が取ってくる。しかし第3試合のダブルスで……奇跡が起こった。ここで終わりたくないと思ったのかペアのチームワークが発揮されこちらがポイントを取ったのだ。続く第4試合もそのままの流れでポイントを取る。
いよいよ最終決戦――第5試合まで来てしまった。
※※※
(奈々美視点)
緊迫する試合が続く中、私はただ祈ることしかできなかった。すみれちゃん達も「え、こわいこわい」と言いながら試合の様子を見ている。
午後からの決勝トーナメント、いきなり最初の学校が強豪校らしい。竹宮くんはまだ出てこない。もしかして最後の第5試合だろうか。
みんなの不安が的中して相手校がリードしている。
「はぁ……やっぱり決勝トーナメントは強いところしか残ってないもんね」
「まだわからないよ、あぁーー」
女子達でこそこそと喋りながら静かに観戦する。
すると第3試合と第4試合にうちの学校がポイントを取り、第5試合は――竹宮くんが姿を現した。
「竹宮くんだ!」
「うそ! 竹宮くーん!」
「ああーお願いっ!」
「やっぱかっこいい、竹宮くーん!」
みんなが応援している姿を見て私も――何か言いたい。
きっとプレッシャーがかかっているよね、竹宮くんの表情はキリッとはしているんだけど……。
「頑張って、竹宮くん」
私は勇気を出して女子たちに混じりながら声を出した。
すると竹宮くんが私の方を見た……ような気がした。
キリッとした表情が一瞬だけど少し緩んだような気がして、そのまま彼は試合に向かった。
※※※
(竹宮くん視点)
第5試合、緊張とプレッシャーの中、みんなの応援の声が届く。母さんや父さんもこちらを祈るように見ていた。
そして女子達の「竹宮くん!」と応援する声の中に一つだけ別の声が聞こえる。
「頑張って、竹宮くん」
――梅野さんだ。
思わず応援席を見ると彼女と目が合う。
ずっと梅野さんのその声を聞きたかった。
何でだろう、すごく嬉しくて勇気づけられた。
これで僕は……出来るような気がした。
試合開始。
相手も大将なのでさすがに強い。
だけど僕はこれまでとは違う。
父さんや母さん、あとは……梅野さん。
みんなの応援を背にラケットを構え、必死に打ち返す。一進一退の攻防が続く。
そしてついにその時が来た。
マッチポイント。
次で決めたら……落ち着いて、いつも通りに。
――今だ。
僕はラケットを強く握り直し、全身の力を込めて振り抜いた。
ピンポン球が鋭く弾かれ、相手コートの空白へ――
カコーン!!
やったのか……?
やった……!
ラケットを握る手に、まだ震えが残っている。
「きた! 竹宮スマッシュが決まったぞ!」
「わぁぁぁ! 初のベスト4だ!」
大きな歓声が響きチームのメンバーが走ってくる。
勝った。
初めて決勝トーナメントに。
僕たちの学校は、ベスト4になったんだ。
「よくやった! 苦しいこともあったが……よくやったぞ竹宮君!」
顧問にも褒められて、僕たちはまるで優勝したかのような盛り上がりを見せる。
母さんと父さんは驚きながらも頷き、拍手をしている。
父さんが……笑った。
久々に見た、あんな父さん。
応援席では……。
梅野さんが……泣いているのか?
菊川さんに声をかけてもらいながら梅野さんは下を向いている。
彼女のあの声で、僕は勝てたような気が……した。
梅野さん……。
※※※
(奈々美視点)
「うぅっ……」
「奈々美? 大丈夫? 泣いてるの?」
すみれちゃんが優しく私の背中をさすってくれた。
すごかった……すごかったよ竹宮くん。
私はスポーツができないからこういうの、あまり詳しくなかった。だけど卓球部の皆が仲良さそうで、竹宮くんもみんなに声をかけながらチーム一丸となっていた。負けるかもって思いながらずっと緊張していた。
そのぐらい一つひとつの試合に引き込まれてしまって、最後の竹宮くんは……すごかった。
本当に、胸がぎゅっとなってしまった。
あんなに彼は一生懸命卓球に打ち込めるんだ。
ピンポン球の素早さと竹宮くんの勢いのある姿に……私の心は追いつかないよ。
「いやぁ……じーんと来ちゃったね。奈々美」
「うん……私こういう試合見たの初めてだったの」
「そうなんだ。やっぱ竹宮くんはかっこいいよね。惚れ惚れしちゃう」
「……」
すみれちゃんも竹宮くんのこと、かっこいいって思っている。というかここにいる女子全員がそう思っている。
「そうだね」
それだけ言って私はティッシュで涙を抑えながら深呼吸をしていた。
※※※
結局、準決勝には敗退してうちの学校は初のベスト4。竹宮くんたちも私たちも帰路につく。
「竹宮くーん! お疲れ!」
「かっこよかったよー!」
すみれちゃん達が竹宮くんに声をかけているのを私は近くで見ながら待っていた。
そして「じゃーねー!」と言って私たちが駅に向かって少しした時だった。
「梅野さん! ハンカチ! 忘れてる!」
――竹宮くん?
私はすみれちゃん達に「ちょっとハンカチ忘れていたみたい」と言って竹宮くんの方に向かって行った。そういえば一度席を立った時にハンカチを落としたような気がしたから。
「ごめん……ハンカチって……」
そう私が言ったが竹宮くんはこう言った。
「あ……それは……嘘」
「え?」
「その……今日は来てくれてありがとう。梅野さん。どうしても……お礼が言いたくて」
「ううん。竹宮くんが頑張ったからだよ。卓球部の雰囲気もすごく良かった」
「梅野さん……もしかして泣いてた?」
「え? あ……うん。恥ずかしいな。初めて見て……感動しちゃった」
あの数々の試合の余韻が残っていて、いつもより竹宮くんとたくさん話せてしまう。
「それは……梅野さんが『頑張って』って言ってくれたおかげだから」
「え……私が……?」
竹宮くんが私のおかげって言ってくれている。どうしよう、嬉しくて、また泣きそうで、私は思わず口元に手を当てる。
「うん。だから……ありがとう」
竹宮くんが笑顔になる。
それを見て私も自然と笑っていた。
そしてそんな彼の姿が――
ますますかっこいいなって……思っちゃった。




