17. 大会
「え? 竹宮くんの卓球の試合? 行く行くー! ん? 奈々美誘われたの? あ、そうなんだ。奈々美ナイス! 女子で誰か行くって言ってたけどいつなのかわからなかったからさぁ〜りょーかーい♪ やば、服どうしよ」
竹宮くんの出場する夏の卓球大会、すみれちゃんも誘ったら喜んでくれた。本当は彼に「来てほしい」って言われたけれど、それは黙っておいた。偶然クラブ黒板の前で会って、その場の流れで大会の話を聞いたことにしちゃった。
言っても良かったのかもしれないけど……言ってしまったらすみれちゃんがどう思うかなって考えてしまって言えなかった。すぐに気づかれて「奈々美も竹宮くんのことを?」なんて聞かれたら恥ずかしいし。
たまたまあのクラブ黒板前で会ったから竹宮くんは誘ってくれたのかもしれないけど……何となくこういう話は言いづらい。私みたいな目立たない人が誘われただなんて……おかしく見えるかもしれないし。
だけど竹宮くんがまっすぐ私を見てくれたこと、何回も思い出しちゃう。うまく話せていたのかわからないけれど、ちょっとは可愛い笑顔ができていたかな?
――あ、こんなこと考えている場合じゃなかった。
そう思って私は机で夏期講習の宿題を始めた。楽しみだなって心の中がたまにあったかくなりながら、落ち着いて勉強を進めていく。
こういう風に勉強のモチベーションを上げても……いいんだよね? うん。
※※※
「おはよー! 奈々美ー!」
「すみれちゃん、おはよう!」
竹宮くんの卓球大会当日。すみれちゃんと駅前で待ち合わせをして会場まで歩いていく。朝の日差しもきつい。暑いけどすみれちゃんも私もワクワクした気持ちが勝っていて、話をしていたらすぐに会場に着いた。
「あ! すみれちゃんと奈々美ちゃんだー!」
クラスの女子たちも何人か来ていた。嬉しいな、夏休みにみんなで大会の応援ができるって。私たちはまとまって席につく。
すみれちゃんは肩まで出たひらひらのトップスにショートパンツ。もともとスタイルもいいので足の長さがさらに綺麗に見えている。他の女子たちも皆、流行りなのかおしゃれな服を着ている。可愛いな。
私は足を見せたくないからワンピースの下にレギンスをいつも履いちゃう。安心するし。
背もみんなと比べたらちょっと低い方だし、子どもっぽい体型を隠すためにいつも私服はワンピースでごまかしている。
「あ、あれ竹宮くんじゃない?」
「ほんとだ、えーと予選リーグがあって……上位2校が決勝トーナメントに行って……そうそう。大体予選は竹宮くんが強いから突破できるんだよ。決勝トーナメントだよね」
「1年からレギュラー入りってカッコ良すぎる」
そう、竹宮くんは1年の時から夏の大会のメンバーに選ばれていた。この地域大会でうちの卓球部は確か……決勝トーナメントでいつも勝てずに終わっていたんだっけ。
決勝トーナメントは午後からなので応援する自分たちもお弁当を持ってくる。だけど1勝もできずに午後になってすぐに帰るって言っていたような。
『中学生最後だし。できたら……来てほしい』
そう言っていた竹宮くん。
中学生最後の大会、決勝トーナメントに行けたなら、1勝でもいいから進んでほしいな。
私は応援するよ。だけどすみれちゃん達がいるからこっそりと……。
※※※
(竹宮くん視点)
大会当日。毎年来ている会場なのに今年は独特の緊張感がある。中学生最後という雰囲気。いつもより会場を広くして丸ごと飲み込んでやろうかという声さえ聞こえてきそうだ。
昨日……母さんは父さんにこう言っていた。
『あなた、晴翔の卓球大会、見に行きましょう?』
『……』
母さんは毎年見に来てくれるけれど……父さんはまず見に来ない。仕事が忙しいのもあるかもしれないけれど。
ここで父さんに頑張っている姿を見せられたらいいのに……なんて。
あとは……いた。
梅野さんだ。
「竹宮くーん!!」
クラスの女子たちが集まっている。その中にひとり、そわそわした顔つきの梅野さん。周りの女子たちと話しているが時折こちらを見てじっとしている。
今日だけでもいいから……僕のことを見てほしい。
円陣を組んで気合いを入れる。
「オー!!」という声でメンバーが笑顔になる。
始まる。僕の中学生最後の大会が。
すると前列の方に――あれは。
母さんと……。
父さん?
父さんと目が合う。表情はいつも通りだ。
相変わらず目つきは鋭いような気がする。だけど何故か見守られているような気もする。
――やっと来てくれたんだ。
僕は第1試合、シングルスに出場。
ラケットを握り直してサーブを打ち込む。相手の返球を受け、素早く振り抜いてラリーを制する。早速今までの力を発揮できた。
予選リーグを突破しないといけないので、大体僕が前半の試合に出てポイントを取っていく。今回狙うのは1位通過だ。2位通過で決勝トーナメントに行くといきなり強豪校と対戦する可能性がある。
決勝トーナメントで1勝してみせる。
そう言うと目標が低い、となるので「上を目指す! チームワークも大事に! 怪我しないように! 俺たちのやり方で楽しもうぜ!」など顧問やメンバーで色々言って励まし合ってきた。
初戦相手はストレート勝ち。
第3試合のダブルスのメンバーも息が合っていた。皆でハイタッチして次へ繋げる。
前列の母さんは笑顔で拍手をしている。
父さんは……相変わらず表情が読めないけれどこちらを見てくれている。
「すごーい」
「竹宮くんカッコよかったー!」
「頑張れー!」
クラスの女子たちの応援の声も聞こえてくる。
だけど僕は……その隣で目をぱちぱちさせて驚いている梅野さんを見てしまう。
嬉しいけれど……彼女の声も聞きたい。
こういう試合、梅野さんは見るのが初めてなんだろうか。まだ初戦が終わったばかりだけど、自分で言うのも何だけど、かっこいい所を……見せられたのだろうか。
――いけない、次の試合がある。
※※※
(奈々美視点)
初戦が終わった。第1試合にいきなり登場した竹宮くんを見てびっくりした。ピンポン球がビュンと飛んでコン……コンとラリーが続いていると思ったら、急にラケットを振り抜いてパコーン! とスマッシュが決まるんだもの。
しかもギリギリ卓球台の端を狙っている。
すごい……竹宮くんってすごいんだ。
いや、前からわかっていたけれど。
実際に集中して卓球をしている竹宮くんを見たら、よくわからないけれど、込み上げてくるものがあった。点数を取られながらも、次だと切り替えてそのまま勢いで勝ってしまう強さ。ピンポン球の動きをまっすぐに見つめる思い。
スポーツのチームの団結力のようなものを間近で見た私は初戦ですでに感動してしまったのか、何も声が出なかった。みんなみたいに「頑張れー!」「竹宮くーん!」と言いたかったのに。
次はどんな試合を見せてくれるのかな。
頑張って、竹宮くん……。




