表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/100

第17話「プライド・バトル」 Part6

バトルシーンいぇい

「勝負の前に聞く。クロウ、それと……」

「ナノハ!」

「君達は“大変革”をどう見る?」

「どう、と訊かれても……」


 相対すれば突然の心理テスト。

 “世界”を揺るがした大事件とはいえ人々にとってもう2ヶ月近い前の事象、その印象は徐々に薄れつつある。

 しかしその言葉その事象自体を普段意識せずとも、全ての人に重大なこととして焼き付けられていることは確かだ。特に彼女達PCにとっては、いつまでも疼く古傷を創られた恨めしい事件として心に刻み込まれている。


「大切なものを失った、神様のトンデモないイタズラかな」


 触れられれば、多かれ少なかれ痛みで熱を持つ。

 ナノハの回答の横で、クロウは身体を覆う外套の下で鎧の(ふち)を強く握る。


「でも、それだけじゃない色んなものが先に待ってるんだって思ってる。これは、物語の続きなの」

「……そっちは?」


 期待した答えでないとあきれるように、クロウにも問いを振った。

 しかし急に振られた以上に言葉が出ず、その口でハッキリと言い切ることなくトリファーの痺れが切れてしまった。


「……これ以上は時間が惜しい。いくよ」


 トリファーのテックマトンが右腕を突き出す。


「!」「!」

(バババババ……)(チュンチュンチュンチュン!)


 それでも彼女らは戦いのプロ、一瞬の間もない意識のスイッチング(切り替え)で筒という何かを通す構造から飛び出す物体を散開して避ける。

 最初の動きからこうなることは予想していたものの、一つ失念したことがある。


「おわっ!?【バリヤー】!」


 透明な壁が、ナノハの軌跡のように伸びる。

 トリファーから見て右へ避けたナノハを追う右腕の銃、それが齎す弾の雨を捉え受け取る。

 発動者のハリーはテックマトンゼロの中でほっ、と一息。


「まぁ、流石に模擬弾だよな」


 飛翔体は殺傷力の低い質感だと目に映る。金属質の光沢とは言い難い。

 しかし、流れ弾は【バリヤー】に微細なヒビを入れ微かな煙も昇らせている。


「だけど弾速か?当たったらヤバいぞ……!オリヴィア!」

「合わせる!」


 2人が手を天へ掲げると、広場を覆うようにドーム状の透明な膜が出現した。

 時折出る流れ弾はドームに防がれ、【バリヤー】と違いヒビは少しも入っていない。


「俺の【バリヤー】は低レベルだが、テックマトンゼロの高精度マナ収束機構で強化されている。オリヴィアの高レベル【バリヤー】と併せれば十分防げる。だけどだ」


 2人のバリアは混ざり合い、より堅牢で巨大な壁を形成している。だが、そもそも問題というのもある。


「勝手に始めんなよ!!焦っただろうが!」

「昔と違って同士討ち……流れ弾による負傷はあり得るはずなのですが……」


 街中で戦闘することが非常識であることは、どんな世界でも変わらないのだ。

 本来はテックマトンゼロとハリー、オリヴィアの力を合わせた強力なバリア・フィールドで覆う手はずだった。

 しかし準備が整う前にトリファーが銃撃を始めてしまったため、切羽詰まりながらの展開になってしまった。

 観衆は自分の被害を考えていないように戦闘を見物している。2人の重装は“何かあった時”の為でもあるが、気苦労が大きくなることもうっすらと予感している。



「逃げ回るばかりか!」


 そんな影の努力を背に、トリファーは攻撃を続ける。

 先程の「壊したいって目、していない」という指摘に反するように攻撃的な戦法を繰り返す。

 彼は飛び道具でナノハへの攻撃を続けながらも近づくクロウを警戒し左腕の刃物を展開した。


「ち……」


 抜かれた長剣ピーリスレイドの強襲を予測していたかのように置かれた左腕。クロウは振り抜くことができずに弾かれた。

 しかし弾かれたのは敢えて。同時に振り払われたことを利用し宙返り、次の行動に移しやすい態勢で着地する。


 一方ナノハの側は一旦マシンガンを止め、脚部に備えられた四角い機械から狙いを付ける。俗にいう“ホーミングミサイル”だ。


「ふんっ!わっ!あわっ、けほ、けほっ!?」


 ナノハは大剣を盾に防ぐ。しかし爆風……ではなく粉のようなものが散布され、それが勢いよくナノハを包んだことからむせてしまう。

 ミサイルも実弾ではなくダミーの弾、しかし爆薬の代わりに小麦粉を詰め込んだ煙幕弾でもあった。


「食べ物を…無駄にしたね……?」

「ス、ストックさん…?」


 むせた時間は大きな隙となり、テックマトンは肩越しの大筒を、レールキャノンをナノハ目掛けて輝かせている。


「今……!」


 しかしキャノンもまた発射まで時間差(ラグ)のある兵器、狙いをつけ起動させるまでの間に隙を見出したクロウは飛び掛かる。


「予測通り…!」


 トリファーが左腕内部のボタンの一つを押すと、背中から大量の針が飛び出した!


「く……」


 こればかりは避けきれないと悟り、身体の前面に意識を集中する。

 当たりたくない、痛いのは嫌だな、こんな量の針を一度に受けたら絶対にとんでもないことになる。

 そんな感情が一瞬にして身体を金剛に変える。泡風呂のような心地よい刺激にまで緩和された針は肉に合わせて硬化した外套と鎧に弾かれ、クロウは態勢を崩しながらも大地に降り立つ。


「これでぇ…!」


 そうこうしている間にレールキャノンは発射された。特製の加速装置が数cmの金属弾に全てを貫く破壊力を与える。

 これも実戦を想定しない小さな弾なのだろうが、それでもバスターの身体を砕きかねない恐るべき威力を持つ。

 ナノハは粉塵によって多少気を逸らされている。防御の意思が無ければ感情で力を増すバスターは容易く傷付いてしまう。


(バァァァァァン!!)


 雷が落ちたかのような衝撃と共に、ナノハは吹き飛ばされてしまった。

 撃たれる直前に後方へステップしたことで直撃は無かったものの、着弾の威力は周囲の空気にさえも攻撃力を与え、それが彼女を押し出したようだ。


「お姉ちゃん!」


 吹き飛んだナノハはバリアにぶつかり、ほぼ反射的に座り込んでしまった。


「……こんなはずじゃ」


 すぐに晴れた土煙はナノハの顔を隠すのに十分だった。

 撃った瞬間にやった、と勝利を確信したものの、この想定以上の威力とナノハの様子に自ら後悔した。


 彼はまだ、人の心を持っていた。

 人を撃つことはやってはいけないこと……トリファーに元の正気が降りつつあった。ナノハの言葉が真理を突いていたことに気付かされてしまう。



「……!」


 まじまじと見つめていたナノハの顔が勝利を確信した笑みに変わる。

 ハッとして後ろへ意識を向けると、既にクロウが背に取り付いていた。


「まだ、やる?」

「……くっ!」


 上体を激しく動かしクロウを振り払うと、残りの粉塵ミサイルを発射する。

 だがクロウはこれを読んでいた。ギリギリまで引き付けた後に左右に振って回避、そうして通り過ぎた弾体に先ほどレールキャノンの着弾で飛び散った石をぶつけて爆発させてしまう。


「どうして……」


 トリファーはふと気付いた。


「どうして魔法を使わないんだよ!!」


 バスターの肉体の性質で防御や回避を行いはする。

 しかし、明らかに魔法と言える魔法をクロウナノハ両人共に一切使用していない。


「何でって……」

「使わないでって言われてるし……」


 そこに大それた理由は無かった。

 単に言いつけを守っているだけである。


「……舐めるなぁぁぁぁ!!」


 テックマトンのレールキャノンとミサイルポッドが剥がれ落ちる。

 落下の音はガンッ!と大きく、相当な重量であったことが伺える。


「勿体ない……って、あー、もう自動で補充されないのか」


 撃ち尽くしても弾薬が実質的に無限供給されるゲームは珍しくない。

 ロスマギもその一つであり、ナノハはそのような便利な(ことわり)が無いことを思い出した。

科学対魔法、ロマンよね

まぁ魔法使ってないんですけど彼女ら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ