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第17話「プライド・バトル」 Part5

途中、シェイクスピアは「お気に召すまま」の「この世は舞台、人は皆役者」って有名なフレーズと掛けようかと思ったけど、あれ別にそういう意味じゃないっぽくて没。

一瞬世界観に合いそうじゃねとか思ったが、そんなこともある。

フレーズは一人歩きさせられるもの、今だとネットミームと呼ばれるものみたいなもんだね

「トリファー、やはりこの都市は嫌いですか?」


 そう訊かれると露骨に目を逸らし、その質問自体に嫌悪感を催したことを暗に示す。


「ハァ……コイツはな、古いんだよ」


 その様を見せてこちらに何をさせたいのか、という一瞬の思考を読んだかのようにハリーが言い聞かせる。これも“暗に”、だ。


「世界が変わる前、他の連中と同じ“役者”でも、頭の中では研究し続けていつかこういうことができればいいと夢見ていた奴らがいた」


 ハリーは大変革の前の人々を役者と称する。

 自分のやりたいことやるべきこととは違うと感じていた人々が少なくなかったことから、クロウらはその表現に的確さを見た。


「アルキテクはその脳内研究と魔法の併用で急速に様変わりした。驚いただろ?別物で。凍ってた時が一気に噴き出したみたいだった」


 否応なしに役者にされた人々の爆発が今のアルキテクを作っている。

 ということは。トリファーがどういう想いなのかが理解でき始めた気がした。


「僕からすれば、皆変わり過ぎだ」


 重たい口を動かして少年は想いを撃ち放つ。

 鈍い空気の鋭い声音、彼の思うところとはいくらか深い場所に食い込んだもののようだった。


「僕はこの都市が好きになりかけていた。そんなに好きじゃなかったのが、ちょっとはいいかって思い始めていた。でも……皆変わった」


 馴染みの光景が急速に変わる、たしかに愛着のある風景が心に刻まれた上での変化は納得のいかないことだろう。

 クロウは自分に置き換えて考える。もしセレマが、家の周りが1週間で未来的ビル街になってしまえば、戸惑いの方が大きくなるだろうな。


「いや、変わってなんかないんだ。見たでしょ、皆…必死にこれまでを振り切ろうとしてる」


 どことなくぎこちなく見えたアルキテクの雰囲気。それは大変革直後の混乱とは少し違った違和感を含んでいた。

 トリファーは席を立ってつい先ほどまで取り組んでいただろう工作に話しながら取り掛かる。


「文明の発達が速過ぎた。それに追い付こうとして無理してる。周りに合わせるため、自分こそが先んじようとするため」

「だからみんな言ってる。“セント・オーディナス”……マップにぽっかり空いた、古い穴ぼこってね」


 焦ってまで追い付こうとする人々。ついていけないと頑なになる人々。


 聞けば前者は愚かと言われているようだが、先ほど見た様子ではこのセント・オーディナス――進化した周りに対するCentral(中心の)と、シンギュラリティ(特異点)に対するOrdina()riness()――と揶揄されるこの空間の人々も、現状に満足しているかは疑問であった。


「悪ぃなみんな、こんなとこ…意味も無く連れてき」

「ハインリヒ、だっけ?僕はバスターのことも気に入っていない」


 “古い穴ぼこ”。その呼ばれ方に反感を抱き、ハリーに対して強く言い返す。

 挑発的な物言いが癪に障ったのだろう、当然と言えば当然である。

 だが、その睨みはハリーのみならず他の5人にも向けられた。内2人がそう(バスター)でないと気付くことも無く、鋭く。


「トリファー、彼女達は……」

「ぞろぞろと来られても同じ。僕はいつかバスターを超える魔獣殲滅兵器を作り出す。“この”アルキテクで」

「トーリ」


 トリファーの名をもじった愛称で呼ぶ声。

 その主は彼を知っているハリーでもオリヴィアでもない、陽気さを隠せぬ柔い声。


「本当に…それでいいの?」


 問いかけたのはナノハ。至極真っ当な疑問ではあるが、彼女はもう少し奥を覗いていた。


「街が様変わりして無念なのは分かるよ。それにあなたはバスターと切磋琢磨してテックマトンを作り上げていった。でもバスターが気に入ってないのは少しだけ嘘。本当は裏切りきれないって思ってる」

「…何だよ、お前」


 全てを見透かす様というのを通り越して、心を読む超能力でもあるかのような決めつけ。

 妄言と切って捨てるか、いやトリファーは手元の作業を言い訳にして大した反論を出さなかった。

 それは大なり小なりの図星、自分に嘘がつけない証として周囲に映る。


「こっちの方がいいなら、もっと楽しいカオしようよ。もっと素直に。もっと無邪気に」

「楽しい?僕には壊してやりたいものがあるんだ、楽しいと思うヒマなんて無い」

「それも嘘」

「……」

「壊したいって目、してない」


 トリファーはゴーグルをしていた上に作業を続けることでそっぽを向いていた。どんな目をしているかなど分かるはずもない。

 それでも断言したということは言葉の綾か、それか覆いの上からでも分かる本心だったことになる。



「……分かった」


 クロウが声を上げる。


「こういう時は思いっきりやった方がいい」

「それは経験上の話かい?“解放者”さん」


 ストックが軽口を挿むが、気にせず提案する。


「勝負しよう。やり方はなんでもいい」

「へ?…何を言い出すかと思ったら」

「僕はとっととこういうの終わらせて、遊びに戻りたいんだ。もう思いの丈をそのままぶつけに来い」


 結局何らかに巻き込まれてしまったからいっそ。

 まどろっこしいことは抜き、とりあえず発散さえさせれば面倒は無くなるだろう。そういった単純淡白な魂胆である。


「クロウ避ける方だったよね?」

「ハナやる?」

「んー、じゃあやるー」

「いいだろう……アルキテクの、いや僕の作り上げた強化テックマトン……その試験相手になってもらう」


 対決のカウントダウンはトントン拍子に進む。

 完了した覚悟は視線にて火花を散らし、その雰囲気にクロウはこの選択を少しだけ後悔した。


「なんだか男っぽい」

「そうかな?ナノハ君の影響じゃないか?」

「お姉ちゃんは…まぁそっかぁ」




 対決の場はアルキテクの外、ではなかった。トリファーはいくらかの愛着のためか、この俗称セント・オーディナスを戦いのリングとして指定する。

 最終的に広場のような場所に行きついたものの、この場所を飛び出してしまわないかとトリファー以外は神経質になっている。

 何より誰かの私有地ではないため、関係の無い人々もなんだなんだと見物を始めている。


「これは……いただけないですね」


 トリファーは直接対決を、戦闘を望んでいる。そうなれば何らかの流れ弾は免れない。

 オリヴィアは一度外していた巨大な鎧を、ウインドウを経由して付け直した。

 それだけではない。彼女の右手にはナノハの剣を超える大きさの、身長の倍もある大槍が握られる。これを使って流れ弾を防ぐ狙いだ。

 少女が変身した大槍の重装騎士という派手な存在に野次馬の半数はおおと嘆声を上げた。もう半数はこんな所で何と戦うというのだと疑問の目を向けた。中心にいる者が、地味な外套の少女と明らかに機械的な外骨格の少年だとは知らずに。



「ねぇ、テックマトンって?」


 姉がいるとはいえバスターのことを詳細には知らないカンナが、一番近い距離にいたハリーに尋ねる。


「ああ、トリファーが着ているやつな。パワードスーツみたいなって誰かが言ってたな……簡単に言えば、武器の付いた大きくて硬い服だ」


 それは全高2m強、真鍮色の人型ロボットのようで、トリファーを覆うように内部に組み込んでいる。

 腕と脚には何本もの筒や直方体、背にも長かったり四角かったりといくつかの構造物がある。それらが魔法とは異なる武装であることは一目で分かったが、クロウらセレマ組にはその名称となる単語が一切思い当たらない。

 ただ幸い、名前が分からないからと未知数の戦闘力に恐怖するほどではなかった。これから戦うと分かってる相手ならば例え砲弾だろうと、魔法戦士は防御に困らない。


「2連装のマシンガン、両脚のミサイルポッド、背中のレールキャノン、その他諸々……。本来は、魔法を使えない奴でも魔獣と戦える兵器として開発されてたらしいが……」


 ハリーがウインドウを展開し操作すると、トリファーを取り込んだ機械に似たシルエットの大きな物体が現れる。

 こちらにも武装は装着されているがその量はより少ない。構造が剥き出しの部分も多く、むしろ何も手を付けられていない印象だ。


「ほれ、大変革の前はアルキテクの任務を進めるとゲットできた“テックマトンゼロ”だ。バスターの魔法で通常のテックマトンよりも強力な力になる」

「えっ?魔法が使えない人のためのものなのに?」

「だから進歩の反対、マイナス1……テックマトン“ゼロ”なんだ」


 ハリーは出したものを見本で済ませずに乗り込もうとするが、その前にもう一度だけトリファーのいる方角へ向き直る。


「あいつ曰く、な」

自然な流れでデュエル

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