第17話「プライド・バトル」 Part4
お調子者だったはずの少年があんまり真面目な顔で話すからと断り切れずについていく一行は、都市の中心へと誘われていく。
アルキテクの急速な未来化は都市の端まで徹底されているわけではない。いくつかの場所はまだ手が追い付いておらず、結果そこは元の雰囲気を保っている。
しかし一行が今いる蒸した金属質の町並みは、未来都市の真っただ中に鎮座する、祀られし古墳の如き不思議な空間である。
文明開化から守られたような、拒絶されたような、見た目よりも神秘の地。
「へー、昔来た時そのままだ」
「わ、私も来てよかったのかな」
「私も同感だね。用があるのはクロウだけじゃないのかい?」
「いんや、結局誰かがってことは無いよ。アルキテクの外の人をぶつけてみたかったのはあるかな」
「手短に済ませてほしいな。厄介事はゴメンだ」
「まぁまぁそう言わず……」
「ハインリヒ、迷惑をかけているという自覚は持ちなさい」
道中すれ違う人々の様子は、外の人間である4人にとっては普通……という印象であった。特に迷うことも、ギクシャクとしているわけでもない。
だがなんとなく、活気があるとは評したくないような雰囲気も感じていた。
神聖さは先入観だけ。敢えて選んだ道とはとても思えなかった。
「ここです」
連れてこられたのは周囲の建物より大きい一棟。みてくれは立派な屋敷で、時々機械の駆動音や金属を叩くような音が鳴り響いている。
「工房……アゼナン」
ナノハはその名に覚えがあった。
「じゃあここにアルキテクのナビの子が……」
「ああ。そうだ」
ハリーは正面玄関を思いっきり引き開けて呼びかける。
「トリファー!いるか!?」
他所の施設はその設備をフル稼働させており、ゴゥン、カァン、シュゥゥ、多くの働きを示してくる。
それでも静寂というのは分かるもので、中に誰もいないのかと全員一致で思いかけていた。
「なんかやってる音あったんだけどなぁ」
「いえ、います」
環境音に掻き消されない細い音がだんだんと近づく。それに従いハリーと同じぐらいの少年の輪郭がハッキリと見えてくる。
「またかい、ハインリヒ・ワンフォーゲル」
「よう、元気なさそーだな」
アルキテクナビゲートキャラクター、トリファー・アゼナン。
ゴーグルで眼を保護した、ダウナーな男。
ハリーも元気そうだな、という乗りで元気が無さそうだと挨拶するあたり、これが平常運転なのだろう。
「これでも、大変革の前は心の底に確かな熱さを持っていた人なんです」
「…そうは見えないな」
「聞こえてるよ…」
「あ、ごめん……」
クロウのぼやきへの注意すら、面倒そうな細い声。クロウの生活を支えているストックも彼の普段が純粋に心配になった。
「用」
「お?」
「あるんでしょ?」
「まぁね」
「一段落してるから入って」
「だってよ。ほら、行こう」
「あぁ、お邪魔します……」
「鎧を収納…と」
「なんか、安易にアゲアゲ↑↑できない…!」
「お姉ちゃんギャル過ぎ」
工房だという施設の中はかなり散らかっており、トリファーの作品やその材料と思しき物体がそこかしこに転がっている。
どれも何に役立つか不明瞭なものばかりだが、いくつか正体の思い当たるものがあった。
「これは……マボーグか」
前後のタイヤをそれぞれ2個重ねた大型のバイクのようなマシン、肆式マボーグ。多くのバスターが所持しているマナ駆動の長距離移動車両、その基本型だ。
「思い出すなぁ、この工房でこれと“テックマトンゼロ”を貰えるんだよね」
「そこ。勝手に触らない」
「あ、スミマセン……触ってはないケド」
つい先程までなんらかの作業を行っていた形跡のある作業台、トリファーはそこに用意されていた椅子に座る。
「その辺。テキトーに休んで」
「え、あー…えっと……」
しかし彼以外は一目で掃除されていないと分かる薄汚れた地面。休めと言われても抵抗は強い。
流石にオリヴィアがこの目前の問題を指摘する。
「トリファー、私達は訪ねて来た客なので言い辛いのですが…もう少し配慮というものを考えてほしいです」
「…………持ってくる」
「すみません」
彼は渋々と言った風に、離れた場所にある椅子を持ち出しに離れていった。
「……ちゃんと片付けろって言えってこと?」
「いや、そうじゃない」
「じゃあなんで」
「ほら、これに」
「あ…どうも」
雑に置かれたパイプ製の椅子がガシャンと想定外に大きな音を上げる。……6人に対し3個しか置かれない。
少しの間の譲り合いの末に腰をかけたストック以外のセレマ組は想像以上に硬い座り心地に戸惑うが、座らずに立ったままのハリーは話を先に進めるべく本題に入る。
「さて、こちらにおわすは世界の解放者クロウ様だ。なぁ、お前の今求めてる人材だろ?」
「……」
「えと……」
「…………」
初対面。話すことなど思いつきそうにない。
トリファーは興味無いと言わんばかりに黙っているので尚更だ。
「ほら聞こうぜ、あの時解放者はどうやってセレマを変えたのか!このウックツを置き去りにして真のおてんとさまを齎した、陽気の神!!」
「は?」
「真実は知ってるよ」
面識はあるのだろうが異常に馴れ馴れしく絡むハリー。心底うざったそうに片手で払い今一度クロウを見る。
「周りがあんまりにモジモジしてたから、苛立って現場に向かった。そして、バスターだから…世の為人の為に迷惑をかける魔獣をやっつけた」
「そうなのか!?」
「え、あぁ、まぁ……」
周りが、とバスターだから、という文言を強調して皮肉っぽく話す。そしてハリーは伝わってきた噂しか聞かなかったのだろう、もう少し踏み込んだ話を簡潔に述べられただけで大きく驚いてみせた。
「それ、どうやって知ったの?」
「たまに客が来る」
「実際は、ちょっと違うけどね」
「……」
ナノハの疑問に答えた結果、注釈される。事情通とまではいかないようだ。
スチームパンクください