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第17話「プライド・バトル」 Part3

「あんたら、この街は初めてかい?」


 ふと、声をかけられる。

 声の主は小柄な少年で、煌びやかで軍服のような衣装が目を引いた。


「……軍の人?」

「いやいや、俺はバスターだよ!そう、我が造物主ペンデモナンデモに造られた武器のエキスパートその名もハイン……ああちょっと待って待って!」


 声変わりし始めた少年の長くなりそうな自己紹介への無関心さからスルーを選ぼうとする。

 しかしそうしたところでそれはそれで面倒かと想い、渋々足を止めることにした。


「俺はハインリヒ・ワンフォーゲル。ハリーって呼ぶといー!」

「じゃあハリー、君はこの街の出かい?」

「そうさ。ここじゃちょっと知られてんだぜ。聞く?俺の武勇伝の数々を!」

「要らない」

「えーっ」


 興味が無いからとことん淡白、一刀両断。


「大方、これが知られてる理由なんだろうね」

「あ、あんたらもっと人にやさしくしろォ!」


 お調子者ハリーは見ず知らずの他人に、そんな感想を抱かれた。


「で、何の用?僕ら、ん……たしかに初めてみたいなものだけど」


 途中、強めの風が吹く。

 それによりクロウの髪が大きくなびき、無意識に甘い声が漏れてしまう。そして、顔にかかる横髪を外套の下より伸びる細腕が内から外へと払った。


「……」


 それを見たハリーは、その一連の仕草を極めて女性的だと感じた。

 よくよく見れば、この人物は頬がほんのり丸く滑らか、払った指は繊細なライン。唇も、紅で強調してはいないものの滑らかで引き込まれる(つや)が見えた。

 全く意識していなかったことが、些細なことから急に自分を惑わせる。


「用は……」

「あっ!え!その、あ、ああ~!」

「顔が赤いよ?」


 ストックが彼の顎を軽く指で持ち上げ、よく様子を見ようと接近。

 ふわっと高貴な香りが漂う。バラか何かか、麗しい香りが感覚器官を通りその人の魅力として印象を満たす。

 遠目には背の高い美青年として見えていた()の人の本質が、物理的距離の短縮に()いてたしかに乙女なのだと語り掛ける。


「そういうこと自然にやるのが君の凄いところだよ」

「ん?ああ、失敬失敬。“それ”と意識してするべきだったかな」

「失敬って思ってないでしょ」

「そそ、それ……!?」

「む?」

「ストックー?」


 “女性”を意識した少年は、ただただ戸惑う。

 鼓動が高鳴り、温血が集まり、呂律に支障をきたす。


「あれ?生きてる?いや、これは……」

「困った……医療施設の場所は分からないし……」

「お前そんなんでよくモテようと考えたな」


 少年は、思春期真っただ中である。


「あっ、あの……その……」

「ハインリヒ・ワンフォーゲル!!」


 色を見た少年の名を叫んだのは鎧騎士のような装いの女性であった。

 かつての名残か、戦闘の予定ついでに鎧を普段着とするバスターは多いが、その人物の纏うものは他と一線を画すほど盛られた装甲であった。

 少女の麗容を隠す兜は無いものの、それでも本来の身長以上の体躯に見せる威圧感を知ってか知らずか振り撒いている。


「知り合い…?」

「なんだよオリヴィア!ただ案内しようとしてただけで……」

「どうせまた観光客に絡んで迷惑をかけたのでしょう」


 オリヴィアと呼ばれた騎士が軽い足取りで近づいてくる。

 明らかに地を砕くような見かけの重量は大した音も衝撃も発すること無く、カシャンカシャンという軽い振動で済んでいる。

 クロウの高速移動が大気に威力を持たせないように、これもこの鎧に付与されていた効果とバスターの性質が織り成す奇跡なのだろう。


「い、いや、まだ何も」


 その威容のためかはたまたフォローを慌ててしようとしたためか、クロウは少しどもってしまった。


「まだ?」

「そこ突っかからなくていいだろうが!」


 騎士はハリー以外の二人を一瞥し、彼女らが落ち着いて頷いたことを確認した。


「まぁ…いいでしょう。すみません、早とちりでした」

「分かりゃいいのって」

「だから、そういうところが…!」

「はいはいそこまでだ。収拾がつかなくなるよ」


 生意気な少年と生真面目そうな女重騎士の口争いをストックが抑える。

 どうやらこの二人は水と油、の反対で喧嘩するほど仲がいいの類らしい。それがクロウとストックがそれぞれ至った結論だ。


(この人も女性、それもとても綺麗な。それなのに恥ずかしがらないってことは……)

「そうねー、幼馴染タイプだよねー!やきもきさせるやつ!」

「うわぁ!!」


 いつの間にか隣でナノハが二人の関係を解析していた。

 無意識でもある程度は察知できるクロウがここまで驚くということは、こっそり近づくという手間をわざわざかけたとも言える。


「オリヴィアさん」


 立派な鎧の陰からカンナもひょっこりと出てくる。鉄の要塞を思わせるほど大きなスカートによって隠れてしまっていたようだ。


「この人達は私の友達で、クロウさんとストックさん。一緒に来てたの」

「この方々が……。オリヴィア・ケートといいます。お噂は予予(かねがね)……」


 オリヴィアが握手を意図した手を差し出すと同時に、その邪魔にならないよう前にも大きな膨みを有していたスカートが引っ込んでいく。

 ナノハの聞いた話では、不便だからと大変革後に変形機構を仕込んだようだ。


「う、噂?」


 だがクロウにとってそんなことはどうでもよかった。


「強大な魔獣の作り出した壁を打ち払い、フシュケイディアを圧政から解放したという名声はこちらにも届いており……」

「待ってなんか微妙に違う気がする!」

「えー!?なんだよそうだと言ってくれればよかったのに!」


 クロウが苦手とする、大事(おおごと)からの名声。

 若干捻じ曲がって伝わっているようでそれはそれとして訂正させたくなったが、同時にきっともう逃げられないんだなと諦めの念も浮かび始めている。


「人気者だね、モテ志望としては羨ましい限り」

「楽しそうで何よりですねっと……」


 隙あらばとストックが揶揄った。本人は投げやりだ。


「でも俺はツイてるな。そんな、“世界の解放者”と遭遇することができたなんて……」

「それ以上恥ずかしい称号をくれるな」


 早速大仰な二つ名を提示され、むずがゆい気持ちが肌を走る。

 これではろくに出歩けないなとさえ思ってしまう。


「そんなお前に紹介したい奴がいる」

「え……?」


 だがその持ち上げは突如真面目な言い方に変化した。


「ここのナビキャラだよ」

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