第17話「プライド・バトル」 Part2
「クリームたっぷりフルーツパラダイスパフェのお客様ー」
「はいはーい!…おおすっご……コムラさんも連れてくればよかったなー」
「ワンちゃんにこれ食べさせるのー?」
「そこまではしないよ!……でね、その人のことが気がかりで。でもぜぇっったい解ってない」
「うんうん、男の人ってそうだよね!」
「女の人だよ?」
「えっ!?お姉ちゃんそれ本当に言ってる!?」
ナノハとカンナはポップな装いの可愛らしいカフェにいた。
見慣れないもので固められながらも、ガーリーで売ってる店であることは明らかだった。
クリームトッピング様のデザインやハートマーク、つやのある丸い字体、そのような看板はナノハの感覚に合致し、一目惚れのままに即決。
「おかしいかな?」
「え、ええっと、ひ、人の自由だと思う…!」
「お?あ!え、えっと!!そんなんじゃないって!」
そして今は注文の食べ物を待ち、そして味わいながら、カンナと人間関係について話し込んでいる。
「でもそれで言ったらさ、カンナだってどうなの?あーむっ…えっ何これウッッッマ!」
「えー?そんなの……」
「ウマ…ヤバ…ごくん。そんなのぉ?」
「えっと、その……」
「やっぱりクロウのところのストックさん?私もねー、一目見た時からあれはヤバイって」
「違う、よ……」
「お?」
「……学校で、同じクラスの……」
「……ふっ…元から甘酸っぱいこのパフェの味が、猶更に濃くなっちまうなァ……」
「お冷かけるよお姉ちゃん」
「ふんわり苺ムースのお客様ー」
姉妹が談議に花を咲かせている頃、主従も未知の街を純粋に楽しみ始めた。
「バキューム……?」
「吸引力…ゴミを吸って集めるのか」
「まるで魔法のようだ……今すぐ導入し」
「でもこれ電気が要るみたい。セレマには無いから無理だよ」
「そこはこう…魔法で」
「なんでもできるわけじゃないよ。それにできたとして、僕が長く出てる時はどうするの?」
「残念…嗚呼、電気というのは私のように罪作りな」
「思い出したように機械に張り合うな」
現実の真似をするように家電と名付けられた種類の道具。電気で動かすことで手作業を遥かに超える効率を叩き出す新時代のアイテム。
外面だけに留まらず内面すらも大きく変えたこの街はどこを見ても驚くばかり。
そしてそれは、機械類だけで終わる進歩ではなかった。
〔と、このように、“魔法”はおとぎ話のそれとしか言い表せないことからそう呼ばれるようになりました〕
「え、これ、ウインドウとかじゃない!?」
〔大気中に存在する“マナ”についても研究が進められ、他の物質とは根本から違うことも分かってきました〕
「てれ、び……映像?何やら騒がしいと思えば、なんだか物凄い何かを見つけてしまったね……」
〔仮説上の構成因子、“原子”と扱うには相応しくないと思ってるんだが――〕〔従来の“金属に吸着しやすい性質”に加え、電気との相性も良いとされることから――〕
箱状の物体はその場に無いはずのものを映し出す。
家庭用のテレビジョン受信機……高まった技術力と映すための像、送る施設。それら全てを必要とする先進の証拠。そしてその存在を知らぬ者からすればいつ飛び出すとも分からぬ幻術の壺。
だが、ウインドウという奇遇にも電子的な物体に慣れ親しんだゲームの住人は、そのテクノロジーをすんなりと受け入れた。
ウインドウは映像を送受信する機能を持たないが、それ自体が映像のように見えるため似たような何かとして馴染むのだろう。
「うーん……」
〔仮称M22661α構造にペパダン=ウェルマン格子索を設けることで――〕〔しかしエドワード氏は魔法として使われた後一時的に不活性化する点を指摘しました――〕〔その起源におそらくバスターの出現は関係無いと思われ――〕
「言ってることはちょっと難しいけど。いや、むしろ全然わからない」
「本職様に理解ができないなら私にも無理だ」
映像は、バスターの扱う魔法及びその根源であるマナについて語る科学番組であった。
専門用語が飛び交うこともあり全く頭に入って来ないが、それだけどうでもいいことなんだろうと目を回した脳を納得させる。
「次行こ、次」
「うん。ここは面白そうなものが多いが…電気ばかり要求されては冷やかしに徹してしまってどうもね」
しかし動力源に縁が無いからと売り物をただ見るだけで終えてしまうのは心地が悪かった。
なので少しばかりの捨て台詞に残念な心を込め、この家電量販店を去るのであった。
〔しかし、ウインドウが魔法もマナも関係無いというのは不思議ですね。そこに確かに見えていて、多用までされるものが、ここに来て一番の謎とは〕
とりあえず、次に見る場所を探そうと見回すが、やはり土地鑑の跡形も消え失せる大変化。何がなんなのかさっぱりという迷い様である。
「“マップ”は勝手に更新されてくけど……」
「詳細な名前が無いね。プライバシー配慮かな」
ウインドウのマップはリアルタイムで更新されていく、というよりは一定量移動するごとに周囲区画をいちパーツとして都度生成表示しているようで、精度は建物と道路の境界となる線が若干誇張的なものの非常に正確であると分かっている。
しかしどこにどんな施設があるかは殆ど書かれていない。せいぜい今いる地名と、ゲーム時代に入場できていた場所ぐらいだ。
「気になったところに行こう、元々そういう感じで歩こうと思ってたし」
「プランも何もない」
「僕なりの哲学さ。旅のね」
結果的に事前準備が無意味になってしまう変わりようとはいえ、無計画で出発した主人に、ちょっとだけ開き直りというか付け焼刃の言い訳のようなものを感じてしまう。
もしこの女性に想い人ができて、その人とデートに繰り出すとなれば、恋人の意外ながさつさにお相手は困らないだろうか。
設定に従いモテたいとだけ考えてきた女たらしは、今だけ先を考えていた。
「うーんしかし、こういう時ぐらいその露出魔のような恰好はよしたらどうだい?」
「ろしゅっ……!」
「クロークの下は鎧だろう?もう一度聞くが…遊びに行くのに、そんな装備が必要かい?」
しかし思い返してみればそれ以前の問題。この人物は観光の旅に戦闘服を着用してきた。
抜けてるどころではない彼女に、その訳を問いただしてみる。
「そうだね、次こういう機会があったら、気を付けるよ。門でもああだったし」
そういう話ではない、と言わんばかりの沈黙が漂う。
すると改めて話しかけるまでもなく、クロウが語りかけていく。
「ストックには前も言ったと思うけど……この方がユウを身近に感じられる、気がするから」
「ユウ君、を……」
「一緒にいるような、まだ後ろから僕を動かしながら見守っているような、そんな感じ」
寂しい声。とても言葉通りとは思えない。
たしかに、戦闘を主軸に置いたゲームでキャラクターを操作する場合、私服で駆け回るよりも元から戦える装備を着ていた方が手間が無くて都合がいいだろう。場合にもよるが、強力な戦闘用の装備の方が着ていた時間が長くなりがちで、だからこそ想いは強くなるはずだ。着慣れというものもある。
しかしそうは思いつつも、クロウのことをよく知るストックにとってはだからこそ疑問であった。
それよりももっと長く着ていたものがあるではないか。
きっとこれはエモーショナルではなくロジカルな行動原理なのだろう。もしくは、なんらかの嘘。
想いの割に、説得力に欠ける。やはり彼女は未だ、過去から解き放たれていない。
「……ふーん…重たいね、君は」
「そりゃ…速く動けるよう体重は気にしてるけどさ」
「今、目を逸らしたね?」
「……設定通りに考えすぎる君に言われたくはない」
気楽なお出かけのつもりが、ふとした途端にシリアスに落ちてしまう。
街を気楽に練り歩くには、空気が重すぎる。
ゲームって楽しもうとしても次第に面倒さが勝ってくる時あるよね・・・
ファッションとか自分自身のプレイスタイルとか優先しようとしてたらいつの間にか効率的な気持ちになってる
怖い怖い