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第15話「黄金のかたち」 Part7

コウシロ屋って変な名前だけど、「訓読み」と考えれば「あっ」ってなるかも?

 下層の時点で片鱗を表していた機械浸食は、視界にちらつくネオンのどギツさと本格的に中世時代を捨てにかかった現代的な建物を以て、その窮極を示す。


 意外にも周りの人々の服装が変わるということはなく、比率が多少変わった程度で中世近世その混合。客を誘う芸者がいれば、甲冑で練り歩く侍(よう)の男もいる。しかし、その中をビジネススーツで行き交う人々という時代錯誤も変わらない。

 着物や背広に作業服、“印象”というこの都市の混沌の原点がここに一つの結びを表した。



「この先真っ直ぐに行きますと、城のすぐそばに出るはずです」

「そこが、目的地か……」


 シパンガの防壁をくぐると遠くに見える、雲を衝くような都市庁いや天守閣。

 はじめは、そこへ向かいあまつさえその足下にまで乗り込むことになろうとは考えもしなかった。

 それが自分達の目的である組織の内側を探ることに関わる、実質的な絶対条件にまでなっていると思うと奇縁も奇縁だと驚きたくもなる。

 今まさに我々はこの都市の行政へと直接訴えかけることで巨大組織の陰謀を砕く風雲――大きな風の予兆――となるのだ。


 そう考えるとクロウには自分の姿がいやに格好良く映るように思えた。

 しかしこれでは流石にはしゃぎ過ぎだろうと思い直し、今の任務に真剣になろうと心の中で喝を入れた。


「クロウ、準備は?」

「できてる」


 突如クロウ・ナノハ・そして大田という老人のお供二人組は、東西南北を囲う様に他の3人を護る陣形に移行する。


「敵襲か!」



 一瞬の疑問符はすぐに確信へ変わる。

 クロウが二振りの剣を振るうと、金属がぶつかり合う音と共にその足下へ鉄っぽく尖った物体や、中央に穴を持つ点対称の刃が、甲高い音で積まれていった。

 彼らはこの独特な物体に思う節があった。


「……ニンジャだ」

「忍者!?!?」

「こ、これはクナイとシュリケン…!」


 芋煮子の目は爛々と輝き、その様子にえっ、とクロウは怯んでしまった。

 忍者と呼ばれた存在は、街のどこを見回しても捉えられない。

 まだ日の沈む気配の無い明るさの中でも完璧に隠れられる技術はまさに“忍び”であると、武器の種類を看破した次郎は感嘆の意を表す。


(忍んでるのに何で知られてるんだろう)


 心の中でそう突っ込みを入れるクロウも、主らの会話の中で「忍者」というものそれ自体が面白い言葉であるように扱われていたことを覚えている。

 だからこそこのシパンガにてここまで存在感を得ているという思考にまでは至らなかったが。



「!」


 今度はナノハの方に刃が飛んでくる。

 素早い剣術のクロウだからこそ防御できていたものが、大剣の表面積でしか防げていないいっぱいいっぱいな状況。

 いくら力押しで軽々と扱えるとはいえ、散布界を広めていく細かい手裏剣の群れから護衛対象を守り切るのは骨が折れる。

 しかもどこから飛んでくるか分からない敵に対し4人で四方それぞれを護らなければならないため、誰かが他の誰かを助けることも難しい。


「ちょおっ……そこっ……!」


 陣形と個人の弱点を見極めたようにナノハに攻撃が集中し、しかし誰も援護に動くことはできないもどかしい時。


「! そこか!」


 ナノハが苦戦する中、屋根を伝う一瞬の黒い軌跡を捉えた。

 それを追い足下のクナイを一つ思いっきり投げるが、敵のあまりの速さに外してしまう。いや、クロウを以てしても投げる頃にはすでにただの(くう)であった。



「全部…!終わりかァ…!」


 一方でナノハは飛び道具がひと段落といった隙間にぜぇはぁと息を荒げていた。

 するとそこに弾が切れたかこの戦術では仕留めきれないと判断したか、畳み掛けるように一人に対して一人ずつの黒装束が小刀やクナイで斬りかかる。

 寸分の乱れも無いそれこそ機械のような同時行動に、容易に抜けられない力と意気が相まって、4人は一気に動きを封じられた。


「恨みは無いが……」


 芝居がかった口上と共に小刀を引き抜き、もう一人の忍びが飛び掛かる。


「お命頂戴!!」


 キィィ……ン…と、またもや大きな金属音。

 次郎を狙ったであろう凶刃は、大田が受け止めていた。


「爺ちゃん…!?」

「……」


 刀身が隠されていた、仕込み杖。そして老体とは思えない力に忍者は退く。接近戦を仕掛けた他4人も伴って、仕切り直そうという腹だろう。


「申し訳ございません、我々がおりながらお手を……」

「構いません。それより、忍びの者まで使うような相手です。気を引き締めて参りましょう」


 供の二人が護衛を十分にこなせていないと謝罪するも、彼は追及せずに次に備えるようやさしく諭した。


「わ、私も、その~~……」

「ああ、いや、無事ですので」

「うん。ありがたいよ!」


 それを見て自分もと話しかけたナノハも、すっかり非日常の連続に呑まれてしまった次郎に赦される。


(しかし、この方……どこかで見たような)


 少し上の空な次郎、その理由は傍の不思議な老人(大田)であった。




「何を逃げておる!ここで消さねば……あっ!」


 撤退した忍者の後には、あからさまに怪しい人物が残っていた。

 激しい襲撃を目撃した近未来の城下町からは、人の姿が消え静けさが漂っている。

 そんな中でのこのこと顔を出した初老の男は、確実に全ての黒幕だろう。


「あなたの目的は分かっていますよ」


 その言葉を発したのは目耳所の面々ではなく、途中で加わった大田である。


「近頃、軍の一部でとある民間企業との過度な癒着が問題になっていると聞きましてな」

(軍…?)

(えっ何何何)


 突然深く切り込んでくるその人に、クロウとナノハは混乱の様子を示し始める。



「気になって調べさせたところ……“越奥(えおく) 有右衛門(ゆうえもん)”さん」

「わっ、私は、何もっ…悪い事は……」

「とぼけても無駄ですよ。あなたと裏取引を行った将軍が全て話してくれましたから」

「じゃああんた、もしかして全部分かったからここに……いやまず将軍がって何だい!」

「そ、そうだ!何であんたが……そんなこと言えるんだよ!」

「ほう……」


 芋煮子と、そして越奥と呼ばれた男が疑問を投げかけた。

 大田はそれに対して答えとなるものを示す。


「注文に際して、何度か私自身が顔を出していたはずだが……」

「顔……?」


 顔、である。


「この流れ……まさか!」

「ハ、ハナ?」


 この後起こることを直感したナノハは、ついと大きな声を上げた。


「ハッ!?ままままさか!?」

「もしこれでも足りぬなら」


 駄目押しと言わんばかりに、今度は供の二人乾と笹原がバスターズIDに似た名刺のようなものを見せつける。


「バカな!そのIDは、都市庁直属の護衛兵士のもの!?で、では、本当に、元首様!!」


 老人の正体に気付いた越奥は、へへぇ~~……と慌てながらも恭しく土下座の恰好を取る。


「うぇえっ!?」

「元首様と!?ではやはり貴方様は、かの大田原(おおだわら) 信国(のぶくに)様……」

「申し訳ない、道連れというのに嘘をついてしまい。…ああ、こんな時ですし、そんなに畏まらなくてよいですよ」


 大田と名乗った老人の正体が都市元首、即ちシパンガの最高指導者であることを知った百万石親子は、驚きを隠せない。

 焦って自分達も越奥同様の礼を示そうとするが、やさしくそれを止められた。


「クロウ、これしおん達の世界にあるっていう……アレだよ!」

「アレ?」

「やっぱここにいると“あっち”を感じられていいなぁ……」

「アレ……?」


 シパンガのテーマ、「何かが違う日本」。

 その中に含まれていないであろうものをナノハは感じている。おそらくは、クロウが過去に聞いていない内容。

 現実側の“印象”を取り込ませたこの都市はたしかに、自分のプレイヤーに思いを馳せるPCにとっては聖地のようであったのかもしれない。

 しかし今起こっている事象はロスマギ制作陣の用意したものでは無い。

 都市元首は、名前しか判明しない場合が多かったからだ。


(しかし、この人がここの都市元首か)


 クロウが会った都市元首というと、やはり大変革後に就任したというアーク・ミンツが浮かぶ。


(この人は正気そうだな)


 前例が異常であっただけに、そのようなもし声に出ていれば失礼と取られかねないようなことを考えるのであった。

入りきらなかった没ネタ:越奥「子連れの旦那がそんな狼のような目つきでいいんですかい?」

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