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第15話「黄金のかたち」 Part5

「ごめんな、あっしばかり自分の事話しちまって」

「ううん。話してくれてよかった」


 ナノハはかつてナビゲーターキャラとしてPCを導いていた芋煮子のことを知っている。

 プレイヤーからどう扱われていたのかも。

 そんな彼女の話を真剣に聞いて、それでもこんないい子でいてくれるんだねと、その事実を抱きしめる。


「しっかしあいつら、他の所でも悪さしてるってね。こないだも火吹さんとこの鍛冶屋が嫌がらせされたって聞くしどうなってんだかねぇ」

「私達も……あ、仕事のことだから言わない方がいいか」

「えェ?そんな言いかけちまったら気になるじゃないかっ!」

「あわあわしまったぁ~~てへっ」


 会ったばかりの二人は、すでにここまでじゃれ合うほど仲良くなっていた。

 ナノハの奔放さ故か芋煮子の江戸っ子風気質のためか、はたまたその両方か、少し柔らかな時が過ぎていく。



「そうだ、あんたPC…なんだろ?」

「え?まーぁそうなるかな?」

「さっき言ってた、そこら辺のはぐれモンを沢山雇ってた時」

「うん」

「それ見て偉そーに『これこそが金貨の如き宝物!』だとか『何かあった時は言ってくれ』とかやたら褒めてたジイさんがいてさ、誰だか知らない?」

「うーん?えー……わかんない」

「PCはそういう色んな人に詳しいって聞いたけど……」


 ナノハはかつて多くの場所を何度も巡っていた。

 強化やアイテムのため、そしてこの世界を楽しむため。しおんがそうさせた。

 故に各地域の特色をクロウよりもよく覚えている。芋煮子の聞いた「PCの持つNPCへの知識」のようなものは確かに求める答えの内容が合致する。


 しかしこの程度のヒントでは何もわからないも同然だ。これだけでは、NPCではなくPCが正体の可能性まであり得る。


「その人はさ、私達が目指すべき世界はこうやって助け合っていくものなのだーみたいなこと言って、それってあっしと同じこと考えてるんだなってさ」

「たしかに、似てるかも?」

「何でも知ってるみたいな不思議な人だった。いつか見せてやりてぇよな、そんなキンキラな世界ってやつをさ!」


 しかし確かなことは、その人物も世界をよりよい方向へ導きたいと考えていることだ。

 急な演説ながら自らと重なったと話すその思想は、芋煮子の持つ“輝き”をさらに磨いたようにも聞こえた。


「でも、今のままじゃあコウシロ屋があの店を獲ろうとちょっかい出してきてそれどころじゃない。だから相談しようとか思ってたんだけど」

「あー誰だか分からないから無理ってことかぁ」


 そんな今の芋煮子のような御老体へ思いを馳せていると、



「芋煮子ちゃん、もしかしてそれ“ぢるこん堂屋”のお爺ちゃんじゃないかい?」

「え!?」「知ってるの?」


 話が聞こえていたのか、付近の住民が声をかけてくる。

 彼は大まかな方向を指差して2人に情報を与えた。


「ほら、あっちの……息子がやってるってさ」

「こんなに近くにいたんだ……」


 あまり積極的に探していたわけではないが、それを知ると不思議と心の動くような気持ちであった。

 もしかすると、その人はこの辺りを暖かく見守ってくれていたのではないだろうかと。


「あ!じゃあさ、戻る前に相談しに行こうよ!」

「えっ……」

「探してたんでしょ?」

「お、おお……」


 しかしいざ行こうかと思うと、迷惑をかけてしまうと思い、ナノハに流されて重く歩み出したものの気が引けてしまう。

 突然の発覚に拍子抜けしたまま、常に表へと顕在させている自信がすっぽ抜けて彼女を冷静にさせた。



「…え、いない?」


 だが、得られたのは謎であった。


「爺ちゃん、というか俺の親父はもう何年も前に他界してるよ」

「じゃあ、嘘ついてた……?」

「そ、そういうことになるの、かい?」


 元々軽い気持ちであったダメもとの考えではあったが、こうなるとむしろより気になってしまう。


「あのジイさん、一体何者なんだい……?」


 とにかく、まずは目耳所へ戻ることにした。




「では、お願いします」

「中央には用事があったので、ついでです」


 クロウは次郎の出した契約を、いやもっといえば依頼と言えるものを承諾した。


「都市庁までの護衛、街中で何から守れっていうのかはわからないけど」

「私が動けばコウシロ屋も何かしら対策を打とうとするでしょう。私にはおそらく対応できません」

「荒事は任せる、そういうこと?」

「その認識でかまいません」


 ある町から別の街へ、しかも防護壁の外へは一歩も出ないため魔獣が現れるわけではない。

 どう考えてもバスターに任せるようなことではない。大規模な商店を経営するともなれば他に用心棒などいくらでもいるはずだ。

 それでも敢えてバスターに頼むということは、バスター級の実力でないといけない案件なのだろう。深く考えずに気を引き締めた。



「父上!!」


 早速出掛けようとするとそこに、分かれていたもう一塊が合流する。


「芋煮子…!」

「どっか行くのかい?父上」

「留守を頼むぞ」

「やい!」

「……」


 それは突き放すような内容であった。

 しかし、言い方はやさしかった。


「あっしも付いてくよ」

「お前にはここを任せられる」

「そうじゃないだろ!」


 だが言い方が良いからいいわけではない。

 しれっと娘のことを巨大な店の後継者として認めるという重大宣言が為されたが、それすら瞬時に叩き割って想いを撃ち込む。


「行くんだろ?コウシロ屋のところ」

「……都市庁だ。直訴を行う」

「直訴…?」

「色々すっ飛ばして偉い人に直接訴えること」


 その言葉にピンとこないナノハに、クロウが要約する。


「うぇ、それ死刑になったりとかしない!?」

「それは誤解です。止められはするでしょうがあくまで形式上……諦めずに事情を話せば、今の都市庁は人心を知っておられると聞く故」

「あーそうなん……」


 知らなかった単語の補足として過激な言葉が聞こえたものの、実際はそうでもないと聞きナノハは一安心する。


「コウシロ屋は巨大な企業です。その存在感は我々目耳所の規模ですら遠く及ばない……やるしかないのだ」


 改めて覚悟を決め、クロウの頷きの合図に首肯で応えて道を歩む。

 ただ、それを止める者が一人。


「待って!」

「芋煮子!いい加減にしないか」


 芋煮子は諦めない。

 クロウらの知らない過去複数回起こっただろうコウシロ屋からの手出しが、彼女を燃やしていた。


「あっしだってあいつらのことで物申したいんだよ!何かしたいんだ……!」

「何か仕掛けてくるかもしれぬのだぞ」

「それでも!」


 もしもこれ以上娘の意気を止めようとするのなら、「お前1人で何ができる」「それでもダメだ」に代表される否定の言葉を吐くことになるだろう。


 しかしできなかった。

 娘可愛さで押し込めようとすることが、その娘の性分と相反している。


「分かった」

「父上!」


 そしてそれ以前に、家族の意志はきちんと尊重しなければならないと、それこそが人として当然の事と考えて同行を許可するに至った。


「申し訳ありません。急な契約の変更を、護衛対象を増やしてしまい」

「ああじゃあ私も行くよ!というか二人で来てたんだし」

「…だって。そういうの気にしないから、行こう?」


 商人は、いや商人に留まらず様々な職が気にしなければならない締結済みの契約をそう言われれば、信用問題を棚に上げるような粗雑な女らだと思われるかもしれないだろう。

 だが次郎が態度の割に暖かな人物であることは、芋煮子の云う通りである。これぐらいで信用どうこうと愚図るのならば、冷血無情のこの上ない。


「かたじけない…!」


 そこには、“情”で動く世界があった。

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