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第2話「キャラの一人歩き」 Part4

 ――組合。受付のクリケに報告する。


「3体も……!」

「うん。さすがにちょっと苦戦した」

「でも全部斬ったよ!私達でね」


 ……肩を組まれながらクロウは、少々苦笑いを浮かべる。


「一応警戒を厳にするよう上への報告と御触書を用意しますね。本当にお疲れさまでした…!」

「いやいやー!私らはそんじょそこらと違うカラっ!」

「でも序盤用とはいえボスでしたからクロウさんの言う通り苦戦したでしょう。特にクロウさんはまだ今の世界に慣れてないようですし……」

「いや、うん。そうだね。外の世界にいた本物の獣って、あんなんだったんだろうな……」

「知識はあっても、実際戦ってみたら何かが違うとはよく聞きます。これからも、気を付けてくださいね…」


 クリケは報酬を差し出す。並ぶ金属の価値は2000G、の3倍6000Gだ。


「うん…ありがと」

「じゃ、次に行ってみようか!」

「ん?」

「次はどの依頼に行く?」

「うーん……」


 ――掲示板、また色々な情報が貼られている。

 心なしか、遠目にも魔獣の絵が多く見えた。


「……やっぱりいるのかな、ボルツェンカボーネ」

「さーねーぇ」


 掲示板の前では数人のバスター達が情報を物色しているが、クロウは立ち止まり動かない。


「どしたの?」


 ふとホーブラーの名を思い出しながら考える。ボルツェンカボーネ、ホーブラー。内ボルツェンカボーネは強力な上最後まで存在していた以上変革された世界でその存在を否定する根拠に乏しい。


「え、マジどった?」


 ……自分は魔獣から人々を守るバスターの素質を持って生まれた。いや、違う、そう“造られた”。


 そして、その先に待ち構えているのはきっと命を懸けた最強の神との戦い。ゲームという“型”への囚われなさでは獣として覚醒した獅子の魔獣の比ではない。そして場合によっては崩壊神ホーブラーとも……。


「おーい」


 ストックは言っていた、設定には従いたいと。ナノハは言っていた。折角だから恋がしたいと。トリ、ト……トリカブト?も、ああなったのは自分を醜く造った主への反抗心からだ。


 みんな自由だ。


 なら自分はどうだ、バスターをこのまま続けるのは自分の意志か。


「クロウもしかして考え込むと周り見えなくなるタイプ?」


 僕は人より強い。魔獣災害を阻止する才能がある。でも今となっては命を懸ける必要まであるバスターを続けなくても、危険でない仕事なんてものはいくらでもある。そもそも働く必要がないぐらいには十分な資産がある。ユウがゲームを続けていくうちに溜まったものだ。

 シアーズの言葉通りならば近いうちに行われるボルツェンカボーネ接触作戦。それはたしかに人類のためには必要なことかもしれないが……。


「他の道を探すのもアリかな……」

「えっ?じゃあ寄り道でもする!?」

「……」


 ……少し逃げてみるのも、道かもしれない。



 セレマの街は海に面し東へと行くほど活気にあふれる。野菜や果物の露店や海の向こう側からの輸入品、勿論漁業資源も豊富だ。都市を囲う城壁も海面ばかりは届かせない。誰かに操作されていない今ならば、服や装飾品を衝動買いだってできるし、食べ歩きをするのも自由だろう。…太るかもしれないことを除けば。


「今日のお仕事は中止、ここを見て回るよ」

「おー!わぁーーい!!」



 行き交う人々はかなりの数、道を埋め尽くすということはないが大盛況だ。

 あちらこちらに色んな人がいる。


「ねぇねぇ!まずは何する!?」

「そうだね……お腹が空いたし、海……エビでも食べようか」

「エビ!それならこっちにいいお店があるんだよー!」

「わっ ちょちょちょ」



 エビ・フライ。サクサクでプリップリ。ナノハの覚えた屋台の匂いは猛烈に食欲をそそり、口をアチッと傷つけながらも快感が喉を通る。


 外つ国の服。少々派手で前衛的。クロスマギアはある一つの大陸の物語、ではその大陸の外はどうなっているのかと思いを馳せる。


 奇妙な素材。堅い殻のようだが巨大な爪だという。これは外の国の魔獣なのか、聞いてみると山のように巨大な四足獣だという。他にも見たことのない竜の鱗や獣の皮等以前は見なかった物が豊富にみられた。


 今度は刺身。薄くしかし美しく。セレマではあまり浸透していない食べ方だが腕のある者が振舞ったそれは独自のソースと絡み合い奥深い味わいを……


「……ふぅ」

「んー?オサシミは合わなかったかな?」

「そうじゃなくてさ」


 ナプキンで口元のソースを拭き、席の背もたれに暫し身を預ける。


「ほんとはもう、戦わなくていいんだろうなぁって」

「…!」


 ユウはゲームをかなりやり込んでいた。クロウを通すことでそれを間近で見続けていたナノハはその言葉に意外だという驚きを見せる。



「僕達がこうして誰にも縛られず自由にしてるということは、もう…命をかけなくてもいいっていう、許しなのかも」


 屋根立ち並ぶ店々の外、海の上の空ではカモメ達が舞っている。


「でももし魔獣にやられても、アイテムで復活できるんじゃない?」

「効くとは思えない」

「何でそう思う?」

「根拠は…無いけど」

「じゃあ試してみればいいじゃん」

「もうゲームじゃないんだよ。試したい人なんて、いるわけないでしょ」

「あっ……うん。そう、だね」

「それに、そういうことじゃない」

「うん………」


 カモメの内1羽が商品を取ろうとしたらしく、居合わせたバスターが咄嗟に握り潰す。


「……それで……どうするの?これから」

「わからない」


 クロウは代金を置き、立ち上がる。


「……ちょっと一人で回ってくるよ」

「………」


 わかったとかうんとかそれっぽい言葉は思い浮かんでくるものの、ナノハはついに声を返せなかった。



「お客さんお連れ、どうかしたのかい」

「……多分、怖さを知ったんだと思う」


 カモメを殺したバスターは、流石に鳥がかわいそうだ、と責められていた。

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