第14話「森の中のオラクル」 Part3
「……まぁこれは置いといて、とにかく周りを調べてみます。きっとそこも僕達の任務ですから」
「んじゃ、行きますか!」
「ハ ナ は ダ メ」
意気揚々と向かおうとしたナノハの肩に手をかけて無理矢理連れ戻す。
強くハッキリと引き留めたが、何も彼女のことが心配なわけではない。
「むぅ、ホントにもう大丈夫だってば!」
「ちゃんと防衛もしないと。元凶を調べる間ここを放っとくの?」
「んー…仕方ないなーもう」
実際のところまだ“アテ”と言えるものが無い。
闇雲に探すようでは時間もかかるだろうが差し迫った危機である現状、“虫よけ薬”の無くなった“拠点”を放置するわけには行かない。
「じゃあ行く。でももし気が変わったら、セレマに退避してください」
「余計なお世話じゃよ」
「あっ、ヘンクツそう」
「誰がだ」
このほんのわずかなコントの隙に、クロウの姿は消えてしまった。
行ったと分かったこともあり家へ戻ろうとナノハに声をかけるが、当のナノハは少しの間そこを動かなかった。
「なんか、最近多いな。こういうの」
「……まだ続けたい事項がある。何か来た時は守っておくれよ」
「……わかってますっ!」
きっとサブ老人ほど長く生きた人物でなくとも、愛想よくはにかむ彼女に翳が見えたに違いない。
フォングレストの奥のそのまた奥。クロウはここまで来て尚深い木々の間を駆けまわっている。
ゲームで言えば序盤の序盤であったこの森も現実化してしまえば迷いやすく不意打ちもされやすい面倒な地形だ。しかも、今クロウが巡っている深奥部は高難易度エリアとして用意されたもの。
通常は近づくと警告の字幕が出て知らせるはずだが、そんなものはどこにも無かった。
その内調子に乗って折角得た魂を無駄にする、無警戒にして軽率な狩人が現れるかもしれない。
幸い、クロウはこの区域であってもそう苦戦しない実力を持っていた。ぽつぽつと現れるベロスを始めとした魔獣の弱点を的確に斬り処理していく。
後手にならないよう素早く、気付かれずに、一撃で。攻撃の威力や急制動に関するいくつかのスキルを駆使した一撃離脱の闇討ち。
実のところ魔獣とは雑魚敵と位置付けられていようが強大なもので、今の彼女であっても何かのきっかけで窮地に陥る可能性はある。
その魔獣の中でも弱いとされているベロスとて、一体がかつて物理攻撃力を上昇させるために行っていた咆哮を上げれば、他の魔獣を呼び寄せる警報装置と化す。
いくら一撃で屠れるといえども相手の手数が多ければ対処も厳しくなっていく。
クロウは元凶となる何かを探しながら、そうならないよう淡々と、狼の偽物と時々混じる他の魔獣を処理していく。
(めぼしいものは見つからないな)
当てが無くても探索するしかない、とは思ったもののだからこそ難航している。
無計画ならば無計画らしくのローラー作戦でもあったが、魔獣包囲の手掛かりは一向につかめない。
そもそも、魔獣の大量発生だけならまだしも、本来彼らが嫌う物質を今踏み越えるようになった原因ともなればもはや突然変異でもしたのかという浅い考察しか考えられない。
一旦昼食にとウインドウからパンを取り出して噛り付くが、むしろ胸騒ぎは大きくなっていく。どうにも成果が無さ過ぎて苛立ってきているようだ。
パンを咬み千切る勢いは徐々に増し、少し喉に詰まりかけると焦って水筒を落としてしまう。しかし落ち着いて拾うことはせずにマナを水属性の魔法として少し流し込む。だが、それは喉を潤すどころかむしろ焼いてしまい、慌てて【キュアー】による回復を行う。その後にようやく水筒を拾って水分を飲み込んだ。
なぜこんなことをしたのか、そう思うとより一層怒りが湧く。
奇行による恥ずかしさなど微塵も無い単純な怒りだ。
「……近くに、いる、な……」
内から湧き出る怒りをなんとか抑え込み、真相に触れんとする。
こうなれば何が潜んでいるかなどは分かりきっている。こんな事態の原因になり得るのはひと月ほど前接触したあいつだけだ。
「ウォォォォォォ!!」
少し進んで森の出口付近。そこで雄叫びを上げているのは黒色の神、
「ボルツェン……カボーネ……!!」
その男神は戦っていた。彼が生み出したはずの存在である魔獣、その数数十体にも及ぶ軍勢と。
「神晶…黒波ォォ!!》」
その叫びと共に地面から黒色の結晶体が飛び出し、津波のように魔獣ごと覆いつくした。
結晶体は彼の見渡す限りを針山へと変え果て、荒々しき凶黒の本質を見せつける。
「……フゥゥゥーーゥ……」
正に一呼吸置くことで怒りを鎮めると同時に、針山も砕けるように飛散した。
欠片は大気に吸収されるように散っていき、跡形も残らない。
自らの眷属であるはずの敵対勢力はそれこそペンペン草ごと刈り取られ、辺りにあるのは静寂だけであった。
「おぉっ…と」
「む?」
ボルツェンカボーネが気を落ち着かせることでクロウに降りかかっていた感情の暴走も収まる。
すると余りの憎悪にこわばった気持ちと筋肉は過度な緊張から解き放たれ、抜けた力が身体をよろめかせた。
「……えっと……」
それを発したのはクロウではない。
まるで恥ずかしい場面を見せてしまったと縮こまるように気まずく、男神は呟いたのだ。
「ボルツェンカボーネ」
「ボルツでいいと言ったろう?」
負の感情の化身であるというその男は変わらず気さく、自らを愛称で呼ぶことを促す。
「あなたが原因、なのか?」
「お前はいつか我らの所に来た連中の一人だな?……見てたのか?」
「黒い、結晶…だけ……」
「そうか……」
見上げるような巨体が屈んでそう訊くと、少し項垂れた。
「ってか、それじゃあお前、影響受けたろ!?大丈夫か!?」
「えっ……ま、あぁ……大丈夫……」
「ならよかった」
その心配のしかたにかつての“章ボス”の威厳は無い。
ただ、気にかけてくれる大人のような、包容力と頼もしさが不思議と存在していた。
ぼるぼるさん技名ぬるぬるしがち




