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第14話「森の中のオラクル」 Part1

手段は選ばないと(活動報告で)言ったァ!!

そんな物議を醸しそうな導入

「…………」

「そ、その……なんだ。ナノハ君?」

「…………」

「クロウ、えっと……助けてもらえないか?」

「こ、こっちに振られても」

「いーかー?私はね、怒ってるわけじゃないのよ」

「わわ、分かってる。その、生理……」

「テメェにはデリカシーは無いのかァァァ!!」

「がぁぁぁぁッ!!」

「……帰りたい」



 ナノハ・サイネリアは不機嫌だ。


 身体の奥底の鈍痛、そこから始まり頭痛や苛立ち、吐き気やむくみの場合まで。その内のいくつかまたは全てが1つの身体を奪い合う。


 つまり……現実化の弊害として、女性が月に一度体感する苦しみが重くのしかかっている状況だ。


「クロウだってこんなッ…!こんな世にも恐ろしい苦しみを」

「その…」

「何!?」

「うぇッ!?ぼ、僕実は軽くて……」

「うわぁぁぁぁん味方が裏切ったぁぁぁ」

「はわわ……」

(あのクロウがあざとい反応を…!?)


 一周回って冗談のような雰囲気だが、本人からすれば深刻な問題ではある。

 それを知らずに呼び出したが故にペイガニーはほとほと困り果ててしまっているようで、ナノハのいつものマイペースさとは違う(ような気がする)爆走に振り回されっぱなしである。


「とにかく、本調子じゃないなら仕方ない。別のバスターに頼んでみるよ」

「わかった……」


 一旦、素直に諦めるとする。が。


「んだらばとっとと行くよ!」

「え、僕も?」

「あー待て待て」

「?」


 話はまだ終わっていないとばかりに呼び留める。


「こんな依頼が届いている。“サブ・アローンを救出してほしい”」

「サブ・アローン…?」

「えっと……誰だっけ……」

「馴染みはそこまで無い?じゃあそうだな……」



 森の中に住む、ヘンクツながら腕のいい薬師のおじいさん。そのような逸話がセレマにはある。


 彼は病の流行る度に俗世に現れ、薬を売っては戻っていく。

 魔獣の近づかない不思議な森の奥、静かな屋敷で一人研究に打ち込み続けるそのおじいさんはその態度とは裏腹に人々に慕われている……。


「よくありそうな話だけど、魔獣が近づかないんでしょ?救出って?」

「索敵隊が接近を確認した」

「なっ…!」


 普段一切の敵を近づけない聖域のような場所、其処で一つのことに打ち込むということは脅威への対策が緩みやすくなることでもあるだろう。

 現に今クロウも「ならいいじゃないか」と油断していた。


「それも大勢、まるで他の地域と同じぐらいの密度を確保するように…だ」


 しかもその渦中にいる薬剤師は老人だという、明らかに放ってはおけない案件だ。


「そのおじーちゃん強い?」

「こちらにそのような詳細は無い。ただ、敵は多い。早めに行って一応の安全圏であるセレマに匿わねばならないだろう」

「ふーん、私達を呼び出すほどじゃなさそうな依頼だけどやってやんよ!!」

「いやクロウだけでナノハ君には休んでもらって……」

「舐めるな!ハンデだハンデ!!」

「大丈夫なの?」


 通常、生理中と称される期間に激しい運動は推奨されない。

 接近する敵に対応することを考えると、それは明らかに“激しい運動”に入る。


「薬の人なら、助けた後にこの苦しみをどうにかする薬を作ってもらうの!これで万事OK!!違う!?」

「ほ、本人次第……かな……?」


……ペイガニーに激しく詰め寄る様がそれに入らないかというと疑問ではあるが。


「行くぞクロォォォォォッ!!」

「えっ、わ」

「居場所はフォングレストの最奥辺りだ!気を付けろよー!」


 凄まじいナノハの行動力、ペイガニーの忠告が耳に入るかどうかで速やかに立ち去ってしまった。

 なぜかクロウをもふん掴んで。


「……シアーズかヒトシ辺りに頼むかぁ」


 ペイガニーの未だ秘める弱気さによって、結局本命を話せずに終わってしまう。

 いや、このナノハの勢いには強気さがあろうと追いつけないだろう。


 一先ずは、重要な依頼の一つを解決する目途は立ったかと、そう思うことにした。




「ほんとに行くの?」

「当然!女の子にとっては死活問題だもん!」

「サブって人のことも心配してあげようよ?」


 今回はナノハ所有のマボーグで向かう。

 桃色の機体名称“フロー・ポッド”は、愛らしい沢山の模様で彩られながらも防御特化の改造が施されており、速度はクロウのものより遅くはあるが敵陣の奥深くまで真っ直ぐ突っ込めるという荒々しい仕様である。


 とはいえ、木々の隙間を縫わなければならない森林地帯を避けて空中から突入する関係で、その突破力は活かされることがないのだが。



「奥、奥、奥……!そう、あそこ!」

「ちょっ、うわぁーっ!?」


 そう、直接突入。

 強硬突入に適した防御特化カスタムだけに運転席を保護するキャノピーは設けられているのだが、それはそれとして落下の勢いはクロウが打ちのめされるほどであった。



 ドォォーーーン…………



 凄まじい衝撃と白煙に現場は唖然とする。

 マボーグは改造を工夫しないと速度によっては蒸気が排出されるようになっているが、フロー・ポッドは煙幕として逆用できるよう敢えて機能を残している。

 それが功を奏したというのか、周りに存在する多くの魔獣はどう手を出すべきか戸惑っているようだ。



「……急ブレーキはしたでしょ!?墜落なんてしてないの!」

「急ブレーキをするような、ゴホッ、過激なっ…運転は!やるんじゃないのッ!」


 白煙の中、朧気に映り始める影はそんな言い争いをしていた。片方はふらついているが。


「えーっとどれだろ」

「どれって?」

「こういう時に使うスキル」

「えーーっっ…風系?」

「【蒔風斬(ソーイングソー)】!!」


 一気に白煙が霧散する。


 同時に現れたのは緑色の混じった竜巻で、次第に右、左、とうねり始める。

 付近の魔獣のうち魔法のような飛び道具を扱える者は直感的にその中心を敵だと認識し、思い思いに打ち込んでいく。

 しかし竜巻の勢いはその全てを跳ね返し、それどころかうねる速度を上げて突っ込んでくる。


 魔獣は危険を察知する。その場にいた魔獣のうち多数を占めていた獣の姿をした者は四足の速度で速やかに離脱、残った僅かな人型及び不定形種族は抗戦の意志を見せるが、元凶の力強さは尋常ではなく、森を揺らす豪風が去ると共にその身体を2つに分けた。



「フ……決まった…」


 覇者ナノハは右手の大剣を斜め後方に構えたまま、悦に浸っていた。


「……おええええ!!」

「!?ハナ!?!?」


 が、大技の代償は大きかった……。


「目、回った~~気持ち悪いーー……」

「体調悪いって言ってたのにこんなことするから……」


 蒔風斬、風属性を纏った大剣での高速回転斬り。

 竜巻となるほどの勢いの内部では、不調のはずのナノハがぐるんぐるんと回り続けていた。

 大変革より以前ではきっと気にならなかったこと、そうでなければ三半規管に畳み掛けるほどの回転技の実行などしなかっただろう。



「あ、あのぅ……」


 ほんの少しの風で消えそうなほど小さいが、警戒していたクロウの耳に聞きなれない声が聞こえてくる。

 声の出所が後方に存在する家屋であることは容易に予想ができた。


「……無事ですか?」


 本当にヒトの声か怪しみながらもまずは確認を取る。


「あ、あぁ……何があったんだ?」


 玄関から徐々に姿を見せる何者かは、少し小柄なお爺さんだった。



「あなたがサブ・アローン、さん、ですよね?」

「そ、そうだが」

「魔獣が接近していました。おそらく今のだけでは終わらない、セレマ内に避難を」

「だ、駄目だ」


 サブと特定された老人はそれを突っぱね、奥へ戻ってしまった。


「あ゛ー頭痛い」

「うん。本当に」

「うヴッッ!!」

「本当になんで回ったの!?」


 と思うと、小走りの恰好でサブは近づいてくる。


「あ…」

「吐き気にはこれが効く。使いなさい」


 渡されたのはクリーム状の即ち軟膏、木が原料の皿に大匙程度に盛られている。


「頭と首の間辺りに塗るといい」


 軟膏が効くという印象に至れないクロウだが、腕がいいとは聞いていたため信じて従ってみる。

 へたり込んでいるナノハの、桃色の長い髪を掻き分け、該当すると思しき部分に人差し指で塗っていく。


「わ、笑わせないぇ、あ、あ、」

「どう?ハナ」

「流石にすぐには効かない。どれウチに入りなさい」

「わ、わかった」

「うぅーん……」

現実化した世界だから体調に気を付けなくちゃいけんくなった。悲しい。

でも病気系苦手だから、やっても風邪みたいなのとか状態異常だったもののことに留まると思う

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