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第2話「キャラの一人歩き」 Part3

 恐ろしい脅威に関する会話に割り込むように、外に車輪の地ならしと馬の足の音が聞こえる。それが組合の前で馬の短い声と同時に鳴り止んだことに気付くとシアーズは立ち上がる。



「おっと、俺はそろそろ仕事に行くとするかね……まぁ、あの結末からしてボルツェンカボーネ以上の脅威は無いと思いたいがな」

「色々ありがとう」

「いいよ、手持無沙汰の解消になった。“くろのサザンクロス”殿には不要だろうが、何か困ったらまた……」

「うん、ん?その二つ名」

「あん?」

「まさか ああああ、君が広めたんじゃ」

「あの超高難度レイドボスのトドメな。あの後参加してた連中みんなそう呼んでたぜ」

「……」


 クロウ、苦笑。


「まぁ1人にしか教えてない、二つ名呼びは小っ恥ずかしいもんだからな」

「お、教えてどうするのさ」

「悪い悪い……つい、な」


 1人にしか教えていない……クロウはふと思い出す。


「ちなみにそれ、もしかしてトリカブト……アットなんとか?」

「ん?違うぞ」


 意外な言葉に少し背筋がぞわっとする。一瞬で予想できたシチュエーションは、「シアーズと他の誰かの会話により小っ恥ずかしい無認知の二つ名がその場にいた人達に知れ渡った」ということ……。


 何らかの危険に繋がるというわけではないが、いい気分でもないのでくぎを刺す。


「……もうその二つ名のことは話さないで」

「わかったわかった。じゃあな」


 組合を出たシアーズはそのまま馬車に乗って去っていった。



「そんなに嫌かな?玄のサザンクロスって」

「少なくとも僕には」 (それに、あの技は――)

「ふーん……しおん達の世界では女子の一人称が“僕”の時点でイタいらしいよ?」

「えっ」

「よくわかんないけど」

「……まぁこの方が性に合ってるから、そこは変えないけどね」

「うんうん、気にしない方がいいのっ」

「でも二つ名は気にする」

「えー」


 なぜか残念がるナノハを無視しながら他に聞き込みをしようとするが、ちょうどクリケが任務や依頼を記した書状を持ち込み他のバスターが集まる。情報収集はここで打ち止めらしい。


「しかし、ホーブラーか……なんかもう懐かしいや」

「実装されたのいつだっけ?」

「さぁ……なんかちょっと月日の感覚が変な感じするし」

「あ、私も私も。記憶とか経験がちゃんとあるみたいに感じて、何日前があっちの何時間前かって感じだよねー」

「何にしても、もうアレとは戦いたくないよ」


 ナノハはいつも通りといった調子だが、クロウは少しの冗談っぽさを言の葉に含めながらも表情は浮かんだ気の無い真顔でいる。



 暫くして、二人は森の開けたところに訪れる。


 道中で複数のベロスを捌いたためか返り血を付けながらその広場の中央に居座る生物を睨む。


「いたねぇ」

「うん」


 関節や背中に翼を生やした筋骨隆々の獣。掲示板にもあった、その名はメガシシデビル。

 かつては初心者の登竜門、今はただただ危険な害獣だ。



「用意は?」

「アレ相手に手こずることなんて私達には無いでしょ」

「そうだね」



 談合の終了と同時に二人で飛び出す。


 しかしメガシシデビルもケモノ、五感のうち優れたどれかでとうに2人のことは察知していた。いや、かつてただのエネミーキャラだった彼は、世界の変容を経てまともな獣ともなっていたのだ。


 それを知る由もない二人だったが、奇襲の一撃必殺が通用しないことを一瞬で悟り両側を挟むように広がる。バスターに備わった戦闘能力ではなく、本人らの反射速度に衣服で加速した身体という素のセンスと装備の恩恵だった。


(気付かれてた……でも火を吐く以外に芸は無いはず)


 かつての知識に囁かれ、懐に潜ろうと接近する。例え筋肉量で殴られようとも回避する自信はある。

 大柄な敵に阻まれ見えてはいないが、ナノハの方も概ね同じ動きを取っている。

 同時に接近されながらもナノハに火を噴きクロウに腕を振り下ろす。

 器用に対処する獅子の悪魔は振り下ろした腕に手応えが無いことに気付くとそこでバランスを失う。

 ナノハに撃った火の息は吐く以上の速さで身体の更に内側へと回避され、反対側では左手の剣を大きく振り上げられていた。


 獅子の意識はずしゃっ、と重く弾けるような音を捉えていたが意識は対処の前に途切れる。身体の前半身と後半身が分かれていることが、彼の最後の感覚だった。



「ちょっと油断したねー」


 相方と位置の入れ替わったナノハは呟くように話しかける。


「……返り血の匂いでも嗅がれたかな」

「そんな要素あったっけ?」

「少し冗談だった。でも僕達が人間で、この魔獣は獣だった……と考えれば不思議は無いか」

「犬かなぁ?ネコ科みたいだけど」


 余裕の見える言葉と感情とは裏腹に、クロウは頭の血がサーッと引いていくのを感じていた。何だ?無意識に何かを感じている?

 魔獣が動物同様になったと考える中で、羽虫やネズミですら意志を得たという言葉を思い出す。そして、その矢先――


<!!!!!!>

<!!!!!!>


「なっ……!」

「ッ!」


 メガシシデビルがもう2体飛び掛かってくる!

 完全に油断していたのは意外にもおちゃらけたナノハではなく普段からクールなクロウの方だった。

 逆にナノハは瞬時に戦闘態勢を取り戻し、自分にかかってきた方を大きな刃で即座に分断する。


「――効かぁぁぁぁんっ!!」


 ドサッ、肉が転がって一息。そしてこの勝鬨。



「んむ?うわあああクローーウ!?」


 ただしもう1体は、クロウに覆いかぶさり攻撃を続ける。

 四足で四肢を踏んで固められ、頭を狙う咬撃こうげきは右へ左へギリギリ振り避ける。


「今やっつける!」

「くっ……!」


 ヒトの2、3倍近くはある体躯で押し付ける強大な魔獣。しかし、クロウは油断してやられるようなシロウトではなかった。

 装備補正を着た自分でも不思議に思う、巨体の質量にも潰されてない四肢のうち腕二本を無理矢理跳ね上げる。


「やあぁぁぁっ!!」

<!!>


 即座、双剣で吶喊とっかん

 魔獣メガシシデビルの3体目は腹を突き・裂かれて絶命した。



「はぁ…はぁ…はぁ……」


 それと同時に、倒れた獅子の隣で力が抜けたように膝をつく。


「……らしくないな、クロウ」

「はぁ…はー……ふぅ。そう、だね……」


 その能力自体は即座に反撃したナノハを上回る実力者。彼女はかつて玄のサザンクロスと呼ばれ、一部で伝説となった。

 それが、奇襲とはいえ序盤のボスにこれである。


(力、すぐに入らなかった……)


 手足の感覚を確かめた後、呟く。


「……帰ろうか」

「…さんせい」

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