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第13話「ストレイ・アストレア」 Part2

「あなたは……」


 受付の人が、僕のことを見て呟いた。


「な、なんですか……」

「ごめんなさい!なんでもないの」


 僕を見て何かを思ったのは明らかだけど、少なくとも嫌な視線ではなかったと思う。理由は少し気になる。


「それで、そこに不良が(たむろ)してた、と」

「グレた連中もいつかはどうにかせにゃならんな…だがまず…」


 シアーズさんは僕のことを心配してくれている。少し暖かい。


「依頼を受けよう!」

「へ?」

「え、今このタイミングでですか!?」

「俺と、このアストレアでだ」

「シアーズさんそんな空気読めない人でした?」


 正直何を言っているか分からないけど、僕を指名と聞いて悪い気はしない。問題は僕がこの人について行けるかどうかだ。


「こいつも前からウジウジしてたろ。だからここらでシャキッとさせる」

「な、何言ってるんですかシアーズさん」


 僕はシアーズさんを止めようと口を出した。でもそれにかまわず受付の人を窓口へ戻して手続きしようとしている。


「というわけでいい感じの案件無いか?」

「もう……じゃあその“いい感じの”を詳しくしてください」

「あるはずだ、まだ実施されていない調査が」

「分かって言ってますね?じゃあえっと……」



 受付の人がシアーズさんに言われて何かを探し始めた。他に来ている依頼を探しているんだろう。

でも、僕はもうここには来たくなかった。何とか抜け出そうと周りを探す。


 外からはシアーズさんが待たせている大きなお供を見て騒ぐ人達の声。入ってすぐには出入り口付近の掃除をしている人。そのまま開けたところに3人で話している人達。猟銃のような武器が立てかけてある。そして……歴戦の強者シアーズさん。


 無理だ、こんな強い人が僕に着目しているから抜け出せるかどうか……。


「あった!ありましたよ!」


 受付の人が突然声を上げた。

 びっくりして伏し目だった視線を向けなおし近づいてみると、書類を提示してその中身を説明し始めた。


「えっとですね、“トレストレスの沼”という地域です」

「トレストレスか……他には?」

「今のところはこれぐらいですね。今は各地の探索情報を整理してて、ここだけが残ってるんですよ」


 トレストレスの沼……難易度が高いというのは聞いたことがある。それしか聞いたことが無い。

 情報が無いというのは不安だ。だから調査をしてという依頼なんだろう。

 でも不安なのは僕だって同じ……自分から行こうなどとても思えなかった。


「分かった」

「ここを踏破すれば、より遠くを探索できます」

「まさにゲーム攻略だな」

「あの……!」


 僕はシアーズさんに聞いてみた。


「シアーズさんって、こういう…戦うお仕事のことをどう思っていますか?どうして……続けようと思ったんですか?」


 シアーズさんの答えはすぐには出なかった。言いたいことを整理する風じゃなくてもっと迷ったような印象がある。


「少し興味ありますね、初めから今までバスターでい続けるタイプの人の気持ち」


 受付の人も乗ってきてしまった。シアーズさんも困り果てて。自分のことを話すのは苦手なのだろうか?


「……まぁ……アレ、だな」

「アレ、ですか?」


 重い口を開けるように切り出した。


「自分のことに納得しているから、というかなんというか……」

「納得…?」


 つい疑問を投げかけるように言葉が漏れてしまう。シアーズさんはかまわずに続けた。


「俺はなるべくしてなった、これが一番性に合う、そんな感じだな」

「バスターとして作られたから、バスターをやってるってこと?」

「少し違う。どんな世界だろうと人の前に立って道を切り拓く…それこそがバスター、そして俺そのものなんだ…ってな」

「道を切り拓く……」


 言葉それ自体は格好良く思えた。

 いや、聞くと自然にそう思えてしまうようなオーラがこの人にあるからこそ、そう思えたんだろう。渋く経験を感じさせる声に。力強い鎧の恰好に。しっかりとした姿勢のよさに。


「世話焼きのシアーズさんらしいですね」

「そうかぁ?」

「あ、ここにサインをお願いしますね」

「おぉ」


 かと思ったら世話焼きと言われてとぼけたけど、照れ隠しなんだろうか?一気に気さくな風になった。


「さて、主の世界ではこのバスターのような仕事を俗に“冒険者”とも呼ぶらしい」


 書類にサインを記して直後、その人は翻った。


「漕ぎ出そうじゃないか。俺達の“冒険”へ。拓くための前進にな!」



 いつの間にか僕はその気になっていた。どうしてだろう?よくは分からないけど……まぁ、1回ぐらいは。それぐらいのことを考えていた。


 でもこうも思う。もし、僕が強ければ……こんなにいじけることは無かったんだろうか。そう思わせるぐらいシアーズさんは自信に溢れていた。

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